ゴジラ バーニングブラッド feat.リバイス&トリガー   作:ホシボシ

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第10話 Last battle 『対 ゴジラ』

 

ここはどこだ?

 

過去だ。

 

過去か。メイはぼんやりとした思考を巡らせる。

 

なぜ過去に?

確か、戦いが終わってアンタレス本部に戻ったはずだ。

しかしここは別の場所だ。どうしてだろう? メイは『そこ』にいる人に聞こうと思ったが、僅かな躊躇いがあった。

 

あなたは誰なんですか?

そう聞いたが、ぼんやりとした実体のないシルエットは答えなかった。

もしかしたら悪魔であるバイスを憑依させて変身してもらったことで自らの中に眠るそういった存在が浮き彫りになったのかもしれない。

あるいはそれに近い存在。インファント島という場所を考えれば、ない話でもない。それは名前をつけるとすれば天使とでもいえばいいか。地球の使いだ。

 

また別の可能性があるとすれば、カイザーとしての能力。

テネはカイザーにも意思疎通が取れる対象の差があると言った。(ここでは知る由もないが、ネオがヘドラと心を通わせてるように)

それで言えばメイが最も声を聴くことができる存在はゴジラなのだろう。

そうだ。だからゴジラの過去が見えるのだ。

 

 

「よし! いくよ! リトゴジちゃん! リトモスちゃん!」

 

「ぎゃお!」

「ぴゅぃ!」

 

 

テネはリトルゴジラとリトルモスラを連れて地下トンネルに入っていこうとした。

これから大冒険が始まるのだ。地下世界に行けば食べ物もあるらしいが、それまでどれだけかかるかも怪しいのでたっぷりお魚を食べておいた。

意気込んで入口の洞窟に足を踏み入れようとすると、そこで何かが飛び出してきた。

 

それがラドンだった。

ゴジラたちのように小さかったので、リトルラドンである。

かつて地球に隕石が落ちて、氷河期が始まり、恐竜は絶滅した。

しかしゴジラサウルスのように一部の恐竜たちは地下通路に逃げて独自の進化を遂げた。

 

ラドンもそのうちの一体だった。

地下世界に逃げたプテラノドンが進化した姿である。

ラドンはゴジラを探していた。

ゴジラを見つけると、すぐに飛びついて突っつきはじめた。

三十秒後、モスラの糸でグルグル巻きにされたラドンが地面に転がっていた。

なんてことをするの! テネは思ったが、ラドンは嘲笑のような感情を向けていた。

 

所詮ゴジラなどその程度なのだ。

メス芋虫に守ってもらうような腰抜けなのだ。誇りはないのだ。そんなチクチクとした念を込めて鳴いていた。

ゴジラは怖かったのでテネの後ろに隠れて目を赤くした。なぜだかわからないが、ラドンはゴジラを恨んでいた。

しかし覚えはない。

テネが事情を聴くと、どうやら原因はゴジラがメイを守った時のことだそうだ。

 

あの時、メイを襲ったスカルクローラーはラドンが追っていたものだったらしい。

というのも、スカルクローラーの群れがラドンたちのタマゴを狙って巣を襲撃したのである。

ラドンたちは戦ったが、陸上での戦闘能力は向こうのほうが上だった。

結果として多くのタマゴが犠牲になった。

なによりもタマゴを守るために小さな体で戦ったラドンの弟が引き際を見極めきれずに犠牲になったのだった。

ラドンはタマゴが犠牲になったのはラドンたちが弱いことが原因であり、弱肉強食が自然の摂理であることも理解していた。

しかしそれはそれとして、弟を食ったスカルクローラーを許すことはできなかった。

だからその個体が群れと離れたところを狙って、襲い掛かったのだ。

 

絶好のタイミングだったが、地下トンネルに逃げ込まれ、追っている途中で見失ってしまった。

その間に、インファント島に出たスカルクローラーがメイに襲い掛かったのである。

ゴジラはスカルクローラーを撃退したが、トドメを刺していなかった。

だからビーナスたちは気絶したスカルクローラーを再び地下世界へと帰したのだ。どうにもラドンはそれが気に入らないようだった。

 

 

「それはこの島の掟だから!」

 

 

むやみに命を奪ってはいけない。

インファントの教えをゴジラにもモスラにも伝えてある。それを守っただけだ。

しかしラドンは納得ができなかった。できなかったが、負けたことは理解できる。

負ければ死ぬのが摂理だ。ラドンはそれを受け入れるつもりだった。

しかしゴジラはラドンを縛る糸を千切った。

ラドンは怒った。

なぜだ? そうだ。なぜだ!?

腹が立つ。そうだ。腹が立つ!!

ゴジラはテネが怒っていても、ぐっすり眠れば次の日には笑顔になっていることを思い出した。

眠るといいとラドンに伝えると、ラドンはわかった寝ると言って洞窟に入っていった。

 

翌日、ラドンがやってきた。

どうしても納得がいかない。スカルクローラーを殺さず、気絶させただけのゴジラに腹がって仕方ない。

俺と戦えと言った。ゴジラを倒すことがラドンにとって何かケジメをつけることだったらしい。

ゴジラとラドンは戦った。

ゴジラが勝った。

ラドンは殺せと言ったが、ゴジラはそこで魚とフルーツを持ってきた。

ゴジラはテネもよく怒っているのを思い出した。でも彼女は甘いフルーツを食べるとニコニコと笑顔になる。モスラもおいしい木を食べると嬉しくなるし、ゴジラもおいしいお魚をたらふく食べるのは好きだった。

ラドンは飯を平らげると帰っていった。

 

翌日ラドンがやってきた。

ゴジラに負けたのが悔しいのでリベンジをしに来たらしい。

戦った。ゴジラが勝った。

ゴジラは丘の上にラドンを連れて行った。ゴジラにはよくわからないが、テネはきれいな景色を見るのが好きらしい。メイも同じことを言っていた気がする。

ラドンはよくわからないと言った。しかし海は広くて青いとゴジラが言った。

ラドンはそうだと言って帰っていった。

 

翌日、ラドンが――

ゴジラが勝った。もう来ないでほしいというと、ラドンは『では一週間か二週間に一度にする』と言って帰っていった。

ゴジラは口を拭っていた。熱線を放つと口の中が熱いらしく、口を拭うことで冷ましているのだ。効果があるのかどうかはわからないが。

それを続けている内に癖になったようで、たまに何もない時でもそんな仕草をしていた。

 

やがて、テネたちは再び洞窟の中に入っていった。

今度はより深いところまで行った。

巨大生物たちの妨害もあったが、ゴジラとモスラは助け合ってそれらを撃退して進んでいった。

 

そこでゴジラはアンギラスと出会った。

 

