ゴジラ バーニングブラッド feat.リバイス&トリガー 作:ホシボシ
新たな怪獣出現の噂は既に一般市民に耳も届いていた。
この白夜教団においてもそれは例外ではない。
白いホールには無数の白い壺が等間隔に並べられている。
中には泥が入っており、入信者たちは白装束のままにその中に浸かっていた。
お清め、と呼ばれる儀式の最中である。
「誰もが皆、心に闇を抱えているものです」
それは業となり、地上へ放たれる。
スピリチュアルな話ではないと念を押した。
汚れは文字通り、地球を汚す。血であり、泥であり、毒である。
それが生み出したものがゴジラであるならば、また怪獣が現れたのは地球が差し向けた白血球。
あるいはもっと現代的な言い方をするのであれば、
「汚れに浸かることで、汚れを輩出するのです。皆様の心に贖罪の想いがあればそれは怪獣に届くでしょう」
薄明者たちは頷き、手を合わせて泥に浸った。
中には泣いている者もいた。
彼女は夫を通り魔に殺害されたのち、息子を小児癌で失った。
もしも神がいたのであれば、そのような仕打ちを与えるはずがない。裁かれるべき人間が山ほどいるこの世界で。
「信ずるは地球なのです。皆様の身に沁みこんでいる泥には、ゴジラの血が混じっています。世界が与えたもうた審判を下す怪獣の血が」
なにやら騒がしい。
薄明者たちの視線が集まる。
大柄の男たちによって取り押さえられているのは、薄明者ではない人間だった。
なんでもその男はゴジラが街に現れたとき、混乱に乗じて店から物を大量に盗んだらしい。
いわゆる火事場泥棒というものだ。男は他にも暴行や恐喝で、何度か警察に逮捕されていた。
ネオは男を、泥につけるようにいう。
大柄の薄明者たちはすぐに男を空いている壺の中に入れて、泥の中に押し込んでいった。
「ぐあぁぁあぁあ! ひぃぃいああえええああああ!」
男は叫び声をあげた。
やがてぐったりとして動かなくなる。
ネオは男の髪を掴んで引き上げた。
薄明者たちがザワザワと声をあげる。男の頭から下、つまり泥に浸かった部分が"無くなっていた"。
正確には『骨』だけになっていたのだ。
「御覧なさい。愚かな人間を世界は赦さない」
あえていうならば『信者』たち。
彼らはその凄惨な光景を前にしても感動を胸に手を合わせ、ネオと地球を崇めた。
ネオは男の死体を信者たちに片づけるように言って、自室に戻る。
そこは白ではない。
いろいろな色がマーブル模様に混ざっている。
ネオは大きな椅子に座ると、足を組んでふんぞりかえった。
怪獣はいい。実に、いい。無意味に意味を与えてくれる。
今も、ただの泥に酸を混ぜただけのものを信者たちは『裁き』であると信じた。
「救いであり、赦しであるべきなのだ。怪獣は複雑であり単純でなければ」
ネオの背後には大きな窓があった。
◆
山と湖から離れたところある海。
そこで今、巨大な背ビレが海面を突き破って姿を見せた。
◆
「え!?」
メイは間抜けな声をあげた。
ネオとの取材を終えて、ケンゴと別れて街を歩いていると、編集長から報告を受けた。
真偽は不明だがSNSではまた怪獣が出たという報告が次々とあがっているようだ。
しかもそれはゴジラではない。今まで見たこともない怪獣だとか。
SNSではハリネズミみたいな怪獣と、鳥のような怪獣であるとの文字があった。
すぐに調べなければ。
メイは、花畑の中に立っていた。
「え? えぇ!?」
風が吹く。木々が揺れ、葉や花びらが舞った。
温かい風だ。なんだか懐かしい気分になる。
「これは……、どういう」
先ほどまで街の中にいた。
立っているという以上、気絶して別の場所で目覚めたとも考えにくい。
だからつまりこれは別の場所に移動したということか?
