ゴジラ バーニングブラッド feat.リバイス&トリガー 作:ホシボシ
インファント島。
それがテネの故郷の名前だった。
そこに住む"ビーナス"という種族をわかりやすく説明するのであれば『妖精』とでもいえばいいか。
彼ら、彼女らは、地球の眷属であり、そのメッセージの代行者ともいえる。
インファント島には『終焉』と名付けられた時計があった。
これが動き、針がゼロを示す時が世界の終わりと言われている。
針が進む主な原因は『業』だ。人間の愚かさが崩壊を加速させる。
現に、水爆実験が行われたときに針は動いた。
カウントが進んだ時、まるで代償かのようにゴジラが現れたのである。
それもまた地球の使いであるかは、ビーナスたちでさえわからない。
水爆怪獣ゴジラ。
神代坂に甚大な被害をもたらした災悪の死後、ヤマネ博士はゴジラの同種がいるのではないかと危惧したが、それは正しかった。
海の底にあったのだ。ゴジラの卵が。
ゴジラはオスであったが無性生殖によって新たな命を地球に植え付けていた。
人間は誰も気づいておらず、とするとやがてこの卵は孵化し、第二のゴジラが再び破壊の限りを尽くすのだろう。
ビーナスはそれを運命と言った。
1954年の時と同じように観測する側に回ろうと決めたが、妖精も一枚岩ではない。
ビーナスの中にはセリザワ博士の自己犠牲をはじめとし、多くの罪なき命が失われたことを憐れむ声も多かった。
その結果せめてもの情けにのと、ビーナスたちは破壊神ゴジラのタマゴをインファント島に持ち帰り、守護神モスラのタマゴの隣に置いて祀ることを決めたのである。
そして時は流れ2000年。
白峰メイが生まれた年に、インファント島では
それがテネである。
ビーナスは地球の意思を感じ取れる能力がある。
それは花であり、風であり、空であり、生き物であり、巨大生物であり。
テネはその能力が特別強いとされ、次期島長の資格である『神子』という称号が与えられた。
だからだろうか? 彼女に呼応するようにして二つのタマゴが割れたのは。
「愛を忘れないでね」
テネの母がよくそう言っていた。
優しい両親に育てられ、テネはすくすく育った。
その傍にはいつもゴジラとモスラがいた。テネは生まれたゴジラを『ミニラ』と、モスラ幼虫を『ミニモス』と呼んで、いつも一緒にいた。
テネは母親から教えられたことを、そのままゴジラとモスラに伝えた。
神子故なのか、テネは幼いながらに母の想いをなんとなく察していた。
モスラは代々、インファント島の守護者であり、同じくして終焉時計がゼロを示した時にその原因を滅ぼすものとされている。
地球にとっての癌はおそらく、人類だ。
テネはそれが嫌だった。とても嫌だった。もの凄く嫌だった。
ならばとビーナスたちはその破壊の役割をゴジラに担わせようと言った。
テネは駄々をこねた。冗談ではなかった。馬鹿なことをいうのはおよしになってほしかった。
テネはゴジラも愛していた。破壊神なのにと言われてもサッパリだった。
同時に生まれたからなのか、ミニラとミニモスはとても仲が良かった。いつも一緒にいて、どちらかがいなくなると悲しそうに鳴いて探し回ったし、夜はいつもミニラがミニモスを抱き枕のようにして眠っていた。
いくら破壊の具現化のような怪獣の息子だったとしても、個体差がある。人間やビーナスだってそうだ。まったく同じ人間は生まれない。性格の違いがあるのはゴジラもそうで、彼はどちらかといえば臆病で危ないことが嫌いだった。
怖くなると目が赤くなって、雷が鳴ると自分よりもずっとずっと小さなテネの後ろに回って隠れる。
ビーナスたちの中にはゴジラを恐れるものも多かったが、テネはそうではなかった。
母もその想いを尊重してくれた。
いつか人間の世界でゴジラたちが暮らせる? そう聞くと複雑そうな顔をしたけれど……。
「ミニラちゃん。ミニモスちゃん。ずっと一緒にいましょーね」
テネが微笑むと、ミニラは何度も頷いた。
ミニモスもきゅうと可愛らしい声をあげた。
しかしどうやらミニラには一つ大きな問題があったらしい。
それが現れたのはミニラが少し大きくなった時だった。
シルエットが恐竜のように変わったので、テネはミニラの名前を『ベビーゴジラ』と名付けて、同じく少し大きくなったモスラを『ベビモス』と呼んだ。
ビーナスには影響を及ぼさないが、ゴジラの体には放射能のエネルギーが纏わりついているらしい。
ベビーになった段階で体からは微量の放射線が放たれるようになり、成長するに従ってその濃度も強くなっていくことが予想された。
これを克服しない限り、どうやらゴジラは人間たちにいじめらてしまうらしい。
テネは島長である祖母に助けを求めた。
すると祖母は、インファント島に伝わる神秘の水を飲ませれば、ゴジラの体から放射能が消え失せると教えてくれた。
テネはすぐにベビーに水を飲ませようとしたが、そこで初めて明確に一部のビーナスから反対の声があがった。
その水は神聖なものであり、それを口にするのはモスラのみと決められてきたからだ。
掟を破ることは許されない。
ましてや守護神モスラと、対の存在であろうゴジラに与えようなどと。
もしもゴジラに何らかの変化があって、インファント島が危険に晒されたらどうするのか?