地下世界に逃げ込んだアンキロサウルスが独自の進化を遂げた種であった。

ゴジラやラドンと同じくらいの年齢であるリトルアンギラス。テネは一瞬身構えたが、すぐにホッと胸をなでおろした。アンギラスからは一切の敵意を感じなかった。もともと大人しい性格のようだ。

彼は口に魚を咥えており、背中の棘にも死んだ魚をいくつか刺していた。

ゴジラは小腹が空いていたので、お魚が食べたくなった。

一つ分けてくれないかと吠えると、アンギラスは申し訳ないがそれはできないと断った。

 

その時、テネは悲しみや焦燥の念を感じた。

少し気になって、ゴジラたちに相談してみると、行ってみようとゴジラとモスラは意見を揃えた。

テネたちはアンギラスについていった。

すると地下通路の外れに行き止まりになっている空間があった。

テネは顔を顰めた。悪臭がした。それは腐った魚が原因だった。

それだけではない、もっと大きな何かが悪くなっている。

アンギラスは持ってきた魚を置いた。

地下通路には光を放つ鉱石がいくつもあって、明かりには困らないのだが、そこには何もなかった。

なのでモスラに発光性の糸を出してもらう。

そこでテネは見た。腐りかけている大きなアンギラスの姿を。

 

 

「……!」

 

 

テネは口を覆った。

アンギラスは悲しそうに鳴いた。

早く良くなってほしいとの気持ちを感じた。アンギラスの父親だった。

 

 

「ぴやぁぁん!」

 

 

アンギラスはご飯をたくさん食べれば治る筈だと思っていた。

事実、前に彼が怪我をした時は父がご飯を持ってきてくれて、それを食べて休めば治ったからだ。

だから今度は自分が父のためにご飯を持って来たのだと。

父は眠っているから食べてくれないが、起きた時にお腹が空いているのは可哀想なので、たくさん運んでいるのだと。

 

 

「……っ」

 

 

テネはボロボロと泣きはじめた。

その気持ちが伝染し、モスラも悲しそうに鳴き始める。

アンギラスはまだ死という概念を理解していなかった。小さなアンギラスは大きなアンギラスの傷がよくなるように、ペロペロと舐めていた。

 

 

「ぎゃお! あおぉん」

 

 

ゴジラが鳴いた。

ゴジラは死を理解していた。

悲しいが、もう動くことはない。それを伝えるとアンギラスは弱弱しく鳴いた。

それは嫌だ。そういう意味だった。

嫌だ。もう一度鳴いた。

ゴジラは困ってテネを見た。しかしテネもどうしていいかわからない。

そうしているとアンギラスがフラフラとへたり込み、苦しそうに舌を出した。

はじめは悲しみからくるものだと思ったが、どうやらそうではないようだった。

というのも、アンギラスには傷があったのだが、そこからよくないものを感じた。

 

生命力が弱まっていくような感覚。テネには覚えがあった

祖母が言っていた。これは『毒』を抱えたものに起きる現象だ。

アンギラスは地下世界から食料を探していたのだが、その途中、怪魚の毒針を受けてしまったらしい。

成体であれば硬い皮膚が防いだだろうが、子供のアンギラスでは毒針のほうが勝ったのだ。

 

非常に危険だった。このまま放置しておけば確実に死に至るだろう。

とはいえ今のテネやモスラでは、毒の進みを少し遅らせるくらいしかできない。

するとゴジラが力強く吠えた。ふとした時に、メイの精神とリンクするときがある。彼の意思が流れ込んでくるときがある。

メイはよく横断歩道を渡るのに困っている老人の手を取って共に歩いた。

自分とそう変わらない年齢の迷子の両親を一緒に探し回った。

 

手を差し伸べる。共に行く。

それが正しいと思っているようだ。ゴジラにはよくわからないが、それが正しいのだ。きっと。

テネもよくそんなことを言っている。

そして同じような気持ちを抱けば、モスラは喜んでくれた。

モスラの心から温かいものがあふれて、それがゴジラにも伝わって心地がよかった。

だからモスラの糸をネットにして、アンギラスを包むと、ゴジラはそれを引っ張ってインファント島に戻っていく。

 

 

「……ぎゅぅう」

 

 

だが、しかし、半分ほど戻ったところでゴジラは動かなくなった。

アンギラスはゴジラとほとんど同じ大きさだった。さらに弱って、全身の力が抜けた状態のために、引っ張っていくのはかなり苦労する。

ゴジラはもう腕に力が入らなかった。

モスラも糸を伸ばして引っ張ろうとするが、あまり効果はなかった。

そもそもモスラが引っ張るとなると、糸を付着させた状態でバックする形になるためスピードが遅い。

これでは毒が回って、アンギラスが死んでしまう。

 

どうしよう。

テネも糸を掴んで必死に引っ張ったが、なんの加勢にもならない。

どうしよう。どうしよう。焦る。怯える。

ゴジラは苦しそうに唸り、糸を引くがどうにもならない。

目が赤くなった時だった。

へなちょこ共め。そんな意味だろう声が聞こえた。

 

 

「ぴゅぉ! おぉお!」

 

 

ラドンが飛んできて糸を掴むと、そのままアンギラスを持ち上げて飛んでいった。

テネたちはお礼を行って追いかけた。

だが距離はまだまだある。ラドンもどうやら無理をしていたらしい。

場所は洞窟だ。天井もボコボコで一部はツララ石まである。それを避けながらではストレスも疲労も溜まっていく。

さらにそれだけではなく糸の方が限界を迎えて、ブチリと切れてしまった。

アンギラスは既に気を失っており地面に落ちてもピクリともしない。

 

モスラはすぐにまた網を作ろうと思ったが、彼女も既に疲労からかエネルギー切れで網を構成するだけの糸を生み出すことができなかった。

そもそも糸が切れたのはこれが初めてではなかった。幼体とはいえアンギラスの背中の棘は既に立派なものであり、そこに糸が引っかかったり擦れると大きなダメージが入るのだ。

ゴジラはすぐにアンギラスの頭を掴んで後ろに引っ張ることで連れて帰ろうとした。モスラもゴジラの尻尾を噛むと後ろに下がって一緒に手伝う。

しかしズリズリと引きずれるのはいいが、こんなスピードではアンギラスの体がもたないのは明白だった。

するとラドンが鳴いた。

イライラするぜと叫んだのだ。

 

 

「あッ!」

 

 

テネは思わず声を上げる。

というのも、ラドンが爪を光らせてアンギラスの背中に爪を叩き込んだのだ。

鱗甲板はまだ脆く、ラドンの爪が深く背中に入った。

そしてラドンは叫び、強引にアンギラスを持ち上げて宙に浮かび上がった。

しかし糸を介していないせいで、アンギラスの針がラドンの足に突き刺さっている。

ラドンの足からは当然、出血が見られた。

 

 

「危険だからやめて!」

 

 