そんなバカなとは思ったが、今は何が起こっても不思議じゃない。
メイが辺りを見回すと、やがて声が聴こえた。
誰かが呼んでいる。
メイはそれに従い、洞窟の中に入った。
それは神殿だった。祭壇には
「ここです。白峰メイ」
「貴女は?」
「わたしのメッセージを世界へ届けてほしく、貴方にその役割を与えたいとこの場所に呼びました」
「メッセージですか」
「はい。邪悪な意思が動き出そうとしています」
「もしかするとそれは、ゴジラですか!?」
「そこまでは……、ごめんなさい。ですが感じるのです。張り付く殺意や憎悪、そして――」
「あの」
「っ? はい?」
「大事なお話の最中にすみません。違っていたら申し訳ないんですが、もしかして、テネさんですか……?」
次の瞬間、簾を押しのけて女性が飛び出してきた。
「メイくん! 覚えててくれたのっ!?」
「うん、もちろん!」
童顔で緑色の髪。
メイの記憶にある。ゴジラに助けられた島で、いつも一緒にいた少女。
それが『テネ』だ。彼女がそこにいたのだが、すぐにメイは怯んだ。
というのもテネが小さい。背が低いというレベルではなく、15センチほどしかない。
「メイくん! あのね――」
何かを伝えようとしたが、同じように小さな人々が奥から出てきて、テネを引っ張っていく。
「テネ!?」
「大丈夫っ、とにかく! これをっ!」
テネが手をかざすと、メイは手に熱を感じた。
見れば、十字状の短剣が握られている。
中央部分と柄には、地球のように青い宝石が埋め込まれていた。
「これは?」
「それをね――」
そこで、祭壇は消えた。テネも消えた。
メイは人々が行きかう街の中に立っていた。
「あれっ?」
辺りを見回すが、テネの姿はどこにもない。
しかし手には、彼女から預かった短剣が握られていた。
つまりあれは夢ではなかったということだ。
◆
「ひどい!」
テネは怒っていた。
しかし周りのものたちは、むしろテネに怒っていた。
なぜ、メイがテネのことを覚えているのか。
そこを突かれると弱いのか。テネはモゴモゴと言い淀み、居心地が悪そうに視線を逸らす。
「神子としての自覚が足りない! そもそも人間に姿を晒して!」
「うぅぅぅ! し、しらないもん!」
テネは耳をふさいで祭壇を出て行った。
◆
アンタレス本部。
そこではモニタに表示された巨大な背ビレが見える。
「間違いありません! これはッ、ゴジラです!!」
誰かがそう叫んだ。
確かに、それはゴジラの背ビレに見える。
「しかし、前より大きいような……?」
「成長してるってことかいな!?」
「なんだっていい。今度こそアイツを殺してやる!」
「カイくん。気持ちはわかるが落ち着いてくれ。ここは冷静に対処しなければ危険な状況だ」
なにせ怪獣が三体も現れるなんて前代未聞だ。
幸いウルトラマンと仮面ライダーもいるわけだが、それでも手が足りない。
「怪獣たちが集まっているのは森林地帯ではあるが、このまま進行を許すと街に出る可能性が高い」
そこで二つの村の避難が完全に終わったとの報告が入った。
ゴジラは現在のスピードであれば軍隊の迎撃配置が間に合うらしい。
「ではまずゴジラの足止めはそちらに任せて、我々は七原村と六甲村に向かうだろうアンギラスたちを止めることを優先させよう。それでいいね、カイくん」
カイは何か言いたげな表情だったが、首に手を当てて考えた。
感情的になるのはあまり好きじゃない。熱くなるのはもうたくさんだ。
興奮したら火傷の痕が痛む気がする。だからなるべくならクールにいきたいというのがポリシーである。
「……わかったよ」
「助かる。では行こう」
ほどなくして本部からモゲラが飛び立った。
「………」
モゲラ内部。カイはコックピットを出たところで座っていた。
メイと話していた分、休憩の時間が取れていない。
少しでも休めればという鷹診の配慮だった。
一輝もそこにいて、カイをジッと見ている。
「……大丈夫ですか?」
「んん? 何が?」
「オレは悪魔に憑かれた人間をたくさん見てきました。なかでも憎悪は悪魔を生み出す理由になりやすい」
