『火龍』、『風龍』、『地龍』。より強大に蘇った龍たちも、『龍殺し』により屠られた。
妖精たちも、一時期の勢いを失い、ドワーフ、ゴブリンは表立った敵対行動を放棄し、『ヘレンシア砦』にもつかの間の平穏が訪れていた。
これまで、決して楽な戦いではなく、恐らくは水龍、そして銀龍、金龍も控えている。エルフ、オーク、ブラックゴブリンは未だ健在で、予断を許さない状況であった。
だが、常に警戒と緊張の中にあることは、心身に多大な消耗を強いるものである。それを熟知しているラークスは、次なる戦いの準備は怠らず、人心を安定させるべく手を打っていた。
『龍』撃退の、戦勝記念花火大会である。
花火大会は、毎年ラジアータで行われている。今回はそれに、より大きな付加価値を付けようというのだ。
アナスタシアをおだて、『東方山猫』家の後援のもと、例年にない大規模かつ豪華な大会となる予定であった。警備関係は騎士の担当となり、各ギルド、市民たちには特別金が支払われる上、存分に楽しんでいただく、との布告がされた。
騎士たちは、(一部を除けば)セレクション通過後に英才教育を施された、精鋭中の精鋭である。だが、それゆえ、人員の確保が難しいという弱点があった。
各ギルドは、それに比べれば門戸が広く、数の上で優位である。
さらに、各関係との折衝が少なく、迅速な行動がとれる等の長所もあった。
ギルド長、戦士ギルドの強者たち、オラシオンのモンクマスター、『ヴァレス』の魔術師、そして闇を行き交う盗賊たち。一部には、騎士を軽く凌駕する力を持つものもいた。
ジャックも、そうした面々と触れ合って完成した戦士である。
王国にとっては、欠かすべからざる戦力だった。これからの戦いでも、大いに戦果を期待されている。
この大会は、彼らへ向けての慰労の側面もあった。戦果を挙げれば名誉や昇進が約束される騎士たちとは違い、ギルドメンバーには、目に見える恩賞が必要だったのだ。
そういった裏の事情に聡い者たちは、終わらぬ戦いに一抹の不安を感じつつも、無暗に表には出さず、皆へ休暇を与え鋭気を養うよう通達した。
当人たちの反応は様々である。
ユージンなどはただ酒が好きなだけ飲めると歓喜し、より旨い晩酌のためと当日まで禁酒を始めた。
エリート層や権力者を嫌うアルバは、特別金を突っぱね、強者の施しを良しとせず不参加を宣言した。
ガレスはそういった催しに関心がなく、いつも通りに鍛錬を続けるつもりでいる。
アーシェラは、警備員に新生『JACK』シリーズを投入し、ラークスへ存在感を示そうと、不眠不休の毎日を送っていた。
そして、『ヴォイド』の構成員、フラウはジャックの家へ向かって、軽やかに裏道を跳ねていた。