現実から逃避することも、嫉みに身をやつすこともアリシアは選ばなかった。ただ、ひたすらに少年を越えるべく鍛錬を重ねた。彼が王国を離れても、怠ることはなかった。
そして、その努力と才能により、彼女の実力はさらなる飛躍を遂げた。
帰還した少年……すでに青年となった『龍殺し』は、その数段上をいっていたが。
「行くわよ……」
「おう」
どうすれば良かったのか、聡明な彼女にしてもわからなかった。例え少年と出会った時、否、それ以前に戻れたとして、どう努力しようとも追いつける気がしなかった。かといって、諦観することもできない。
だから、けじめを付けたかった。
「はあっ!」
個人として、ジャックに依頼を出した。一騎打ちをしてくれと。せめて、直に彼との差を知りたかった。
「やあっ!」
アリシアの剣技は卓越したものであった、幾人が、斬られたことに気づかぬままに倒れただろうか。エルウェンとも、ある程度は打ち合えるようになっていた。
「おっと」
そして、それはジャックにかすりもしなかった。決して技量が低いわけではなく、彼の技量と経験がはるか上をいっているだけだ。それが、ますますアリシアを焦燥させた。
ジャックは未だ攻撃を仕掛けて来ない、手に持った『魔剣グラム』で打ち合う事もしなかった。彼女を軽視しているのではなく、間違っても怪我をさせないためだ。
アリシアは仲間であり優秀な戦士だ、次の戦いでもきっと力を借りるだろう、ここで怪我をさせては本末転倒である。
彼自身、理由の所在は不明ながら一騎打ちを望んできた彼女に対して礼を欠くとは思う。だからといって、忖度したり接待をしたりといった器用なマネもできない。
「よっ……」
「――!」
ジャックの掌底が、剣を振り上げようとしたアリシアの腹に叩き込まれていた。カインの八気掌にも劣らない重い一撃だった。
ジャックはそのまま崩れ落ちる彼女を支えて、祭壇へ背を預けさせた。しばしアリシアは呼吸を忘れ、一気に取り戻したときにせき込んだ。
「つ……」
ダメージはそれほどではない、骨も内臓も痛んではいないが、衝撃でしばらく動きがとれない。回復まで、たっぷり10回は致命傷を受ける時間がかかった。
「大丈夫か?」
「ええ……」
ジャックは息も切らしていない。これが、今の二人の実力の差だ。
実戦なら……という無意味な仮定をアリシアは振り払った、その場合は、ジャックはアイテムや武器を自由に振るい、その差はさらに開くはずだ。
「悔しいわ……」
ジャックは、何も言わなかった。
アリシアの心情はわからない、だが、かつてのかけがえのない友を思い出す何かがあったからだ。