「……俺の中に悪魔がいるって?」
「誰の中にもいます」
「まあ、確かに」
カイは大きなため息をついた。
「……アンタ、肉は好きか?」
「え? まあ」
「俺も好きだった。特にハンバーグが。でも今はもうダメだ。どうにも潰されてミンチになった母さんを思い出しちまう」
「……ッ」
「焼いてるものもテンションが上がらない。そもそも火があまり好きじゃない。カップ麺を作るときに黒焦げになって死んだ親父を思い出す。なんか、まあ、そんな感じなんだよ」
どうやらまだ、夢の中にいる。
覚めないし、冷めてくれない。
「きっと殺すまで」
そこで扉の向こうから声が聴こえてくる。
アンタレス本部からの報告だ。アンギラスとラドンが急加速を始めたらしい。
「ピィアアアアアン!」
アンギラスが地面を蹴って跳ねた。
次の瞬間、体を丸め、ボール状になったではないか。
そのままゴロゴロと猛スピードで転がり、時に地面をバウンドしながら猛スピードで移動する。
木を次々になぎ倒し、粉砕し、森の中を転がって七原村にやってきた。
既に避難は終えているからよかったものを。アンギラスは木片や土片をまき散らしながら容赦なく家を押し潰して進む。
さらにバウンド。地面が波打つような錯覚。
周囲の家が激しく揺れ、アンギラスが跳ねる。大きくて丸い影が憩いの集会場を覆った。
直後、棘が建物に突き刺さる。そのままアンギラスは集会場を押しつぶしてバウンド。神代坂に向かって跳ね進んでいく。
「キュルッ! キュォオオオオオオオオ!」
ラドンが翼を広げて飛んだ。
空中で体を回転させるバレルロールで炎を払って火の粉を散らすと、猛スピードで飛行する。
あっという間に六甲村にやってきた。村といっても、海が近いこともあって、かつては賑わっていたのだろう。今はもう廃墟になっているがそれなりに大きなホテルや旅館があった。
ラドンは飛んだ。
そしてあえてそのホテルの間近をスレスレを疾駆する。
次の瞬間、ホテルが粉々に崩れ、旅館もまた瓦が次々と吹き飛んだ後、崩壊した。
ソニックブームだ。ラドンはどうだと言わんばかりに鳴いて、さらにスピードを速めた。
こちらも既に避難は完了しているとはいえ、風が、衝撃が、次々に家を崩壊させていく。
「ボクがいきます! もうこれ以上は!」
間に合わなかった事実が胸を刺す。
だからこそマナカケンゴは走り、ハッチから勢いよく飛び出して空に放り出された。
鷹診たちは一瞬ギョッとしたがケンゴの顔には欠片の恐れもない。落下する中で腰に手を伸ばした。抜き取ったハイパーキーと、スパークレンス。
『Ultraman Trigger Multi-Type!』
キーを起動させて、スパークレンスの銃床にセットする。
『Boot up』『Zeperion』
スパークレンスを展開し、腕を旋回させる。
「未来を築く、希望の光!」
そしてスパークレンスを突き出して、トリガーを引いた。
「ウルトラマン……! トリガーッッ!!」
『ULTRAMAN・TRIGGER! MULTI-TYPE!!』
光が迸り、ウルトラマントリガーが空を飛行している。
一方でケンゴは光の空間に立っていた。
そこでさらにハイパーキーを起動させる。
『Ultraman Trigger Sky-Type!』
ラドンのスピードは見ただけでわかる。
あれに対抗するには、相応の力が必要なのだ。
『Boot up』『Runboldt』
「天空を駆ける高速の光! ウルトラマン! トリガーッッ!!」
『ULTRAMAN・TRIGGER SKY-TYPE――!』
トリガーが額の前で腕をクロスに組んで、振り払うようにすると、トリガーのシルエットがややソリッドになる。
さらにカラーリングも紫とスカイブルーが基調となった。
スカイタイプ。特筆するべきはそのスピードだ。
トリガーは両腕を伸ばし、モゲラを遥かに凌駕するスピードで飛んで行った。
「……凄いな。羨ましいぜ」
「ラドンは彼に任せよう」
20秒もない。
トリガーは前方に飛行するラドンを発見した。
しかしラドンが首を動かした。どうやら気づいたのは向こうも同じようだ。