テネはそう言ったが、ラドンは無視をした。

どうしてかと聞くと、たった一言、『誇り』だと返ってきた。

どうやらここでアンギラスを捨てていくのはラドンのプライドが許さないらしい。

 

確かに、これしか方法はないのかもしれない。

するとゴジラがアンギラスの下に回り込み、大きな頭にアンギラスの腹を乗せて、垂れた足を手で掴んだ。

これでラドンの負担も軽減される。さらにモスラはゴジラの尻尾を噛み、栄養素を注入した。

ファイト一発である。ゴジラは最後の力を振り絞ってモスラをブラさげたままドタドタと全速力で走り出した。

ラドンも必死に羽ばたいてゴジラの負担を軽減した。

 

目の前につらら石が見える。

構うな! 走れとラドンが吠える。

ゴジラは言われた通り減速をせずに直進した。

ラドンは頭突きで岩を破壊してみせた。

大丈夫? テネが聴くとラドンは当たり前だと吠えたが、痛そうにしていた。

鳥頭になったら殺してやるからな。ラドンはそんな意味にもとれるメッセージを発信していた。

 

やがてゴジラたちは無事に洞窟の外に出た。

テネが必死に訴えると、島長はアンギラスに命の水を与えてくれた。

しばらくするとアンギラスは目を覚まし、元気な体で辺りを見回していた。

ゴジラとモスラとテネがいた。ラドンはさっさと帰ってしまったらしい。アンギラスはテネから事情を聴いて、深い感謝の念を示した。

しかし同時に、『生きた』ということを理解して、悲しそうに鳴いた。

 

テネがどうしていいか悩んでいると、ゴジラが魚を差し出した。

とてもうまそうなマグロだった。ゴジラは火を入れたほうが好きだったので、熱線でマグロを焼いた。

アンギラスはお礼を言ってそれを食べた。食料は全て父に与えていたため、アンギラスはほとんど何も食べていなかった。お腹がペコペコだった。

アンギラスはマグロ食べた。ガツガツガツ食べていた。

ゴジラはおかわりを持ってきた。

アンギラスはありがたく追加のマグロを美味しく頂いた。

悲しいが、美味しいので、アンギラスはマグロをガツガツ食べた。

 

あまり食べすぎるとダメになるらしいので、それは忠告してあげた。

何がどうダメになるかはわからないが、マグロばかり食べていてはダメらしい。

 

その二日後だった。

再び地下世界へ赴こうとしていたテネたちの前にキングシーサーが現れたのは。

日本の――、正確には沖縄の守護怪獣だった彼は、まずテネたちにメイを救ってくれたことのお礼を告げた。

 

なにやらキングシーサーはメイたち家族のことを知っていたらしい。

旅行会社として沖縄の海を綺麗にする清掃活動に参加していたようだ。キングシーサーは、海を汚すのは人だが、海を綺麗にするのもまた人間なのだと教えてくれた。

だがしかしなにも、たった一人の日本人を守ったからと言ってキングシーサーがわざわざ出向いたわけではなかった。

 

どうやら彼は初代キングシーサーの息子らしい。今の正式名称はヤングシーサー。

先代キングいわく、ゴジラとは人間が受けるべき制裁だと言っていたらしい。

環境を破壊した人間が作り上げた文明の破壊者こそがゴジラであり、ある程度の犠牲はやむなしと。

 

そのゴジラに息子がいた。

同じ怪獣の二世として、ヤングシーサーはどうしても彼に会っておきたかったのだ。

テネは今のゴジラは優しい怪獣であるということを必死に説いた。

確かにヤングシーサーから見てもゴジラから邪悪な意思は感じない。

彼を、あるいは彼を介してどこからか感じる意思は、穏やかなものだ。

 

モスラもテネに味方をした。ゴジラと共に生きたいと祈った。

さらにアンギラスも、ゴジラたちに助けられたのだと吠えた。

ヤングシーサーは頷き、虹色に光る宝石を差し出した。

地下世界の秘宝、アースパワーの欠片である。これをゴジラに与えようというのだ。

テネはお礼を言った。モスラもお礼を言った。アンギラスもお礼を言った。

 

そしてゴジラがお礼を言った。

ヤングシーサーは頷き、そして最後に一つ、釘を刺す。

もしもまた、ゴジラが地球の脅威となりうるならば、ヤングシーサー自身がゴジラを倒すつもりであると。

それをゆめゆめ忘れるな、と。

 

 

こうしてゴジラは元気になり、それからアンギラスはインファント島に住むことになった。

何かお礼がしたいというので洞窟の門番になってもらった。

ゴジラたちはアンギラスのところへ頻繁に遊びに行った。

テネはアンギラスにもメイのことをたくさん喋った。

そしてたまにラドンがちょっかいをかけにくる。

 

そんな日が続いたある日、モスラに異変が起きた。同じくして終焉時計の針が動いた。

人間は未だに核実験をやめていなかった。それだけではなく、人間の中にある憎悪が少しずつ積っていく。

今日もどこかで人が人を殺したらしい。

大切な何かが盗まれたらしい。誰かが誰かの不幸を願って呪術に手を出したらしい。

 

地球が一つ、ステージを上げようとしていた。

モスラの力。つまり守護獣としての力を高めるため、モスラは繭に包まった。

しばらくモスラとは会えないことを知ると、ゴジラはとても寂しがった。

 

 

そして、どれだけ時間が経ったろう。

リトルゴジラはもういなくなった。成体に近づくゴジラに、テネは『ジュニア』という名前を与えた。

ジュニアの隣には相棒のアンギラスがいた。

そして少し離れたところではライバルのラドンが『それ』を見ていた。

 

三体の怪獣には多くの傷が刻まれていた。

しかし彼らはそれに耐え、たどり着いたのだ。

目の前にある虹色の塊。アースエネルギーそのものに。

時を同じくしてインファント島。繭が割れ、モスラの羽が広がった。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「スパイラルグレネードミサイル発射!」

 

 

モゲラの両腕からミサイルが発射された。

しかしスペースゴジラは動かない。避けることも、防ぐこともしない。

ただ体に二つ、ミサイルよりも少し大きな『穴』を作るだけだ。

ナノロボットたちが動くと体にトンネルができて、ミサイルが通り抜けていく。

 

黒い風が吹いた。

クリスタルが突き刺さっている『両肩』だけを残して上半身が分離、粒子化して四散する。

高速で飛行するナノロボットの群れ。

それらはモゲラの背後で収束。

スペースゴジラの上半身ができあがると、口からレーザーが発射されてモゲラに直撃する。

 

 

「グッッ!」「アダダダダダ!」「ぐあぁッ!」

 

 

