ラジアータ城は、文字通り国の中枢部である。王族、重臣、貴族、そして騎士、選び抜かれたエリート達が、日夜、国家のために、あるいは自身の栄達のために身を粉にしている。その念が渦巻いているせいか、はたまたそういう設計なのか、城は実際よりも巨大に見え、威圧感さえ漂わせていた。
かつてこの城に騎士として在籍し、解雇され、後に『龍殺し』として自由な出入りを許されていたジャックだが、正直に言ってしまえば、あまり良い思い出がなかった。
ダイナス将軍の死、後に知ったクロスの悪行、銀龍であり手にかけたルシオン、そして、リドリー。ラジアータを早目に去ろうとしていたのも、この城を見るとどうしても彼女を思い出してしまうからだった。
「ほら、ちゃんとついて来いよ」
「わかってるよ」
にもかかわらず、再び足を踏み入れてしまった。レナードに先導されながら、宰相ラークスの待つ執務室へと向かう。
「礼儀正しくしろよ、ラークス様は家老も兼ねてらっしゃる、文字通り王国のNO2なんだからな」
「ジャスネのおっさんは……やっぱもう辞めちゃってんだな」
レナードはばつが悪そうに頭を掻いた。
「ああ、引退して屋敷に引きこもってる。誰とも会おうとしない。リドリー様のことがあって、これまでの功績から処罰は受けずに済んだんだが……そのままって訳にはな」
「そうなんだ……」
「妖精との戦争で騎士団もぼろぼろだ、リドリー様は言うに及ばず、ダイナス将軍もクロス殿も戦死、黒色山羊槍士団(ノワールシュベール)は壊滅、ガンツ殿は逐電、ルシオン様も……4大貴族も東方山猫(ライアン)家の一人勝ち状態だな。再編はまだまだ進んでない」
レナードは非難めいた視線をジャックへ送った。
「ジャック、お前が残ってればもう少し楽だったんだがな」
「……色々あったんだって」
レナードの主張はわかるものの、あの時の、そして今のジャックの気持ちは変わらなかった。
ここには、思い出が多すぎる。
部屋に通されたジャックを、ラークスが迎えた。頬のこけた、怜悧さを漂わせた壮年の眼鏡の男。記憶の中の姿より、瘦せているように見えた。
「お久しぶりですね、ジャックさん」
「うす、お久しぶりっす」
ジャックが姿勢を正す数少ない相手の一人だった。騎士時代は雲上の上司として、妖精との戦争が始まってからは事実上の直属の上司として接してきた。戦争末期には、ジャックに騎士としての立場と権限、それでいて隊には自由な裁量を許すという破格の待遇を与えていた。
そこには、それこそがこの少年の力を最も引き出す方法であり、妖精、そして龍を打倒するに最適な選択であるとの目論見があったものの、ラークスはケアンの息子であり、ついには父すら超えたジャックには好感を抱いていたのだった。
「旅の中、得られるものはありましたか?」
「はあ、ぼちぼちっす」
ジャックの声は硬かった。かつての世間知らずな少年ではない、戦争と様々な地を回って得た経験は、目の前の男の持つ威厳や権力、そして思慮深さを改めて認識させていた。
「ともあれ、元気そうでなによりです」
「ラークス様も……あの、それで、俺に何か……」
「あるから呼んだんだぞ、ジャック」
唐突に入室して来たジーニアスに、ジャックは呆気に取られていた。
「ジーニアス? どうして……」
「彼がいたほうが、説明がしやすいと思いましてね」
「全く、お前は話を聞かない。そもそも、さっきヴァレスで僕が……」
「あー、わかったわかった、で、なんなんだよ?」
「お前にもわかるように言うぞ、妖精たちが再び戦争を起こそうとしている」