ジャック「団長、お母さんとは話しできたんですか?」
ガンツ「はい、今まで散々苦労をかけまして……」
連続して花火が打ちあがる。リンカと乙女たちは、少し離れたところから二人を見守った。
ジャック「なんか、大変なことになっちゃいましたね」
ガンツ「そうですね……騎士団に復帰できたのは嬉しいですけど、龍と戦うのは……いや、今まではジャックさんにそれを任せきりでしたから、少しは楽をしてもらいませんと」
ジャック「はは、まあ、皆の助けがあったからできたんですけど」
ガンツが、高価そうなワインを取り出し3つの杯へ注いだ。
ガンツ「さ、どうぞ。家にあった一番良いワインです」
ジャック「いいんですか?」
ガンツ「今やジャックさんは副団長、お酒くらいいいでしょう」
互いに杯をとり、一つはリドリーへ捧げ、二人は乾杯し一気に
ワインを飲み干す。
「ひゃあ~!」
「ふふ、まだジャックさんには早かったようですね」
「……リドリーは、お酒はどうだったんでしょうね」
「そうですねえ……ジャスネさまは中々の酒豪でしたが……」
乙女たちは言葉を発しない、そうすべきでない場が形成されて
いると肌で感じられるからだ。
「団長も聞いてると思いますけど、向こうにはリドリー……がい
ます」
「ええ、ラークス様とジーニアスさんから伺いました」
「ジーニアスの言うように、秩序の修正とかいうのだったら……
また、リドリーを……」
「ジャックさん、まだわからないじゃないですか」
「え?」
「ジーニアスさんは優れた頭脳をお持ちです、でも、推測が全部
正しいとは限らないかもしれません」
続く言葉のためか、ガンツはワインを一気に呷った。
「……そのリドリーさんは、本当のリドリーさんで、何かがあっ
て記憶を失ってしまってるだけかも」
『リドリー』の姿を見てから、一瞬たりともジャックの頭脳か
ら離れない誘惑であった。
そして、先の戦争の終わり、『白夜の都』から彼女の亡骸を抱い
て脱出し、この墓へ埋葬した記憶がそれを否定し続けている。
リドリーは、間違いなく死んだ。
「だから、結論を出すのはまだにしましょう」
他の人間の口から出ていたら、平静でいられない台詞だった。
だが、この人の好い団長から発せられたそれは、悪意なく、そ
して彼自身が信じたがっているものだと信じられた。
ガンツとリドリーの面識はそれほど深くない、彼女の方は、当
初、頼りない団長を不安がっていた。しかし、激動の運命の中、
同じ仲間として、人として信頼があったのは確かであった。
「そうかも……しれないですね」
「ええ、だからジャックさん、最後まであきらめないでおきましょう」
「はい」
それきり、リドリーの話題は出なくなった。ラジアータを離れている間の出来事や、『水龍』への対策について語り合った。
「リンカ姉さま、知ってたの?」
「まさか、コテツの誘いを断ってまで会う奴が、ろくでもないのだったら一発殴ってやろうって思ってたけど……ろくでなしはあたしだったね」
リンカは乙女たちへ小さく手を叩いた。
「さ、戻るんだよお嬢さんたち。今夜のあいつらは、二人きりにしてやらなきゃダメさ」
乙女たちは素直に従った。
その心に浮かぶのは、淡い想いの終焉、諦めきれない決意、リドリーという少女への憧憬……様々であるが、リンカの助言が正しいとの認識は共通していた。