いくらテネが次期島長になるとしても幼いゆえに未熟なのだ。
優しさで全てが許されるわけではないと声を荒げられた。
しかしそれでもテネは食い下がった。
それこそ未熟さを象徴するような暴れっぷりだったかもしれないが、この駄々はこねなければならないとわかっていた。
議論は三日間続いた。テネも参加すると意気込んだが、さっさと追い出された。
スネていると、やがて祖母が声をかけてきた。
水を飲んでいいと決まったらしい。テネは両手を振って、ピョンピョン跳ね回って喜んだ。
しかしテネは知らなかった。祖母は完全にテネの味方ではなかったのだ。
祖母はビーナスたちにこう説明した。
ゴジラがかつてあれだけのパワーを獲得したのは放射能のエネルギーが中心にあったからだ。
放射能の力によって歪に進化した体を制御できたのは、ほかでもないその核エネルギーがあったからだ。
ベビーは生まれた時からゴジラであった。
しかしてその中心にあるエネルギーが失われるということは、早い話が生命維持装置を外すようなものだ。
つまり、短命になるということだった。
祖母はタマゴから出たゴジラを見たときに確信していた。これは紛れもなく、破壊神の器であると。
生物には本能というものがある。たとえ今、ゴジラがテネやモスラと友好な関係を築けていたとしても体の中に刻まれた『血脈』、あるいは本能には抗えない筈だ。
テネは人間に夢を見すぎている。
ゴジラをこのまま成長させていたとして、生まれるのは放射能をまき散らす存在。それは多くの命に影響を及ぼす。
そしてゴジラもまた大きな悪意や敵意を向けられたときに、己のありあまるパワーを自覚する筈だ。
その時に待っているのは有効な話し合いなどではない。愚直なる破壊である。
ゴジラに居場所はない。
ならばまだ被害が少ないうちに、優しいままで終わらせてやるべきだと。
だからこそビーナスたちはテネやベビモスに黙って、ベビーゴジラに命の水を飲ませた。
するとみるみる放射能が消え去った。
このまま成長して、体が大きくなって、維持できずに死ぬことが決まった瞬間だった。
テネが5歳の時、島に人間がやってきた。
テネは人間を見るのが初めてだったのでとてもワクワクしていた。人間の言葉もパパッと覚えて準備は万端だった。
なんでもビーナスは望みさえすれば人間になれるらしい。
ある日、島の近くで漂流していた日本人を一人のビーナスが見つけて先代モスラの力を借りて島まで運んだ。
そこで男とビーナスの女は恋に落ち、彼女は人間になったのだ。
体が大きくなって、結婚して、子供を産んだ。
世界中を旅した夫はその経験を活かして旅行代理店を起業したらしく、今日はその報告と里帰りにやってきたのだという。
「はじめまして!」
テネは笑顔で挨拶を行った。
初めて見る妖精に、白峰メイはとても驚いていた。
メイとテネはすぐに仲良くなった。
ずっと一緒にいたかったが、この時期からテネは神子としていろいろ勉強することも多く、その日も祭壇に呼ばれて退屈な話を聞かなければならなかった。
しばらくするとテネはモスラの意思を感じた。
あの子が危ない。そういう内容だと察した。
テネは祭壇を飛び出した。