トリガーは腕から光弾を発射した。
ハンドスラッシュ。それなりのスピードではあったが、ラドンはいとも簡単に回避してみせる。
咆哮が聞こえた。ラドンは掴みかかるトリガーをヒラリとかわすと、なんのことはなく飛んでいく。
追いかけるトリガー。どうやらスピードは僅かながらトリガーのほうが速いようだ。
少しずつ距離が縮まっていくが、そこでラドンが吠えた。
「ッ!?」
ラドンの両翼が赤く光り、大量の火の粉が散った。
すると、なんとラドンが五体になったのだ。
突如としての分身に、トリガーは大きくうろたえる。
四体のラドンは縦横無尽にそれぞれべつの場所に飛行していった。
減速するトリガー、これはどういうことなのか? 冷静に分析するとすぐに異変に気づいた。
四体のラドンが赤い。よく見ればそれは炎で作られた偽物だった。
そもそも本物はトリガーから離れるように飛行している。
そしてなによりも時間とともに分身たちは燃え尽きるようにして消滅した。
トリガーは再びトップスピードでラドンを追いかける。
するとまたラドンが吠えて分身が現れた。しかも今度はすべてのラドンが赤い。
本体も発光しているのだ。炎で構成されているため、ディティールは荒いが高速で飛び回る分身をよく観察するのはそれなりに骨が折れた。
"ミラージュフレア"、ラドンが赤く発光して炎の分身を作り出す技である。
トリガーは先ほどと同じく、自分から離れるラドンをまず確認した。
しかしそれは分身だ。ハッとして上を向くと、本体が嘴を光らせて突進してくるところだった。
「ウアァアア!」
わずかに体を逸らして直撃こそ避けたが、衝撃でトリガーは空中をきりもみ状に回転して落下していく。
ラドンは少し笑ったような表情をして、また街を目指して飛んでいくのだった。
「ターゲット確認!」
一方でモゲラは、バウンドしながら高速回転して街を目指すアンギラスを補足した。
ドリルの先端からレーザーが発射されて、アンギラスに直撃する。
しかしまるでスピードは落ちない。
アンギラスは地面に着地し、ゴロゴロと転がり進んでいく。
「これならどうや!!」
モゲラの足からミサイルが連射されていき、アンギラスへ命中していく。
爆発の衝撃でボールは跳ね動き、大きく減速した。
「どや!」
ボール状態が解除される。
しかし見たところアンギラスはピンピンしている。
本体にダメージは入っていないようだ。
『やべーッ! ぜんッぜん効いてないじゃん! ねえどうなってんの! ねえってば!』
「落ち着けバイス! ど、どうなんですかカイさん!」
「装甲が固いんだ。どうする鷹診さん。タイプ2ならって感じだけど」
「そうだね。それでいこう」
「よっしゃ! ワイに任せとき!」
アンギラスが吠えた。
先ほどからチョロチョロとちょっかいをかけてくる目障りなものがモゲラであると理解したようだ。
モゲラの顔のドリル先端にエネルギーが集中する。そこでアンギラスは後ろ足で立ち上がると、素早く旋回して鱗甲板を向けた。
レーザーが発射されて鱗甲板に当たった瞬間、アンギラスは高速で棘を震えた。
するとどういう原理かはわからないが、レーザーが反射されてモゲラに返ってきたではないか。
「ぐぉお……!」
レーザーが直撃してモゲラが地面に墜落する。
そこでアンギラスが飛んだ。体を丸めてボール状になると一直線にモゲラに向かっていく。
直撃すると思われたが、そこでモゲラが三つに割れた。
合体解除。三機はすぐに分散して、アンギラスの突進を回避する。
そしてすぐに地面に着陸したランドマンに集合した。
「いくで! チェンジタイタンッッ!!」
三つのボタンをおして、那須川がレバーを引いた。
アンギラスは山の傾斜でバウンドを行い、再びランドマンのほうへと飛んでいく。
そして衝撃。
アンギラスは――、止まっていた。
『MEga CHAracter NIrvana Knight Of New Ground-type』
巨大な両腕がアンギラスをキャッチしていたのだ。
「しゃあ! メカニコング、発進や!」