激しい揺れに三人のパイロットは唸り、モゲラもバランスを崩す。

スペースゴジラはより強力なエネルギー波、コロナビームを放出した。

モゲラはホバースライドでなんとかそれを回避してみせるが、攻撃はまだ終わっていなかった。

ビームは宙に浮かぶ右肩のクリスタル(ライトクリスタル)に直撃すると反射、そのまま左肩のクリスタル(レフトクリスタル)に当たり、再度反射、そのままモゲラに直撃する。

 

モゲラから火花が散った。

かろうじてドリルからレーザーを発射するが、スペースゴジラは両目と口から光線を発射してそれをかき消しながら、さらにモゲラに一撃を与える。

そこで上半身が粒子化して体に戻った。

やはりあの粒子化をどうにかしないといけない。タルタロスは分離し、再度合体、メカニコングはドラミングを開始して衝撃波を発生させる。

周囲のビルの窓ガラスが次々と割れ、やがてビルそのものが崩れていく。

車も吹き飛んでいくなかで、スペースゴジラはどっしりと立ち構えていた。

 

 

「なんちゅうヤツや――ッ!」

 

 

那須川は驚愕の表情を浮かべている。

以前のメカゴジラならばまだしも、極星の力で常にフルパワーで活動ができるのだ。

メカニコングはさらに追加でレーザーを発射するが、スペースゴジラはクリスタル状のバリアを張って、それを防いだ。

 

 

「愚かであるな人間。玩具の銃で戦車に勝とうとするとは。それともこれは、そういうジョークなのか? いずれにせよスマートではない」

 

 

空から球体状の宇宙船が現れる。

X星人の母船だ。中にいたバイラスは戦いを観察し、ニヤリと笑った。

それにシンクロするようにして、メカゴジラも口が裂けてニヤリと笑う。名のロボットのAIにはバイラスの思考回路が元になっているようだ。

 

 

「戯れに、望み通りの展開にしてやろう」

 

 

するとメカゴジラの体がバラバラになり、ナノロボットの群れは黒い霧のように空中を漂う。

 

 

「お! やったで! バラバラに吹っ飛んだわ!」

 

「いや違うナスさん! あれはただ分離しただけだ!」

 

 

スペースゴジラが二つのクリスタルを宙に残し、それ以外は全て粒子化した。

五つに分かれると、そこで連結合体。

クリスタル型の槍が生まれて、それらが次々と発射されていく。

 

メカニコングはそれらを拳で弾き飛ばした。

これならばと安堵するが、これも甘かった。

吹き飛んだクリスタルは地面に設置されていき、いつの間にか五角形の並びができあがっている。

吹き飛んだのではなく、はじかれた後に自分で移動していたのだ。

 

設置されたクリスタルの真上で、スペースゴジラの頭が実体化した。

浮遊する頭部は大口をあけて、コロナビームを発射。

それは空中で五つに枝分かれして、設置されたクリスタルへ直撃した。

 

するとバチバチと音を立てて、クリスタルが発光と共にエネルギー波を拡散し、周囲を吹き飛ばしていく。

さらに強いエネルギーが中央へ集中。メカニコングはまるで電子レンジの中に放り込まれたような感覚に陥った。

機内は激しく揺れ、高温になり、至る所から火花がシャワーのように噴き出ていく。警報音が鳴り響き、操縦のレスポンスが悪くなる。

 

 

「くッ、おぉおおお!」

 

 

強引に前に出ていくとスペースゴジラへ殴り掛かる。

しかし当然、粒子化。ナノロボットたちは攻撃をすりぬけながら背後で実体化した。

 

左肩にクリスタルがあるスペースゴジラと、右肩にクリスタルがあるスペースゴジラの二体に分裂。

二つの口からビームが発射されてメカにコングを撃つ。

さらにそこで電子音混じりの金切声が聞こえた。

 

ガイガンだ。

ちょうど攻撃が止んだところで着地し、メカニコングの背中を斬る。

さらに鎌を振るって斬る。

そして最後にバイザー状の目から赤いレーザーを発射した。

爆発が巻き起こる。重なる三人の悲鳴。そして最悪なことにヘドラも飛来してきた。

 

 

「いったん離れよう! このままではただの的だ!」

 

「了解!」

 

「おっしゃ! タイタンモード終了! 分離!!」

 

 

タルタロスは三機に分離すると、バラバラに散ろうとハンドルを握る。

しかし悲しいかな。スピードは出したつもりだがゴウテンはヘドリューム光線で、ランドマンはガイガンの鎌で、スターファルコンはスペースゴジラの口から出た赤いレーザーに弾かれてすぐに墜落する。

 

警告音が鳴り響き、電子音が告げる。

損傷が激しいので、修復作業・リカバリーモードに入るようだ

こうなってはしばらくは発進ができない。

脱出するしかないが、おそらく逃がしてはくれないだろう。

タルタロスの中にも極星が入っている。それを回収するために、破壊するのは当然のことなのだ。

 

 

「なんでだ……!」

 

 

カイは異形を見上げ、叫んだ。

 

 

「なんで殺した!!」

 

 

答えたのは、ヘドラだった。

 

 

『極星研究者だったからだ。他に理由はない』

 

 

ヘドラが喋ったのではない。

彼の体に埋め込まれているX星人から貰ったスピーカーからネオの声が出ていた。

スマホで喋ればヘドラからボイスチェンジされた声が拡散されるのだ。

 

 

過去。

 

 

ネオが置き去りにされた教会が祀っていたのはキリストではなかった。

それこそが教団白夜だ。前教祖はネオを育てる中で、彼のカイザーとしての力を感じたのだろう。神童と敬い、ネオはわずか13歳で白夜のリーダーとなった。

ネオもまた、幼いころからの教育で自らが特別であることは理解していたし、やがては世界中の人間を導かなければと、使命感を抱いていた。

 

そんな中、彼は地球に潜入していたX星人にいち早く気づいた。

それがただの人間ではないことがわかったのだ。

もしもし、異星の人よ。

声をかけると、X星人は驚き、すぐにネオを殺そうとしたが焦りはなかった。

X星人の考えていることに予想がついたからだ。

 

 

「極星、ですよね?」

 

 

X星人は頷いた。

 

 

「あれは本来、我々のものだった」

 

「でしょうとも。あれは地球人の手にはあまるオーパーツだ」

 

 

かつてX星人は宇宙船のトラブルにより、保管していた高エネルギーを集中させた鉱石である極星を宇宙に落としてしまったらしい。

バラバラに散っていった極星だが、その一つが地球に落ちた。

すぐに奪おうとしたが、極星が保管されている所には日本の宝を守る最終手段が存在していた。

それこそが極星を破壊する『オーパーツデストロイ(OD)』というものだ。

 

強引に攻め込むのは簡単だろうが、だとしても三秒もあれば地球人はODを起動して極星を破壊してしまうだろう。

それはX星人の望むところではない。かといって奪うとなってはそれなりに骨が折れる。

ありとあらゆるシミュレーションをしてみたが、ODの起動スイッチは複数の人間が所持しているらしく、どんな可能性を考えても盗み出す前に破壊されてしまうらしい。

 