そして、へたり込むメイと、傍にいたゴジラを見つけたのだった。
どうやらインファント島にある立ち入り禁止の洞窟の傍まで迷い込んでしまったらしい。
ほとんどないことだったが、たまたま運悪くそこからスカルクローラーというトカゲの怪獣が現れてしまったようだ。
非常に獰猛な怪獣であり、小型であっても多くの生物を食らいつくすとされているほどの凶悪な存在だった。
危なかったとテネは胸をなでおろす。メイも改めて腰を抜かした。
「本当にキミのおかげだよ。ありがとう」
メイは笑顔を向けた。
ゴジラは返事をするように鳴いた。
このころ、ゴジラとモスラは順調に大きくなっていた。
テネはベビーから、『リトル』と呼び方を変えていた。
リトルといっても20メートルはくらいはある。
とはいえメイは怯まず、大型犬を接するくらいの調子でゴジラやモスラを撫でていた。
「こわくないの?」
「どうして? 守ってくれたんでしょ」
「うんっ! ゴジラもあなたが好きみたい」
「ほんと? うれしいなぁ」
メイはゴジラをたくさん撫でた。
メイは本当にゴジラに感謝していた。
というのも、スカルクローラーと対峙するゴジラの目が赤くなっていたことに気づいたのだ。
よくわからないが、ゴジラの恐怖がメイの心に伝わってきた。
ゴジラは怖かったのだ。
それでもメイを助けるために、凶暴な怪獣に立ちむかってくれた。
それが嬉しくて、メイはありったけの感謝の気持ちをゴジラに向けた。
その日からしばらくメイとテネとゴジラとモスラの四人で遊んだ。
お昼も一緒に食べた。ゴジラはメイが食べているものが気になったようだ。
「ハンバーガーだよ。ほしい?」
メイは自分のハンバーガーをすべてゴジラにあげた。
確かに凄まじく美味かったが、ちょっとしょっぱい。
それに、あまりにも少なすぎてゴジラには物足りなかった。
◆
「それなぁに?」
夕焼け。
オレンジ色に染まった海と砂浜。
メイの肩の上にテネは座っており、後ろではゴジラとモスラが並んで座っている。
「これ? カメラだよ。パパからもらったの」
「にんげんのどうぐね。わたし、しってるよ」
テネはなんとなくそんなものがあるということは知っていたが、実物を見るのは初めてだった。
風景を記録として残せる。それはとても素敵なものだ。
「とろっか。これね、けっこう高いやつみたいで。すぐ出てくるんだよ」
「ほんとう!?」
タイマーもついている優れものだった。
メイはそれをセットして、急いでテネたちのところに戻る。
「写真を撮るときはこうするんだよ」
メイはピースをした。テネは真似をした。
「ぴぃ! ぱや!」
ゴジラも真似をしてみた。
「ぴゅい!」
モスラは手がないからできないと嘆いていた。
こうして、出来上がった写真はぼけぼけだったし、ゴジラとモスラはそもそも入り切っていなかった。
まあなんというか稚拙というか、プロからしてみれば見れたものじゃないものだった。
でもその時のメイたちにはとても素敵なものだった。テネはその写真をこっそりとしまって宝物にしてある。
「ねえ、メイくん」
「うん? なぁに?」
「ゴジラたちはね、人間とお友達になれると思う?」
テネは常々思っていた。
ゴジラはこの島で一生暮らすのだろうか?