タルタロス・タイプ2・メカニコング。
アメリカの都市伝説に登場する巨大なゴリラをモチーフにした機械の猿人だ。
モゲラの時とは逆にランドマンを下半身にしており、スターファルコンが上半身。
そしてゴウテンは割れてアームパーツになっている。
機動力は低いが、パワーはタルタロスの中で最強である。
さらにメインパイロットの那須川は、機械に繋がれたグローブの中に腕を入れていた。
これがメカニコングの腕と連動しており、那須川の腕の動きを再現するのである。
メカニコングはキャッチしたアンギラスを思い切り投げ飛ばした。
しかしボールはバウンドするだけだ。まずはアレを何とかしないといけないらしい。
「ハードウェーブボンバー! 見せたるッ!」
那須川が両手を開いた。
さらにカイと鷹診が交互にスイッチを連打する。
するとメカニコングがドラミングを始めた。ドンドンドンと音がして衝撃波が拡散。
飛んできたボール形態が解除されて、アンギラスは苦しみながら落下する。
「どっせぇええええいッ!!」
「ィア゛ァアアアア゛!」
メカニコングがアンギラスの頭部の棘と、鱗甲板を掴んで掲げ上げた。
もがくアンギラス。しかしメカニコングも抵抗し、アンギラスを離さない。
「エレキアーム発動します」
カイがレバーを引くと、アームが帯電をはじめ、アンギラスへ電撃を浴びせる。
アンギラスは苦しげに吠えるが、それでもやはり効いているようには見えなかった。
『リミックス!』『バディー↑ アーップ↑』
『ヒッサツ!ミラクル!グルグル!イーグル!』
大きなイーグルが飛翔した。リバイスの形態変化である。
確かにアンギラスの防御力は凄まじいが、鱗甲板がない腹部であれば話は別かもしれない。
メカニコングによって持ち上げられている今ならば攻撃することが――
「なにッ!」
アンギラスが吠えた。
いや、ただ吠えただけじゃない。何か特殊な咆哮をあげた。
それは今までとは比べ物にならないほどの爆音。それと共に放たれる衝撃波。
機械装甲がいくらか遮断してくれたが、それでもすさまじい音に、カイたちはいっせいに耳をふさいでしまった。
那須川も同じだ。グローブから手を出して耳を覆う。
力が緩み、アンギラスは地面に着地する。
「ぐっぉお……ッ!」
それはリバイスたちも同じだった。
かろうじてリミックス形態は留めたが、怯んでいたためにアンギラスを放置してしまった。
『目だ! そこなら固い装甲も関係ない!』
メカニコングからカイの声が放たれた。
急所を狙うことは、怪獣であっても少し抵抗があったが、それでもこの大怪獣を放置して街に放つことはできない。
リバイは頷き、必殺技を発動する。
エネルギーを纏い、コンドルが空を疾走した。
「!!」「げげげっ!」
アンギラスが目を瞑っていた。
「マジィ!?」
「なんでだ!?」
言葉を理解したのか? それとも――
「とにかく、止まれない! このまま行くぞ――ッ!」
リバイスが瞼に突っ込んだ。
しかし固い。生物であれば比較的柔らかい場所の筈だが、アンギラスは皮膚のみでリバイスの必殺技を弾いてみせたのだ。
「ピィァァァン……!」
しかし、流石に今までとは違ってダメージは受けているようだ。弱弱しい声を漏らして動きが止まる。
「キュッオォォォオ!」
ラドンの声が聞こえてきた。
トリガーがしがみついている。
こちらまで運んでくれたようだが、抵抗するラドンを抑え込んでいたためか、体力の消耗が激しい。
ラドンもそれを感じているのか、そこで一気に力を込めた。
激しく体を回転させて繰り出したバレルロール。スカイタイプの腕力では足りなかったのか、トリガーは振り払われてしまった。
「ピキュォ! オォォオオン!」
ラドンは再び飛び立った。
『CIRCLE ARMS』『Sky Arrow』
トリガーは弓を呼び出し、ラドンに向けて構えた。
弦はないが、手を引くと光が収束していく。
ラドンは完全に振り切ったと思っているようだから、トリガーには気づいていない。
だからこのまま手を離せば光の矢で貫けるだろう。
「………」
怪獣と分かり合うって無理なのかな?