 

「では、協力しませんか?」

 

 

既にネオにはたくさんの信者が存在しており、中には極星関係者も大勢いた。

彼らの手を借りれば、極星をX星人に渡すことはそう難しくないように思えたのだ。

見返りは? と、X星人は問いかける。

するとネオは穏やかな笑みでこう答えた。

 

 

「ゴジラを作ってほしい」

 

 

世界にはゴジラが必要なのだ。ネオは本気でそう思っていた。

たとえばそれは世界共通の敵。ゴジラが世界を壊し、そうすれば人間同士で争おうなんて馬鹿な考えは消えてなくなるだろう。

皆がゴジラ殺害という目標に向かって手をつないで歩いていくそれは紛れもないラブ&ピース。

それをいちいち口にすることはなかったが、X星人は提案を受け入れた。

 

当時は今とは違い、ゴジラ生成には立体ホログラム映像を使用した。

ゴジラの映像に合わせて火炎放射器や衝撃波発生装置が搭載されたステルスドローンを操縦して、さも巨大怪獣が暴れているかのように見せるのである。

これを使い、信者の一人が知り合いだという極星研究者の住所を教えてもらい、その一家を襲撃して地下にあった資料を奪った。

上手くいったが、やはりホログラムで怪獣を投影しながらだと充電の減りが異常に早くなり、結果として子供を一人逃がしてしまった。

 

しかもここで予想外の出来事が起こる。

X星人が別の宇宙人であるキラアク星人と戦争を始めたのだ。

極星回収にはまだ少し時間がかかりそうだと連絡を入れると、すぐに帰還命令が出された。

 

 

それから約17年が経ち、2022年。

 

 

再びX星人が、バイラスがやってきたのである。

聞けばかなり苦労したようだ。戦争が大きな被害を齎し、結果は両者痛み分けという形でとりあえずは和解したと。

しかし、かとも思えば次は内戦が始まった。それを収めた時にはこれほどの時間が経ってしまったわけだが、悪い話ばかりではない。

人間は極星を研究し、クリスタルタワーを建造したではないか。これは極星を力を増幅させる役目も担っている。

さらにネオもずっと目を光らせていたのだ。

その結果、クリスタルタワーのセキュリティシステムの関係者や、ODの使用権原を持っている最高責任者が白夜の信者と来た。

 

早速バイラスは行動に出る。

進化した科学力を見せてやろうと、彼らはメカゴジラを神代坂に出現させた。

しかしそこでウルトラマンや仮面ライダー、タルタロスの出現が起きる。

ナノロボットの充電が切れてしまい、作戦は失敗。

 

さらにはネオが感じた地下の鼓動。

極星よりももっと大きな価値がある宝が眠っているかもしれないという期待が生まれた。

とはいえ、インファントのビーナスもX星人たちの動きに気づき始めていた。

 

なのでX星人たちは作戦を切り替え、まずは地下世界にドローンを飛ばして、その途中でゴジラたちを発見した。

洗脳光線はアンギラスとラドンには有効だったが、ゴジラとモスラには効かなかった。どうやらゴジラの中にある『G細胞』が洗脳をするための物質を、瞬く間に破壊しているらしい。

ゴジラと長い間一緒にいたモスラの中にも、いつの間にかそれが入り込んでおり効かなかったらしい。

 

あとは今まで通りである。

アンギラスとラドンで戦士たちのパワーを計測し、それを踏まえたうえでクリスタルタワー襲撃に踏み切った。

 

 

『我々X星人は人間に擬態ができる。極星研究者であったお前の親を殺し、擬態することができれば内部情報を盗み見るだけではなくスマートにクリスタルタワーに近づけると思ったのだ』

 

 

続きを宇宙船からバイラスが口にする。

 

 

「しかし人間も、人間が造った建物も――」

 

「……ッッ」

 

「想像以上に脆くて驚いた」

 

「ッッッッ!!!」

 

 

激しい怒りの感情がカイの全身を包んだ。

しかし今の彼には何もできない。スペースゴジラの手がスターファルコンの前に現れ、今まさに握りつぶさんと指が広がった。

 

 

『リボーン! マックス!』

『エブリバディ↑↑ マックス↑↑↑ バリバリスタンプフィーバー!!』

 

 

電子音。

空に巨大なタマゴパックが現れた。

そこからいくつものタマゴが放たれ、それが割れるとリミックス体が飛び出していき、怪獣やX星人の母船に襲い掛かる。

 

 

「ハアアアア!」『ヒッサツ!カワッタ!マタ!ネオバッタ!』

 

 

巨大なバッタが腕を蹴り飛ばす。

跳ね、ヘドラの頭を蹴って跳躍。ガイガンの鎌をかわして首を蹴るとスペースゴジラに向かって飛び掛かった。

そこでスペースゴジラは粒子化する。

しかし同じくしてリバイスネオバッタも分裂し、無数の小型バッタになった。

蝗害のようにして無数のバッタが霧状のスペースゴジラに襲い掛かる。

 

次々と火花が散り、そして両者弾かれるように距離をとるとそこで実体化。

スペースゴジラがレーザーを発射すると、ネオバッタはジャンプでそれを回避した。

だがリバイスはスペースゴジラの背びれの一つが消えていることに気づいていなかった。

ネオバッタが跳んだちょうどその場所に伸びる一本のクリスタル。そこにレーザーが当たると、赤い線が軌道を変えて上空にいるネオバッタに直撃した。

煙をあげてネオバッタが落ちてくる。そこへ直撃するヘドリューム光線。

 

 

「グアアアア!」「ギュエエエエエ!」

 

 

リミックスが解除されてリバイとバイスが地面を転がった。

さらにリミックスたちも次々に迎撃されていく。

 

 

「くそッ! こうなったら直接行くぞ!」

 

「え? あッ、ちょっと待ってよ一輝ーッ!」

 

 

黄色い線を幾重にも残してリバイとバイスは高速でビルを駆け上がり、そのまま跳躍で母船を目指した。

しかし母船に触れるかというところでバチリと音がしてリバイスは墜落する。

どうやら母船を守るためにシールドが張ってあるようだ。

さらにそこで母船からビームが発射され、墜落したばかりのリバイスを撃った。

 

 

「ガァアアアア!」

 

 

爆発にもまれ、リバイスは膝から崩れ落ちて地面に倒れる。

これは非常に危険な状況だった。

このまま攻撃を受ければ間違いなく――

 

 

「ね、ねえ一輝! 逃げちゃおうぜ!? 知らない世界の人のために命を懸ける必要なんてないじゃん!」

 

「――そうはいかねぇ! オレは日本一のおせっかいだ――ッ!」

 

