「う~ん……」
ジャックは悩まざるを得ない。ホリィは明らかに異常者であるが、この件に関しては(一応)正当な手段で信徒(?)を得ている。
また、ミランダは疑いなく善人だが、オラシオンの教えを絶対視しすぎるきらいがあった(フェルナンド派に大小あれど共通することでもある)。
オラシオン以外の宗教を認めない(られない)ことが、ホリィへの敵愾心へと変換されているのだ。
そして、厄介なのは(繰り返すが)、ホリィ自身は異常者であることだった。
「わかんねえ」
ジャックとしては、そう言うしかなかった。流石に、『ラジアータ』の宗教関連の法律について詳しくはない。
「そんないい加減じゃダメですよ!」
それがミランダを怒らせた。
「ジャックさんが連れて来た方でしょう」
「ええ……い、いや、連れて来てはないけど」
「神の教えがお嫌いですか?」
にこやかにホリィがミランダに話しかけた。
「同じ信徒ではございませんか」
「一緒にしないでください! 私はセレスタ神とイセリア神を崇めてーー」
「私も、セレスタ神とイセリア神を尊んでおりますわ」
「嘘です、全然教義が違うじゃないですか……ジャックさん、逃げないで!」
「いっ?」
「おい、聖女さん、俺たちは仕事に戻っていいのか?」
「はい、お祈りは終わりましたよ」
「皆さんは騙されています! 『オラシオン』の教義こそが正しいんです!」
「俺いなきゃダメかな?」
ミランダとホリィの言い合いは平行線を辿った。
さすがに附き合いきれなくなったジャックが、やや強引にお開きにさせようとして、ますますミランダを焚きつけてしまった。
教団から、姿の見えない彼女を探すようビシャスが送られてきた時、ジャックはこれで収まると安堵した。
しかし、そこからが本番だった。
本部まで連れていかれたホリィは、カインらと共に布教についての説法を聞かされることとなった。
しかし、あくまで自身の宗教観を優先する彼女と、旧体制派のフェルナンドらは激しくぶつかることとなる。
「教えを曲解するでない!」
「神の御意思は一つです」
意外にも、カインは仲裁に立たずに双方の主張を見守っていた。
旧体制派は、神の教えに忠実であろうとするあまり、ともすれば保守的、頑迷な傾向にあった。
新体制派は、それ自体はカインにとって歓迎すべきものである。一つの思想を絶対としていては、組織は硬直し腐敗していく、相反する勢力は必須と言える。
ただし、新体制派の旗手がアナスタシアなのは問題だった。その目的は自身の栄達と営利にあったからだ。そのため、ホリィの登場は、カインにとっては好都合でもあったのだ。
前教皇エンジェラの手紙にも、その旨は書いてあった。カンフル剤というには刺激が強すぎるが……。
「うう……」
そして、その場に何故かジャックも立たされていた。
間違いなく信徒ではないし、宗教論争にも興味がないが、その場にいたため連れて来られてしまったのだ。
帰ろうとするとアキレスに睨まれ、一日中付き合わされた末帰宅したところで、エアデールに無断外出を叱られ、散々な一日となった。