そう呟いたメイの顔が浮かんだ。
次の瞬間、トリガーの脳裏にノイズ混じりでブツ切り映像が飛び込んできた。
それは、泣いている女性の映像だった。
緑色の髪をした小さな女性が目に涙を浮かべている。
「こ……き…な…いで!」
必死に叫んでいる。
「傷つ……な…でっ!」
映像が変わる。
見えない。謎のマーブル。例えばそれは黒と、紫、だろうか?
わからない。それがなんなのか言語化ができない。
きっとそれは言葉ではないからだ。
しいて言うならば、それは『心』である。
おそらく日本の言葉で近い文字を並べるならば――
(友……? 友達?)
トリガー、ケンゴにも大切な友人がいる。
複雑だけど、愚直。こんなメッセージを送ってきたのは誰なんだ?
おそらく人ではない。人ならばもっと言葉が強く届く筈だから。
いずれにせよ、弓を持つ手の力が緩んだ。何者かに止められている気がしたからだ。
しかしそこで気づいた。ラドンが振り返っていたということに。
(しまっ!)
ラドンの口から"ウラニウム光線"が放たれたのはその時だった。
それだけじゃない。アンギラスも口から"ニトロ光線"を発射し、メカニコングを撃った。
巻き起こる爆発。
それを今、少し離れた山の高台から地元のテレビ局が撮影していた。
この映像はライブ中継で国民に発信されている。
「いかなくちゃ……!」
メイはそれを見て、タクシーを拾いに走った。
むろんあの大怪獣バトルの現場に赴くことがどれだけ馬鹿げたことかは理解している。
しかしそれでも行かなくてはならない。メイは手をあげて、必死に車を呼び止めた。
メイは行き先を正直に告げた。
隠してもどうにもならないと思ったからだ。今、怪獣が暴れているところに行ってほしい。
はじめは断られた。二度目は村に家族がいるのかと聞かれた。
違うが、近いと答えた。
詳細を聞かれたが答えられなかった。本当にわからないのだ。しかしその表情を見て、ただごとではないと理解してくれたらしい。運転手は近くならばいいと乗せてくれた。
「ありがとうございますッ!」
しかし怪獣出現に怯えて避難しようとしている人間が多いようで、すぐに渋滞につかまった。
メイはお礼を言って料金を払うと、車から出て走りだす。
正直体力には自信がないが、だったらとすぐにレンタルサイクル屋に駆け寄ってピカピカの自転車を借りた。
それを全力でこいで怪獣たちを目指す。
もう一度いうが体力には自信がない。すぐにゼヒュゼヒュと息が切れてきて、さぞ無様な格好だろうて。
しかしメイは止まらなかった。
『お願いっ! 傷つけないで!!』
そう言っていた。泣いているテネが頭の中にいたのだ。
よくわからない。なぜか彼女のことを思い出そうとするとモヤがかかったようになる。
なんで鮮明に思い出せないのか、自分で自分が腹立たしかったが、とにもかくにもそれは後だ。
「誰も殺してほしくないと思うことがそんなに悪いことか!?」
誰に向かって叫んだのかは自分でもサッパリわからないが、とにかく声を張り上げねばと思った。
あの子の想いを、抱きしめるために。
◆
「来おったか――!」
見える背ビレは、縁が僅かに青い。
海面から突き出しながら進んでくるその様は、先日ウイスキーをかっくらいながら見たサメ映画を思い出させる。
「チビるなよお前たち、一世一代の晴れ舞台だ」
されびた民宿や、ボロボロの釣具店、もう誰も使っていないコインシャワー。
かつては栄えていた場所も、今は店が一軒もない状態になった。
ここに住んでいる僅かな人たちは車で近くの町まで買い物にいく。