「おせっかいで死んだら意味ないって!!」

 

「たとえ世界が変わっても、人間には折っちゃいけないもんがある!」

 

「人間には……!?」

 

「ああ、悪魔にもだ!」

 

 

バイスは少し怯んだが、今までのことを思い出した。

やがて一度頷く。そしてもう一度頷いた。

 

 

「そこまで言われちゃあしょうがない。付き合いましょうそうしましょう!」

 

「……悪いな。バイス」

 

「でもさ一輝、考え、あるわけ?」

 

「ない――ッ」

 

 

そう、早い話が、絶体絶命なのである。

 

 

 

 

「!」

 

 

白峰メイは砂浜に立っていた。

向こうには幼いメイとテネがいる。

テネはメイに怒らないの? と聞いた。彼の心の穏やかさを感じたのはあるが、それにしてもメイは静かな心を持っていた。

子供とはよく心を荒げるものだ。それが普通であると皆は言っていたし、テネもよく怒ったりするものだから純粋に気になったのだろう。

 

するとメイは、少し困ったように微笑んだ。

自分は我慢をするのだと言う。

聞こえは悪いが両親も祖父母も、お金持ち。我慢をすると、後から大抵のものが手に入るからそれなりに満たされる。

満たされると不満はしぼんでいくから、怒りまでいかないし、それがわかっているからなんだか大抵のことは平気になる。

でも、もちろん周りの人はそうじゃない。

だからよくわからないから、なおさら大人しくしているのだという。

 

 

「でもね……、もしかして」

 

 

ここでメイは一度黙った。

自分でもわからないことがある。

しかし、やっぱり、もう一つ大きな理由があるのではないかと思ってる。

それは怒りよりも、遥かに大きな感情があるからに他ならない。

 

 

「……寂しかったりは、するよ」

 

 

両親は旅行会社の経営で忙しく、会社に泊まって家に帰ってこない時もあった。

保育園に置き去りにされたこともある。

みんなが両親と手をつないで帰っていくなかで、メイは親を待っていたが、そこで電話が入った。

仕事が忙しくて大事な商談もあるので、今日はそちらに泊めてくれないかと。

 

そこはお金持ちしか入れないところだったので、そういったサービスが存在していたらしい。

チップを弾むという話のおかげで、先生たちはメイに嫌な顔一つせず、優しくしてくれた。

 

また違う話。

〇〇が見たいといえば、すぐにその映画のビデオやらDVDやブルーレイを買ってくれたが、代わりに親と一緒に映画を見たことがなかった。

 

現役プロ野球選手とキャッチボールをしたことはあるが、父と公園に出かけたことはなかった。

 

遊園地を貸し切りにしてもらったことはあるが、宿泊したことはなかった。

 

世界三大珍味やフカヒレ、フグの白子や、とんでもなく分厚いステーキを食べたことはあるが、母の手料理を食べたことはほとんどなかった。

そもそも家族三人一緒に食事をしたことが数えるくらいしかない。

外食だってそうだ。ただ唯一、飛行機を待っている空港にあったファーストフード店でハンバーガーを一緒に食べたことはあったので、メイはハンバーガーが一番好きな食べ物だった。

 

 

「そうか。寂しさこそ、僕の中にいる悪魔か」

 

 

人型のモヤモヤはゆっくりと頷いて消えていった。

 

 

「………」

 

 

砂浜にゴジラジュニアが座っていた。

彼は天に向かって吠えた。海に向かって吠えた。

メイには彼の言葉がわかった。モスラがいないとき、テネがいないとき、アンギラスがいないとき、ラドンがいないとき、彼はこうして吠える。

メイにはその叫びの意味がわかった。

 

彼は呼んでいるのだ。ゴジラを。親を。仲間を。

しかしそんなものは、どこにも存在していない。同族はいない。

ゴジラサウルスはもう絶滅したし、彼を生んだものはオキシジェンデストロイヤーで骨になった。

 

 

「僕は、ただ、怒られたくなかっただけだよ」

 

 

メイは歩きだした。

 

 

「人にも、そして怪獣にも」

 

 

原爆にはじまり、たとえばそれは水爆。

怒りの炎が吹きあがり、雪のようには溶けてくれない死の灰をまき散らす。

 

青い海へ。

 

人の海の中へ。

 

毒ガスも、ヘドロも、死体も、悪意も、殺意も。

 

みんな捨てる。

 

おしっこも。

 

ゴジラが見たらどう思うだろう?

 

怒らないかなぁ?

怒るだろうなぁ。

 

いやだなぁ……、いやだなぁ……。

 

 

「ギャオォォン……」

 

 

ゴジラが鳴いた。

ピースをしたり、シェーをしたり、お茶目なところはあるけれど。 

でも、やっぱり人間を恐れてる。

人間が『ゴジラ』を恐れてるからだ。

 

 

「そうか、キミはパパが好きだったのか」

 

 

当然だ。親であり、同族だ。

でも会ったことはない。会えない。もういない。

たったひとつ、同じゴジラだった。

だが人間はゴジラを恐れる。それは仕方ないことだ。人間が悪いのかもしれないが、それにしても多くの命を奪いすぎた。

 

 

「お願いだよゴジラ、どうかキミはそうならないでくれ」

 

「………」

 

「僕はキミが、大好きだから」

 

 

ゴジラは鳴いた。

メイは何度も頷いた。

ひょっとするとゴジラが助けてくれたのは、同族だと勘違いしたからかもしれない。

カイザーの心を通わせる力が、そんな勘違いを生み出したのか。

 

 

「しかしいずれせよゴジラは助けてくれた。だったら、僕はキミに何を返せる?」

 

 

あれが無償の行いだとしたら、なおさらだ。

何をしてあげられるという?

それはきっと今は一つしかない。少なくとも、メイにはゴジラの心がわかる。

 

 

「傍にいるよ」

 

 

メイはゴジラの体に触れた。

 

 

「僕がキミの味方になる」

 

 

理解できるかどうかの話ではない。

こう言おうと思った。こう言わなければならないと思った。

それだけだ。

 

 

「僕がそばにいる。世界中がキミを非難しても、僕はキミを愛するよ。キミが大切な仲間と一緒にいられるように全力を尽くすよ。だから、だから――」

 

 

メイはほほ笑んだ。

ゴジラという概念に謝罪をする。

ゴジラという概念に感謝をする。

そして、さようなら。

 

 

「共に生きよう、ゴジラ」

 

 

それが白峰メイの回想である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「たすかった!」」

 

 

リバイスは声を揃えて走った。

ミサイルが次々に怪獣たちに直撃していき、逃げる時間を与えてくれたのだ。

飛んできたのは無数の戦闘機・グリフォンである。

さらに赤いメーサーレーザー、"ドラゴンアロー"が直撃していく。

それを放ったのは、角のような砲身を持った戦車・ユニコーンであった。

その一撃を受けてガイガンは思わず後ろに倒れ、ヘドラも苦し気に呻く。

 