テネにとってはいいことかもしれないが、ゴジラたちにとってはどうだろう? まだそんなことを考えるほど、誰もが大人ではなかったが。
「なれるよきっと。うん。ぼくは絶対にそう思う。いつか僕らの街にきて、そしたらお腹いっぱいハンバーガーもお魚も食べられるよ。きっと」
「ほんと? よかったねリトルちゃん。モスラちゃん。うれしいね。えへへ」
ゴジラとモスラはよくわかっていなかったが、テネとメイの嬉しいが嬉しかったので、とても喜んでいた。
その後、メイたちが日本に帰ることになった。
テネは離れたくないとワンワン泣いたが無駄だった。
それにもう一つ、辛いことがあった。
インファント島の場所は知られてほしくないらしい。
メイの両親は重々承知の上だったが、メイはまだ幼い。そうなるといろいろ心配だ。
だからメイの記憶を消さなければならないと言われた。
それができるのはインファント島の神子の務めだった。
お守りと呼ばれた十字状の短剣を渡される。神器と呼ばれるもので、テネが触れるとテネのサイズになった。
それでメイを刺し、記憶を書き換えればいいらしい。
「ごめんね。メイくん……」
「ううん。いいんだ。また大人になったら絶対来るよ。そしたら、また一緒に遊んでくれる?」
「うん。やくそくだよ……」
それは無理な話だった。
お互い、なんとなくわかってしまう。
テネは泣きながら、お守りを刺した。
メイがいなくなって、テネは泣き続けた。
悲しみが伝達したのか、ゴジラとモスラ悲しそうだった。
そんな時、島長に名を呼ばれた。
テネはドキッとした。涙も引っ込むほどのドキドキだった。
その実、メイに忘れられるのが嫌すぎて、ほどほどに記憶を残してしまったのだ。
ゴジラを忘れてほしくもなかったし、改ざんもほどほどに済ませてしまった。
島長はテネをジロリと見つめ、やがてため息をついた。
どうやらすべてを把握されているようだが厳しく追求しなかった。
それを許すほどのことがあったからだ。
「カイザー、か」
「え?」
「あの男の子……」
はじめて聞く単語にテネは困惑した。
そこでとうとう島長は命の水を飲んだゴジラがこのままでは危険だということを包み隠さず教えた。
メイは驚き、当然怒りの感情を覚えたが、なにより島長に感謝した。
「どうして教えてくれたのぉ?」
「ゴジラがあの子を救うとは、思わなんだ」
「そんな! 当然だよっ! だってゴジラは優しいもんっ!」
「優しさ。そうか、優しさ……」
島長は噛みしめているようだった。
カイザーとは? ポツポツと語り始める。
実は、ビーナスにも具体的な詳細はわからないようだ。
しかし以前からたびたび、そういった存在がいると報告は受けていたらしい。
はじめは動物と会話ができるという女性の存在だった。アメリカに住んでいた彼女は、犬が言っていることがわかると多くのテレビに出演した。
世界各国で似たような人間がチラホラと現れる。
インチキもいたが、本物もいた。
それは動物に限った話ではない。ある登山家が急遽登山予定だった日をキャンセルした。理由を聞かれたら、嫌な予感がしたと答えた。実際にその日、山で雪崩が起きていた。
あるダイバーが魚に帰れと言われた気がして帰ってきたと告げた。神の視点だからこそいえるし、原因は割愛させてもらうが、そのダイバーが無理に潜っていたら死んでいたとここに誓おう。
このように少し特殊な能力を持った人間が現れ始めた。
声が聞こえるもの。意思を伝えられるもの。それをカイザーと呼ぶらしい。
わかりやすくいえば、テネのように自然や怪獣と会話ができるものだ。
文字を使うわけではない。心で会話をするのだ。
インファント島には代々、伝えられてきた言葉がある。
「自分がどんな存在であるかは、自分が決めることができる……」
ビーナスは望みさえすれば人間になって人間と恋に落ちることができる。
望みさえすれば鳥になって大きな翼で青い空を飛ぶことができる。
望みさえすれば魚になって深い海を泳ぐことができる。
望みさえすれば獣になって緑の森を駆け回ることができる。
文字通りであり、内面の話でもある。
「テネ、心なんだ。大切なのは」
島長はメイを助けたゴジラを評価した。
今はまだその事実だけでいい。島長はゴジラを助ける方法を告げた。
それは、『地下世界』にある。
「なぁに、それぇ?」
そこでテネは地球の秘密を知ることになる。
地下深くに巨大な空洞が存在している。地球各地にあるトンネルからそこへ行くことができ、その地下世界には怪獣が形成した独自の生態系が存在しているのだという。
