「やっと着いた…」
何気に十数時間座ってると言うのは、肉体的にも精神的にも辛い…
「いささか、肩が凝ったな…」
少し離れた所で千冬が肩を回す…
「取り敢えず…ホテルへのチェックインを先に済ませてしまおう…」
「そうしようか…」
と言うか、今思えばホテルへの予約も自分たちでやらないといけないのホント何なのか…ゲスト扱いの私はまだ良いにしても、正式に代表やってる千冬までこれって……
「おい、行くぞ…」
「うん…」
気付けば飛行機に乗った当初のテンションは既に失われている…ハァ…もうとにかく一旦座るか、横になるかしたい…
「来て早々、咥えるんだな…」
「え?……あ、ごめん…聞くの忘れてた…」
千冬に指摘されて、初めて私はタバコを口に咥えているのに気付く…いつ出したのかも全然記憶に無い…口からタバコを引き抜こうとしていた私に千冬が声を掛けて来る…
「別に今更しまわなくて良い、吸うならとっとと吸え。」
「そう?じゃあ吸うね…」
火を着ける……ふぅ…?
「えっと…どうかした…?」
横の千冬から何やら妙な視線を感じる…
「いや、こうして改めて見ると妙に様になっている…そう感じてな…」
「そう?私はずっと…千冬の真似をしてたつもりなんだけど…」
「私の場合、所詮はガキが背伸びする感覚で吸ってた意味合いが強いしな…だが、今こうして吸ってるお前はそれが自然に見える…何より…」
「何より…?」
「綺麗だな、と。」
「……本当にどうしたの、急に?」
「素直な感想を述べたつもりだが?」
真顔でそんな事言われると、何か滅茶苦茶照れるんだけど…
「えっと…早くホテル行かない?」
「もう少し見ていては駄目か?」
本当に、訳が分からない…
「ホテルの予約の時間までまだ余裕有るみたいだし…ここに居るって言うのは構わないけど…」
まぁ、いくら路上喫煙OKでも…歩きながら吸うのはそもそも行儀が悪いし、マナー的にもちょっと良くないしね…
「と言うかお前、ライターは安物使うんだな…」
「ハァ……んー…どうしても良いやつって、維持するのに色々お金掛かるんだよね…」
比較的定番なのはZIPPOライター…使った事が無い人の多くは、アレを経済的だと思ってたりするけど…実は結構デメリットは多い…ヘビースモーカーの人には馴染みの無い話だけど、例えば燃料になるオイル…あれってライター本体に入れてしばらく放置すると全部気化して使えなくなるんだよね…保管環境にもよりけりみたいだけど、大体早くて二週間前後でもう駄目…そして頻繁に使ってる場合でも、着火する為に擦る石もすり減ってやがては交換が必要になるし…それから火種になる紐、所謂芯も定期的に交換が必要…私もZIPPOは当初使ってたけど、正直経済的にはあまり良くない…
そして、私の知る限り…ZIPPOは必ず底にロゴの入った高いのを使うべき…これがまた最初の購入からしてそれなりにする…まぁ、実はオイル、石、芯…これらも安物は禁止…着きが悪過ぎるし、何ならオイルの方は安いのは気化するのが高いやつより早い…
じゃあガスを注入して繰り返し使用出来るガスライターを選べば良いのかと思えば、これも良いやつは値段が高い…何より交換時の手間がねぇ…ガスは完全に液体のオイルと違って、空気に触れると目に見えなくなるし…入ってるんだか入ってないんだか分からなくて、もうとにかく使いにくい…
……まぁ、ガスライターに関しては苦手要素の方が大きいけど…結局経済的にはアレだから、結果的に使い捨てライターに落ち着くんだよねぇ…
「……千冬があの頃使ってたのはZIPPOだったっけ?結構お金掛かったでしょ?」
「まぁな、ちなみにそれが当時…私が吸うのをやめた理由だ。」
「あー…やっぱりそうだよねぇ…」
そもそも普通の学生がバイトだけで、アレ維持するのは本当に厳しいと思う…ただ、中学生や高校生がタバコ吸おうとする時って大体ZIPPO選ぶんだよねぇ…不良漫画とかで主人公がタバコ吸う時に使うのが大体アレみたいだし…ちなみに、学生人気が高いタバコの定番は私の知る限り赤いLARKと同じく赤のMarlboro…ただ、笑えない話するとどっちも結構懐が寂しくなる値段だと思う…何かもう学生が吸いたがるのって多くが創作物の影響だと思うけど、そこら辺の事情も書けば安易に吸う人居なくなる気もする……まぁ、そんな話素直に面白くないとも思うけどね…
「ふぅ……そう言えば、千冬が吸ってた銘柄は何だっけ?」
「セブンスターだな。」
「あー…」
学生人気としては多分次点、正直あまり選ばれないタバコだよね…
「大体、私の影響だの言ってるが…今お前の吸ってるのは何だ?」
「……ハイライト、ちなみに気分で毎回銘柄変えてるよ。」
「贅沢な事してるな…」
「自分で稼いだお金なんだから良いじゃない…で、今はもう無いけど前はタバコ屋が近くに有ったからね…色々吸ったよ。」
ま、今はコンビニで売られてるのしか買う事無いけど…
「それはともかくとして、お前初めから結構強いの行ってなかったか?」
「ふぅ……せっかく買うのに、軽いの選んでもねぇ…」
「最初の内は、盛大に噎せてたのは忘れてないからな?」
「忘れてよ…」
割と恥ずかしいんだから…
「ま、今はこう…吸い方に気品を感じると言うか、綺麗と感じる訳だが…」
「あの…いつまで続けるの、この話…」
ドイツの人たちは日本語はさすがに通じないかも知れないけど、結構照れる…
「とは言え、そうなってしまう程…お前が吸い続けてる事に対して、思う所が無い訳じゃないんだがな…」
「……ま、その内やめるよ。」
憧れで始めたのが習慣化して、今は半ば依存になってるとは思う…でも…
「ん……そろそろ行こっか。」
火を消したタバコを携帯灰皿に放り込む。
「もう良いのか?」
「だって、吸える場所の有るホテルだから。」
「お前と言う奴は…」
「ほら、早く行こ。」
「おい!まだ話は終わってないぞ…」
ハッキリ言われてないけど、千冬の言いたい事は何となく分かってたり…だから私も口に出してそれに返事なんてしない。……私はね、最初は確かに貴女に憧れて吸い始めた…それは確か。でも、結局今は私の意思で吸ってる…だから、貴女が今更責任を感じる必要なんて無いの。
それにさ…完全にやめたら多分、私は…貴女と二人きりで普通に過ごすなんて…きっと出来無いから…
「……ねぇ?」
「何だ?」
「いや、ホテル決めたのは私で…部屋の予約の連絡入れたのは千冬…そこは良いの。でもさ、何で相部屋にしたの?」
「嫌か?」
「別に…そうでは無いけど…」
嫌じゃない、嫌じゃないけど…海外来て相部屋とか、私が我慢出来無くても責任取れないよ?
「なら良いだろ。」
キャスター付きのスーツケース引きながらスタスタと歩く千冬の後ろをついて行く私……ハァ…これで誘ってる訳じゃないとか、本当に私はどうしたら良いのか…