そんなレトロなところに並ぶ戦車や、メーサー戦車。
これはアンタレスと軍で協力して作り上げた無人機だ。遠隔で操作できるため、仮に熱線が飛んできても被害を抑えることができる。
豪呑たちは少し離れたところでターゲットを確認していた。
隊員の一人が距離を告げる。どんどんと近づいてくるようだ。
誰もが喉を鳴らした。豪呑も同じで、自慢の口ひげを何度も触っている。
「来ます!」
来るらしい。
そして来た。水しぶきが上がる。
まず見えたのは長い尾だ。そして次に巨大な影が海中から現れた。
「ぉぉぉぉお……ッ!」
高いところから落ちる水の音。
海面に落ちる水の音。
それに混じった未知なる声。
「ギャォオン! グォオオオオァァァェンッ!!」
隊員や豪呑は息をのんだ。間違いないと、改めて思う。
ゴジラである。今、目の前にしてやっと一連の出来事が嘘ではなかったと思ってしまった。
本当に存在していたのだ。こんな生き物が。それが信じられなかった。
報告の通り、神代坂に現れたゴジラとは姿が変わっている。
マッシブでどっしりとしたシルエットではなく、ややスリムになっていた。
反対に、背中にあった背ビレが大きくなっているような印象を受けた。
特に7つの背ビレのが大きく、先端は青みかかっており、ゴジラ自身の皮膚はやや緑かかっているように思えた。
さらに一番の変化は瞳だろう。神代坂に現れたときは真っ黒だったが、今は白目の中に光を灯した大きな黒目が確認できる。
「むぅう……ッ!」
今も、目にしているのに脳が理解を拒もうとする。
だからあれは神なのではないかと錯覚してしまった。
しかし、だからこそ、この目の前の存在を殺し、超えることができたなら、その時、何か大きなものを手にすることができるのだと夢想する。
この夢は果たして真昼の夢か……?
それともあの時から目が覚めていないのか。
あるいは、どうだ――?
ダメだ。頬の抓り方がまだわからない。
「変わらず、放射線反応はなし!」
「好都合だ。丸焼きにしたあとで食ってやる!」
だが焦るなと。
ゴジラを倒すことが一番の目的ではないのだ。
モゲラ到着まで時間を稼ぐことが最重要ミッション、それを忘れるなと怒号を飛ばす。
まずは一つめの時間稼ぎ。砂浜に設置した大量の催涙地雷だ。
「目だけを見ればクリクリで可愛のにな! くそったれ!」
豪呑は双眼鏡を覗く。
上陸したゴジラは体を振るわせて犬のように水を払っていた。
その後、ドシドシと歩き出す。
「いいぞぉ、そうだぁ」
ゴクリと喉を鳴らす豪呑。
次の瞬間、バチュン! と音がした。
「バカ者めが! いいぞ! かかったかかった! ハハハハ!」
赤いガスが勢いよく噴射され、ゴジラが苦しみだす。
「ギャワ! アギャ! アギャギャ!!」
小刻みに甲高い声をあげてゴジラは顔を擦る。
ギュッと目を瞑り、後ろに下がったところでまたバチュンと音がしてガスが噴き出した。ゴジラが連続して頭を振る。
これはいけないと、ゴジラは無理矢理に前に出た。
しかしそこで抵抗感。砂浜を出ようとすると強靭なワイヤーがネット状に張られている。
「かかった!」
豪呑がスイッチを入れる。
これはただのネットではない。電磁ネットだ。
激しい電流が流れてゴジラは急いで後ろに下がっていった。
ちょうどネットに触れたのが股間部分だったからか、しきりにそこを掻くようなリアクションを取っていた。
「ハハハ! どうやらヤツのリトルモンスターには大ダメージだったみたいだな! 後でEDの病院を紹介してやれ!」