 

「フハハハハ! 見たか怪獣ども! 異世界人だけに守られる我々ではないのだ!」

 

 

ユニコーンの中で豪呑大佐が満足げに笑い、腕を組んでいた。

 

 

「目障りな。射殺しろ」

 

 

バイラスの命令を受けスペースゴジラは双肩のクリスタルを光らせる。

しかしそこで豪呑大佐が吠える。

 

 

「今だ! ディメンションタイド! てぇーッ!」

 

 

グリフォンたちから黒い球体状のエネルギーが投下されていく。

それはある程度降下した際に巨大化。

黒球は空間を歪ませ、激しい引力で光線さえも吸い込んでしまう。

人工ブラックホールとでもいえばいいか。これにはバイラスも大きな舌打ちをこぼした。

 

 

「驚いたか宇宙人! そりゃそうだ、誰が造ったと思ってる。人類が生んだ唯一無二の天才だぞ!」

 

 

アンタレス本部でクドウ博士がふんぞり返る。

軍とアンタレスが共同で作った兵器、メテオールシリーズである。

これら全ての機体に極星の欠片が使われており、燃料を必要とせずに飛び回ることができるのだ。

 

メカゴジラはレーザーを発射し、撃墜を試みるが、グリフォンたちは華麗なパイロットテクニックでそれを回避して反撃のレーザーを発射していった。

避難訓練も戦闘訓練も、全てこの日のために何度も何度も行っていたのだ。

それはきっとアンタレスや軍人だけじゃない。神代坂に住むすべての人がだ。

しかし、これらの出撃が遅れたのには理由がある。実はもっと小型の兵器が事前に出動していたのである。

それが小型ドローン『SGS』。

トリガーやモゲラ、リバイスが戦っている間に軍の操作で無数のドローンが町中をひそかに飛び回っていた。

ドローンは建物や瓦礫の中に人が残っていないかを探す能力があった。

 

多くの人が避難を完了させていたが、中には逃げ遅れた人々がいる。

トリガーが一部を守ったように、軍やアンタレスもそういった人たちを助けるために全力を尽くしていた。

すべては彼女との――、テネとの約束だ。

彼女はアンタレスのモニタの向こうで必死に頭を下げた。

 

 

「お願いです。あの子たちはとてもいい子だけど、でも、それでも……ッ」

 

 

テネの必死の訴えを。

 

 

「壊すことしかできません! だからお願いです!」

 

 

人間は信じた。

 

 

「人は、人が守ってください!」

 

 

それは、祈りである。

 

 

「みんなを助けて!」

 

 

突如、青い光が迸った。

それはあまりにも早く。だからスペースゴジラが分裂する前に直撃する。

光はそのまま移動していき、防御の構えをとっていたガイガンを容赦なく吹き飛ばすと、さらに移動してヘドラに直撃して地面に倒した。

 

光は、地面から伸びていた。

 

そこで地面が吹き飛んだ。

穏やかだった目が、今は激しい闘志を宿している。

 

ゴジラが――、そこにいた!

 

 

「ギャオオオオン! グォオオオオオン!!」

 

 

そして現れたのはゴジラだけではない。

ビルを挟んだ右隣の道路にアンギラスがいた。

さらにゴジラの左隣、上空をゆっくりと飛行するラドンをキミは見たか。

そしてアンギラスの右隣には、彼らを呼んだモスラが羽ばたいている。

一緒に行きましょうという提案に、どうしてゴジラたちが乗ったのかはわからない。

しかしただ一つ言えることがあるなら、『祈り』が見えたからだ。

 

たとえばそれは白峰メイ。『彼ら』の祈りだ。

 

今日もどこかにいる、ゴジラに向けられた祈りの数々。

モスラがそれを教え、ゴジラはメイを通してそれを見た。

そしてラドンとアンギラスは。ゴジラの答えに付き合っただけだ。

それを絆というのならばそうしよう。彼らの中にある共生という、一つの誓いに名前をつけるならば。

 

四体の怪獣は並び歩き、地球を狙う怪獣たちのもとへと進んでいく。

スペースゴジラの真っ黒な瞳――、モニターがゴジラを捉えた。

ゴジラもまた、スペースゴジラを睨み殺さんとの眼光で歩いていく。

車があった。ゴジラは歩く。故に、踏み潰す。

アンギラスも同そうだ。踏みつぶした車から小さな爆発が起こるが、怯まず前に進んでいく。

 

 

「………」

 

 

少し離れたところでは車が走っていた。

この危険極まりない戦場をネムが運転しているのには理由がある。

そしてそこにはメイが乗っていて。メイの肩の上にはテネがいた。

 

テネは涙を流した。

 

いつだったかゴジラたちに教えてあげた。

車は踏み潰しちゃダメですよ。とっても高いから怒られちゃうんだよ。なんて。

ゴジラたちはそれを守ると約束した。

ラドンは関係ないといった顔をしていたが、あなたが人前に出て自慢のスピードで飛んだら町がめちゃめちゃになるからダメだよと強く言ったら、しぶしぶ了解していた。

破ったら絶交すると念を押したからだ。

だからラドンは人間の前に姿を現さなかった。

 

しかしそれは神代坂では無理なのだ。

乗り捨てられた車はたくさんあって、それを避けてゴジラが歩くなんてできる筈がない。

そんなの、わかっていた筈なのに。

しかし今、ゴジラたちが誰かの愛車。思い出の詰まった車を踏み潰して進んでいくたびに胸が激しく痛んだ。

そしてこれから始まることを考えれば、車なんて些細なものだ。

 

 

「こんな道……、できれば歩ませたくなかったなぁ」

 

 

テネからポロポロと涙が零れた。

 

 

「そうだね。でも、大丈夫。大丈夫だよ!」

 

 

メイは手を添えた。これは人間が言わなければならない言葉だった。

怪獣は心を視ている。利口で、そして愚直だ。

だからこそ言葉を知らない限り、言葉を与えることはできる。

 

 

「お願いだ。ゴジラ。どうかッ、どうか1954年を超えてくれ!」

 

 

それを超えられる存在は、たった一つ。キミだけなのだと!

