現在、『ラジアータ王国』において、龍と妖精たちとの戦争、国内の権力闘争の行方に次いで重視されているのが、他国との交易である。
これまで、王国は外交に重点を置いていなかった。一つに、距離的な問題がある。北の大地や東の国、南の国家群までは遠く、間には妖精の住処があり容易に行き来が出来なかった。
そして、ラジアータでは輸入輸出に頼らず、国内での自給自足が成っていた。かつてのドワーフやダークエルフ、村々の特産品を除けば、交易自体が存在しないと言って良い。
だが、今やその『理』も変わろうとしている。
『龍』と妖精の脅威は、『龍殺し』によって取り除かれつつある。文字通りの新時代が訪れるのだ。現に、ラークスによって、異邦人3人娘が頻繁に城に召喚されていることも説得力を高めていた。
最も、これは早合点であった。確かに、ラークスは3人娘からそれぞれの国の様子を聞き出してはいたが、すぐにでも交易を始めるというほどに準備は進んでいない。
交易と一口に言っても、国家間のそれは莫大な資金と資源が発生する。必然的に、関わる人数も膨大なものとなり、利害関係の調整にも年単位の時間を要するほどだった。
むしろ、ニュクスを擁する『ヴォイド』の方が、アドルフを引き込んで、積極的に北の大地とコンタクトを取ろうとしていた。
よって、ラークスのそれは。ナギサ、ヴァージニア、ホリィより、謎多き異国の地のことを少しでも探ろうという動きに過ぎなかった。そして、前者二人はともかく、ホリィは自身の狂信を信じぬ国々を辛らつに評するため、正確性に欠けた。
また、彼の本当の目的は別にあった。
「『桃色豚闘士団』にい⁉」
「ああ、ラークス殿から乞われた」
『テアトル』の訓練場で、ナギサとばったり出会ったジャックは、彼女が『桃色豚闘士団』への加入を打診されたと知って心底驚いた。
「『白狼』と『鉄腕』もだそうだ」
「ええ……、団長は……知らないわけないか」
3人の腕についてジャックは不満はない。だが、他国の人間を勝手に騎士団に所属させていいものだろうか? 多少なりとも世間にもまれて来たジャックなりの懸念だった。
最も、ラークスから提案したことであれば、ジャックの懸念など無意味な次元のことであろうが。
「あくまで仮の立場ではあると言われたがな」
「ふーん、で、どうすんの?」
「目下検討中といったところだが……それよりも、次なる龍討伐に私は参加するのか?」
「うん、お願いするつもり」
「そうか……」
少しだけ、ナギサは嬉しそうに見えた。
雪辱を果たす、潜伏、布教、3人娘のラジアータ訪問の目的はそれぞれ異なるが、ジャックに必要とされるのはやはり、喜ばしい事なのだった。