帰宅し、姉の料理を食べて寝入ったジャックを、早朝ノックの音が目覚めさせた。
「なんかパターン化してきたな……」
独り言ちながらジャックがパジャマのままドアを開けると、そこにはミランダが立っていた。
「朝早くにすいません、ジャックさん」
「ん……どしたの?」
「大変なんです、来てくださいますか?」
『龍』か『妖精』か、あるいはモンスターの襲撃を予想していたジャックであったが、連れてこられたのはエキドナ門付近の新興開発地で、特に混乱は見受けられなかった。
「神を信じるのです」
「「「神を信じる~」」」
ホリィがエレフたちやヒッポらに、集会めいたことをさせているのを除けば。
「見てください、あれ」
「うん……なに?」
「わからないんですか? 新興宗教の勧誘ですよ」
「新興宗教……なのか、あいつの?」
「だってそうじゃないですか、『オラシオン』じゃない、怪しい教えを広めてるんですよ」
「ダメなの?」
「はあ⁉」
「いっ? ま、まあ無理やりやってるんなら……」
「あら、ジャック様」
しずしずとホリィが二人の前にやってきた。
「おはようございます、ようやく神の慈愛にお目覚めになられたのですね」
「それはないけど……」
「ホリィさん、今すぐに止めてください」
「はて? 何をでしょうか?」
「違法な宗教勧誘をです!」
熱心なミランダと比べて、ジャックはいまいち身が入らない。
ホリィが異常人物であることは、しばらく一緒に行動した経験のあるジャックが一番よくわかっている。自身の宗教観を、その腕力で以て無理やり押して来る狂信者だ。そのせいで、一国がめちゃくちゃになっている。
しかし、ラジアータにやって来てからは、カインの導きのおかげかそれなりに社会と折り合いを付けたのか、ジャックの知る限りは騒動を起こしていなかった。
今目の前にいるエレフたちからも、無理やりやらされている感じはしない。
「オッサン、なんでまたお祈りなんかしてんだよ」
「色々手伝ってもらったんでな」
実は、エレフは中々祭事や縁起担ぎにはこだわる方であった。大工仕事には欠かせない要素であり、『オラシオン教団』の信徒でこそないが、イセリア神、セレスタ神への奉納は、大仕事の前には忘れずにやっている。
エキドナ門付近の新興住宅地の仕事でも、それは変わらない。しかし、今回、黒装束の怪しい少女が手を貸すと言ってきた。
最初は邪険にしていたのだが、その怪力のおかげで仕事は飛躍的にはかどっていき、無視するのも忍びなくなってきた。
礼を言うと、その少女、すなわちホリィは、報酬はいらないから神への祈りを一緒にやって欲しいと申し出たのだった。
当然、怪しい宗教の勧誘かとエレフらは警戒した。しかし、ホリィはただただ、祈りを求めるのみであり、ついに彼らは折れたのだった。
実際にやってみると、お祈りをするだけでいいし『オラシオン教団』のように寄進を求められるわけでもないしで、すっかり日課の一つになっていた。