「かつて地上にいた恐竜や、一部の生命が地下世界に逃げ込んだため絶滅を免れた」
「はじめのゴジラがそうなんだねっ」
島長は頷いた。
そういった生き物たちが独自の進化を遂げてスカルクローラーなどが生まれたのである。
地下世界には想像を絶するほどの物質や力が存在している。
「そのアースエネルギーの一端こそがモスラであり、命の水である」
その根本に触れることができれば、ゴジラは放射能によって生まれたエネルギー凌駕する力を手に入れることができるだろう。
しかし問題もある。スカルクローラーをはじめとして地下世界には数多くの危険な怪獣が潜んでいる。地下世界には食料や栄養も豊富な事と、地下トンネルが複雑に入り組んでいたり、絶滅に至る多くの出来事が地上で起こった事も相まって、多くの巨大生物は地上に出ることを本能的に嫌っている面がある。さらに先代モスラをはじめ、何体かの怪獣は他の怪獣が地上に出ないように睨みを利かしているらしく、そういった上位存在のおかげで地上は『一応』平和なのである。
しかし自分たちから向かうとなると、そこは完全に弱肉強食の世界だ。地球の環境には適応できないが、地下世界の環境下であれば存分に能力を発揮できるものも多い。
力を失ったゴジラや、まだ幼虫のモスラでは抵抗もむなしく殺されてしまうだろう。
「でもいくもん! でないと、どのみちゴジラは死んじゃうんでしょっ?」
テネは一人でも行くつもりだった。
手足を食いちぎられても、歯でそのエネルギーを噛んで引っ張ってくるつもりだった。
むろんそれは幼い彼女の楽観的な考えの一つでしかない。しかし島長はその想いを尊重した。むしろこれが神子になるための最後の試練である。
非情ではあるがテネが死ねば反対派は安堵するだろうし、テネが威厳を示すことができればみんな彼女を島長として認める。
なにより、テネがそう望んだ。
そしてその話を聴いたゴジラとモスラもまた同じ気持ちを抱いたからだ。
「すごい……! 凄いよテネ! それでっ、キミたちは地下世界に!?」
現在、メイの手の上でテネは気まずそうに目を逸らした。
森には怪獣たちとメイとテネとケンゴが留まり、アンタレス本部にはカイたちと一輝が戻っていた。
「そ、それがね……、いろいろあって。本当にいろいろあったんだよ? とにかく、いろいろあったから、ぜんぜんダメだったの」
「えぇ」
「でもっ、でもねっ! 助けてくれた怪獣さんがいたんだもんっ」
キングシーサー。
日本の守護怪獣の一体である彼が、テネたちの事情を把握してアースエネルギーの中でも最も強力だったものの一端を与えてくれたのだ。
ゴジラはすぐにそれに適合し、見事に死の危険を振り払ったのである。
完全な他人――、もとい他獣任せではあったが、彼女の勇気は評価され、おまけで神子の試練も一応は合格したのだとか。
『まあとにかくそんなわけで! ゴジラは優しくて良い怪獣なんですっ! 絶対に街を破壊することなんてありえませんもーんっ!』
テネは頬をぷくーっと膨らませた。
モニタ越しにアンタレス本部で、それをカイたちが見ている。
「いや、そうは言うてもやな……」
「別個体だ」
カイはあまりにも大きなため息をついて崩れ落ちるように椅子へ座った。
「どういうことや?」
「そのまま意味だよナスさん。もう一体ゴジラがいたっつぅことさ。マジかよ……、クソッ!」
カイは机を殴る。どういう感情なのかは皆、曖昧に感じた。
カイ自身も気まずい雰囲気を察したのか。急いで神代坂を襲撃したほうのゴジラをモニタに映し出す。それはメイの携帯にも送られたようで、メイはテネに映像を見せた。
『確かに……、インファント島で生まれたゴジラちゃんとは見た目に違いがあります』
「我々はいつの間にかゴジラが一体しかいないと錯覚していたが、その前提が間違っていたというわけかな。水爆怪獣ゴジラはタマゴを二つ残していたんだろうか?」
『それは違うと思います。お祖母ちゃんたちはタマゴが一つだって言ってたもん』
「ビーナスの探知能力でも捉えられなかった個体がある可能性は?」
『ない、とは言い切れませんけど……』
「あるいはタマゴではなく、元々いたかだ。絶滅を免れたゴジラサウルスが二体いても何にも不思議じゃない」
『たしかに。そっちのほうが可能性は高いと思います。生物は似た種に分かれることがありますから。ゴジラサウルスじゃなかったとしても……、たとえばゴジラモドキサウルスとか』
テネは振り返る。
釣られて傍にいたメイとケンゴも振り返った。
