それらが噂となって城下町を走り出したあくる日、ジャックは一人『シャングリラ』を目指していた。
グリーンゴブリンたちの本拠地、というか廃材アートといった趣の洞窟に築かれた一画で、彼らはここに寝泊まりをしている。
「おーい」
用心深く、ジャックは声をかける。一応停戦状態にあるとはいえ、戦いになるとあの『ゴブリンビーム』が怖ろしい。シーザーですら一撃で戦闘不能になるのだから。
「……」
ややあって、数匹のゴブリンが姿を現してきた。
ゴブ、リン、モンキ、いずれもジャックと面識があるが、その小さな青い目には警戒に満ちていた。
「おっす」
「ナンノヨウダ……」
「そう怖い顔すんなって、聞きたいことがあるだけだよ。……お前ら、俺に会ったんだよな?」
ここでいう『ジャック』は、『リドリー』と共に行動し、『龍』
に変身した者のことである。
「オマエハオマエダ」
「そうなんだけど……、どういう風に来たんだよ? それから、ボルティブレイクも教えてくれたんだろ」
質問相手にゴブリンを選ぶのは、間違っているとジャックも思う。
しかし、エルフたちは未だ敵対関係、ブラックゴブリン、オークは論外、ドワーフたちも刺激したくない、となると、グリーンゴブリンしか選択肢がないのだった。
「フラッテ、ヤギオンナとイッショニキタ」
「山羊? ……ああ」
ゴブリントリオとジャック、というよりも『桃色豚闘士団』の出会いは、初任務地である『地の谷』からの帰り道だった。
ドワドノビッチを護送するにあたり、運搬役の山羊を狙ったゴブリントリオは、しりとり勝負等の紆余曲折の末、懲らしめられてしまった。
その後、ひょんなことからジャックの仲間となるも、戦争を契機に決裂、直接戦うことはなかったが、敗戦を迎えて姿を消したのだった。
「トゥトアスノ、アタラシイチツジョノタメダッテ、オマエ、ゴブリンビームオシエタ」
「他の妖精たちにもか?」
「シラン」
『ジャック』が、妖精たちの味方であることは疑いようがない。ジーニアスが云うように、かつての秩序の復古を目指しているなら、それは理にかなっている。
問題は、何故ジャックの姿であるか。そして、『リドリー』もだ。
「モウイイカ、サッサトカエリヤガレニンゲン」
「わーったよ」
リンに恫喝され、ジャックは踵を返した。ここで考えていても仕方がないと思ったのもあるが、戦争によって生じてしまった断絶を改めて認識したからでもある。
過去にはどうやったとて、戻ることはできない。