「大佐! 下品です!」
「これは失敬! むっ、なんだ! 見ろ!」
ゴジラは口を拭ったあと、猫の手招きのような仕草を行っていた。
(癖か……? 報告にはなかったが)
何かの予備動作だった場合はまずい。
緊張感が走る。するとゴジラが下のほうを見ていることに気づいた。
戦車よりは少し位置がズレている気がする。
なんだ? 不思議に思っていると、隊員の一人が慌てて飛んできた。
「大佐! 大変です! 民間人が!」
「なんだと!?」
ドローンが撮影していた。豪呑はすぐに映像を確認する。
すると戦車の前に一人の男が立っており、自撮り棒を片手に大きく手を振っていた。
「ゴジラ! おーいっ! ここだよー!」
彼の名前は『やったるで東野』、登録者数に伸び悩んでいるバイチューバー(動画投稿者)だった。
以前この近くに住んでた彼は一発当てるために神代坂に来たものの、望むような生活を手に入れることができなかった。
落ち込んでいた時にゴジラが現れ、死にかける。それは彼にとってはあまりにも刺激的な体験だ。
本気で思った死という恐怖、そして生き残った時に出た未知のアドレナリン。
彼は思った。
これだ。これがバズる『種』に違いないと。
ゴジラを撮る。あるいは踏みつぶされてもいい。そうしたならばきっとこの冴えない人生も報われるだろうから。
「避難や規制は完璧だった筈だろう!」
「は、はい! ですがなにぶん山道が多く……!」
道路は完全に封鎖したが、山道を使われたのだろう。
いずれにせよ、男はスマホのカメラを向けて必死にゴジラの名を叫んだ。
「バカもんがぁ……ッ! 死ぬつもりかッ!」
今から助けに行っても絶対に間に合わない。
見ろ。既にゴジラの左手が動く。
爪で引き裂くか、握りつぶすか、いずれにせよ男はもう終わりだ。
緊張が走る。
ゴジラの指は四本あって、人間でいう所の小指が存在しない。
ゴジラは親指と薬指を曲げ、人差し指と中指をまっすぐに伸ばして、少し開いた状態で男に向けた。
光線だ。男が焼き尽くされるのだ。
誰もがそう思ったが、しばらく待ってみても何もない。
ゴードンは口を開けたままゴジラを見ていた。
ゴジラはやったるで東のをジッと見つめて、固まっている。
「まさか……ッ!」
ゴードンは強い既視感を覚えた。
昨日見た。というより、カメラを向けられた自分が同じポーズをとったのだ。
「ぴ、ピース……、しているのか……?」
やったるで東野のもポカンとしていた。
あまりにもポカンとして、そしたら力が抜けてカメラを落としてしまった。
するとゴジラはピースをやめて前を見た。
ネットが見える。戦車が見える。その向こうには豪呑たちが見える。
「ア゛ェア! ァォオァアン……!」
吠え、振り返る。
そしてゴジラが地面を蹴った。
飛び上がり、そして体を丸めて、両手で尻尾を抱っこした。
「………」
ゴードンがポカンと口をあけ、双眼鏡を落とした。
ゴジラが青い火を噴いた。
そのまま自分たちの真上を飛んでいく。ネットを越えて、戦車を越えて、ヘリコプターの上を行き、ゴジラは山の向こうに消えていった。
「ゴジラって、飛べるんだぁ。すごぉい」
豪呑はポツリと呟いた。
ウルトラマンとかゴジラとかを原作にした文章系の二次創作では『怪獣の鳴き声、書くんかい書かへんのかい問題』というのがあると思うのですが、このお話ではバリバリ書いていく感じにしてあります。
それには明確な理由があるのですが、僕が覚えてたならもう少しあとのほうで理由を書こうと思ってます。(´・ω・)