森の中にゴジラがいて、ゴジラの頭にモスラが頭を乗っけていて、その隣にアンギラスがいて、さらにその隣の大木の上にはラドンがとまっている。
とんでもない景色だ。とりあえずケンゴが手を振ってみると、ゴジラが振り返してくれた。
『できればコチラに協力してもらえると助かるんだが……』
鷹診がそう言う。
テネはテレパシーを飛ばして怪獣たちに意図を伝えた。
「キュオン! キュゥゥ!」
『な、なんて?』
「モスラはもちろんですわと言ってます。人間の皆様のお力になりたいですわと言っています」
『蛾のくせになんてお上品なしゃべり方!』
『こらバイス! 失礼だろ! お前は黙ってろ』
「イア゛ァァアアン!」
『アンギラスはなんて?』
「嫌だと言っています」
『イヤーンッ!』
『バイス!』
『だって! ケチ! 協力してくれてもいいじゃん!』
「ピヤァァン!」
「人間は怖い生き物だ。関わると危ないと言っています」
「キュオオ!」
「ラドンもそうだそうだと言っています」
『んなワケあるか! むしろお前らの方がよっぽど危ないわ!』
『バイス!』
「ィア゛アアン」
「現にあの大きなモグラやゴリラのような機械でいじめられたと言っています。とても痛かったと言っています」
「キュオオ!」
「ラドンもそうだそうだと言っています」
『それはお前らが悪いんだろーッッ!』
『こらバイス! 仕方なかったんだ洗脳されてたんだし』
『そっか。でも誰に!? 本当なのか怪しいけどね!』
「そんな! ねえみんな、誰にそんなことされたの!?」
「イアァアン!」
「アンギラスは覚えてないと言っています」
「キュオオ!」
「ラドンもそうだとそうだと言っています」
『べつに訳さなくてもいいよ今のは!』
「キュィイイ!」
「モスラは原因を突き止めて、対処しよう。それが世界平和のためですからと言っています」
「ピアァアンン!」
「アンギラスはそうだったとしても自分たちが関わるのはやめたほうがいいと言っています。また操られるのは嫌だと言っています」
「キュオオ!」
「ラドンもそうだそうだと言っています」
『気持ちはわかる。気持ちは、ええ、とてもわかりますよ。でもそれでも! 力を合わせようよ! 大丈夫、おれっちはキミたちを理解してる。だってみんな、おれっちと同じ、キラキラした目をしてる。優しい目を……』
「キュォオオオン」
「ラドンはそうかな……? と、言っています」
『あ。ぜんぶ肯定してくれるわけじゃないのね……』
「イヤァン!」
「アンギラスはもうゴジラたちとは戦いたくないと言っています」
『だああああもう! そんなでかい図体してるのに臆病なんだから!!』
「キュオオ!」
「ラド――」
『はいはい。わかってますよ。そうだそうだって言うんでしょ?』
「いえ。ナメてるとソニックブームで吹き飛ばすぞクソガキが。俺はスピードとプライドを軽く見られるのが大嫌いなんだ。ほら、来いよ。おら来いよと言っています」
『怖いわ! なんで!? イントネーションさっきと同じだったでしょうが! てか、え? ちょっと待て。鳴き声の尺的にそんなに喋ってなくない? テネちゃん適当に言ってない!?』
「ち、ちがいます! テレパシーなんです! そりゃあまあ少しは翻訳の過程で言葉が変わることはありますけど……! だいたい合ってるもん!」
またラドンが鳴いた。人間には付き合ってられないと翻訳された。
さっさと飛び立ち、火口の先にあるトンネルから地下世界に帰っていった。
そしてそこでゴジラが鳴いた。
テネはそこで固まる。
「どうしたの?」
「………」
「テネ? 大丈夫?」
「……我々は人間に関わるべきではないと言っています」
「っ」
「そのほうが人間もいい筈だろうからって」
テネは悲しそうだった。
しかしゴジラにとっても、一番大事なのは仲間の怪獣たちだった。
だからアンギラスやモスラを危険に晒すことはしたくないと。
「ギャオン」「ャアアン」
ゴジラが鳴くと、アンギラスが頷いた。
かえろう
OK
そんな会話があったのだろう。
二体は森を歩き、やがて海に出て、海中トンネルで帰るつもりなのだ。
モスラは残ってくれるようだが、ゴジラは歩き出した。
振り返るとき、ゴジラはメイを見た。
メイもゴジラを見ていた。
「よかったね。ゴジラ、悪い怪獣じゃないんだ!」
「ありがとう。そうだね、うん、本当にありがとう」
ケンゴに言われて、メイは複雑そうに微笑んだ。
いろいろあるのだろうが、今はこの安心感を信じたい。
ドハティ神に、乾杯……(´・ω・)Y