アスターの料理(味はともかく、衛生観念と調理環境に不安がある)を腹に詰め込んだあと、城を去ろうとしたジャックは、ガンツが戻ってきていることを思い出して、挨拶に出向こうとした。
だが、かつて彼の部屋だった空間は消滅しており、どこにもその姿が見えなかった。途中、女子トイレから出て来たチャーリーに問うと。
「ご実家におられるのでは?」
との答えに、ジャックは間抜けな顔を晒した。何となく、ガンツはこの城で生活していると思い込んでいたのだが、よくよく考えれば『西方獅子』の名を持つ四大貴族でもある、実家があるに決まっていた。
「あのさ、隊長のお母さんって、どうしてる?」
「さあ……私もそこまでは。ご存命とは聞いてますけど、ご高齢ですしあまり人前には出られないのでは」
ジャックは、チャーリーに礼を言って別れた。
ガンツに対する思いは複雑なものがあった。個人としては、気さくで尊敬できる隊長である。
だが、その父ガウェインは、親友であるジャックの父ケアンを殺し出奔した罪人とされている。それを切っかけに、『西方獅子』家は勢力を落とし、両騎士団は解体された。
そして、戦争の最中、ジャックはガウェインと邂逅し、幾度かの邂逅の後、果し合いとなった。
『花翁林』と『龍殺し』の決闘は、少年の勝利に終わる。だが、去来したのは歓喜でも達成感でもなく、徒労と違和感だけだった。
本当に、ガウェインは父を殺したのか? その答えはついぞ得られなかった。真実を知る機会は、永遠に失われてしまった。
だが、ガンツは父との因縁に、少なくとも自身は決着をつけた。
ラジアータを出る際、手紙でそうジャックに伝えた。それは、力とは別種の強さだと、彼には思えた。
また、すぐに会える。そう呟いて、ジャックは城を後にした。
城門を出て、街をぶらつこうと思い至ったジャックだったが、やはりまだ体が本調子でなく、雑貨屋『黒薔薇』で小休止を取っていた。
「居座るんじゃないよ、クズなんだから」
「アイテム選んでんだよ」
店主のローズほど、客商売に向かない性格の持主は存在しないだろう。美人だが、口の悪さはアルと引けを取らない。品揃えと美貌、そして一部の者に受けがいいのか、今日まで店は存続しているようだが。
「お、タイミングいいな」
そこへ、『ヴァレス』のフェリックスが入って来た。瞬間記憶能力を持つ優秀な魔術師で、女性と見まごう美貌から、『男性の』ファンクラブが存在する程だ。
「ジーニアスがお前を探してたぞ」
「え? あいつ、『ヴァレス』にいんの?」
「ああ、今ならまだ、中にいるはずだ」
「ふ~ん、サンキュ」
向こうから用があるとは珍しい、ジャックは『黒薔薇』を出、学院へと足を向けた。