 

 

「運命を! 超えてくれ!!」

 

 

その時、ヘドラが僅かに動いた。

 

 

『……ゾーンマンっていう巨大なヒーローが戦う番組があったんだよ』

 

 

心。思い。願い。

ヘドラがポツリと呟いた。

教団白夜。椅子の上でネオは足を組んで頬杖をついていた。

目が赤い。ヘドラの見ている物が視える。

 

 

『そのロケ地に使われた秀田町って場所で災害があったんだ。大きな爪痕を残したけど今は復興が順調に行われてる。それでこの前動画サイトでたまたまそのヒーローの動画があったから見たんだよ。思ったより微妙だった。でもそれでコメントも見たんだけど、ならなんて書いてあったと思う? ゾーンマン、秀田町を災害から守ってくれてありがとうだってさ。コメント欄は同意の嵐だ。でも一言アンチコメがあった。キモ過ぎってコメントがあってさぁ。そいつはきっと見えてるんだよ。ゾーンマンが守っていないという事実を。その現実を直視しないで偶像に縋るヤツらはそりゃあキメぇよな。ヘドロ、ウンコ、ゲロだよマジで』

 

 

早口で、小声、ボヤけた言葉を拾えるものはいない。

ただ一人、メイには全てが聴こえていた。

 

 

「でも俺様は愛しいと思ったぜぇえ!?」

 

 

ネオは立ち上がり、叫ぶ。

 

 

「神を作るのは俺様だ! 俺様の神話通りに動かないゴジラはゴジラじゃねぇ!」

 

 

困るんだよなぁ!

被ばく、核、メルトダウン! とにかくそういうのはいいネタになる!

ゴジラはメッセンジャーでなければ困るんだ!

そのゴジラはダメだ! 悲劇が足りねぇ!

核が関係ねぇならジジイとババアはゴジラを視ちゃくれない!

そうだろ? なあ! そうであれよ!

 

 

「僕はそう思わない!」

 

 

メイは叫んだ。

言葉に反論したのではない。流れ込んでくる意思に反論するのだ。

少なくともそれはネオに、テネに。

あるいはカイに、那須川に、鷹診に、ネムに。

仮面ライダーに、ウルトラマンに届く筈だ。

 

 

「ゴジラは戦争の鏡写しじゃない。災害の具現化でもなければ、人類への警告者でもない!」

 

「そう! ゴジラこそが神なんだ!」

 

「違う! 怪獣だ!!」

 

「ッ!?」

 

「僕らと同じ! ただの命だ!!」

 

 

ちょうどその時、カイはスターファルコンから出て上を見た。

体が、魂が震える。

彼のすぐ傍をゴジラが通り過ぎていく。

 

 

「人類がお前を受け入れるには……、まだ相当な時間がかかる!」

 

 

カイザーではないカイの言葉はきっとゴジラには届かないだろう。

 

 

「壊すことしかできないとしても! でも! それでも! 守るために壊すことだってできる筈だ!」

 

 

しかしそれでもカイは力の限り叫んだ。

 

 

「頼む、ゴジラ! 俺を縛る鎖は、お前にしか壊せない!」

 

 

そもそも、人はゴジラを殺さなければならなかった。

それしか選択肢がなかったからだ。しかし今は違う。過去と同じではない。同じにはなれないのだ。

同じくして――! そこでメイは叫んだ。

 

 

「もう運命の歯車は回り始めた! 止めることも! 目を逸らすこともできないんだ!」

 

「……ッッッ」

 

「ゴジラは過去にも未来にもなれない! 今を生きてるんだ!」

 

 

メイの言葉が胸の奥を殴るから、覆わずネオは心臓の辺りに指を立てた。

そこでメイはいつかケンゴから聞いていた言葉をそのまま言い放つ。

 

 

「希望の未来には光も闇も関係ない! キミの中にも光はきっとある! そうだろ、ゴジラ!!」

 

 

そこでテネは突き動かされる衝動を覚えた。メイと頷きあい、振り返る。

メイはスマホを構えた。SGSを動かすアプリである。ドローンが撮影した映像は、彼の働く雑誌『フォーカス』の公式チャンネルでライブ配信されていた。

 

ゴジラたちが映し出されている。

人はゴジラたちを見る。

ゴジラは口を拭ったあと、猫の手招きのような仕草を行っていた。

 

 

「ゴジラ! モスラ! アンギラス! ラドン! あなたたちは良い怪獣にになるの! 正義のヒーローとして皆を守って!」

 

 

テネは必死に叫んだ。ボロボロ泣きながら叫んだ。

 

 

「破壊こそが怪獣の運命なら、あなたたちがそれを超えて!」

 

 

お願い、だった。

 

 

「宿命を超えるのっ!!」

 

 

祈りが、あった。

 

 

「さあ行って! 人間のため!」

 

 

ゴジラが、モスラが、アンギラスが、ラドンが吠えた。

グリフォンたちがはけていく。まっさらになった空を飛翔するラドン。

大いなる矛盾があった。ラドンは高いビルに腹を向けて一気に舞い上がる。

ソニックブームで窓ガラスが割れていき、ラドンはそのまま屋上に着地した。

ビルが揺れ、ヒビが走る。

 

 

「ピキュオオ! ォォオォオ!!」

 

 

ラドンは白い太陽をバックに翼をはためかせた。

それを合図にアンギラスとモスラも加速して先行する。

ゴジラもまたスピードを速めた。

そして、止まる。

 

 

「ギャオオオオオオオオオオオン!」

 

「ゴオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

ゴジラとスペースゴジラが吠え合う。

それに負けないように。テネが目に涙を浮かべながら叫んだ。

 

 

「みなさん! どうか最後まで見てください! あれが今の新たなゴジラ――ッッ!!」

 

 

矛盾もあるが、それは澄み渡る想いであった。

ゴジラの目が一瞬、ほんの一瞬だけ赤くなる。しかしそれは咆哮と共に消えていった。

メイの世界を、テネの願いを、モスラたちとの時間を守るため。

ゴジラは思った。テネやメイの中にあるもの。あの温かな光。

それを奪おうとするものを壊すため。

ゴジラは人類のために、悪の怪獣たちと戦うのだと。

 

 

「正義の怪獣! ゴジラ2代目! 怪獣王の息子(バーニング・ブラッド)です!」

 

 

 

 







というわけでね。
すべてはこの私が、いま再び、正義の怪獣ゴジラ概念を浴びたいがために作ったものでありましたよと。
まあ、シン・ゴジラとかメガギラスとかみたいな感じも面白かったんで好きなんですけど……
好みでいえば、どちらかというと昭和の可愛げのあるゴジラというか。

最近はキングオブモンスターズが今のところベストゴジラです。
まあ正義とはちょっと違いますが、見てて健康になりました。

まあ詳しくは、また後で書こうとは思いますが。
ちょっと久しぶりにアマプラで見直してみたら、昭和ゴジラってゴジラは喋れないぶんギャオギャオ鳴きまくるというか。
特に怪獣が複数出てくるやつだと咆哮が重なり合ってとんでもないことになってて。
そういう騒がしさと、いい意味でちょっと気が抜けるような感じを再現できるかなって思って、僕は怪獣の鳴き声を書くようにしましたよと。

後半とエピローグは今日の夜にでも更新しようと思います(´・ω・)b
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