『水龍』との戦いに各々が備えていたある日、珍しくジーニアスに呼ばれてジャックは城へと向かった。
「団長、クライブも」
「おはようございますジャックさん」
「んあ~」
懐かしき『桃色豚闘士団』の一室で待つこと数刻、ジーニアスがやってきた。
「ヘレンシア砦へ行くぞ」
「待て、待て」
ジャックが待ったをかけた。
「いきなりなんだよ、ちゃんと説明しろ」
「行きながら話す」
「いや、今話せよ」
「時間が惜しい」
「お前な……」
これまた珍しいことに、ジーニアスは少々焦りながらジャックを見やった。
「オークの族長ジェイジェイ、ブラックゴブリン族長ブラッキーが、会談を申し込んできたんだ。これでわかるだろう」
ヘレンシア砦は物々しい雰囲気に包まれていた。レナードが騎士たちに指示を飛ばし、滞れば怒声をあげる。何か一つでも間違えればその場で戦争となる、そのプレッシャーが彼をピリピリさせていた。
すでにラークスは現地入りしている、部下らとやりとりをし、ひりつくような空気を醸し出していた。
『桃色豚闘士団』の面々も、緊張を隠せない(クライブを除く)。ガンツとジャックは武器の手入れに余念がなく、ジーニアスは古い書物を手当たり次第に読み漁っていた。
間もなく、ジェイジェイ、ブラッキーが現れるはずである。
「ミカエルから知らせがあった」
ジーニアスからそう聞いたとき、ジャックは驚いた。断交しているはずのダークエルフの青年の名が出たからだ。
「族長たちが、人間と話し合いの場を設けたがっていると」
『リドリー』はどうしている? 『ジャック』は? ダークエルフたちの前に彼らはどう現れた? 知ってることを全部教えて欲しい、舌先まで出かかった言葉を、ジャックは苦労して呑み込んだ。
ジーニアスが、聞いていないわけがない。話さないということは、聞きだせなかったか、今はまだ伝えるべきではないということだろう。
「あいつらと話せるようになったのかよ?」
「いや、あくまで仲介のためだ、人間たちへの反感は消えてない」
ジャックはミカエルのことを思った、本が好きで酒造りに精を出している少年。かつては、仲間として一緒に冒険の日々を送ったものだ。
「そっか……」
「いずれまた、交流ができるようになる。そのためにも、今回の会談を成功させるんだ」
「おう」
人間側からの出席者は、ラークスと『桃色豚闘士団』の面々だった。本来ならラークスとジーニアスでよかったのだが、彼のたっての希望でジャックらも参加の運びとなった。
「レナード団長! オークらが現れました!」
「よし! みんな気合い入れていけよ!」
レナードは、少々気合が入りすぎていた。弓隊や『ヴァレス』の魔砲部隊が後方に待機し、完全武装の騎士たちが控える。
だが、ラークスは咎めなかった。オークとブラックゴブリンを相手にするのに、度が過ぎるということはない。
程なく、森の中からオーク達とブラックゴブリンが現れた。
ブラックゴブリンたちの中には、ジャックの顔見知りもちらほらいたが、流石に気安く挨拶を交わすような空気ではなかった。
ひと際大きなオークが地響きを起こしながら前に出て、同じく巨体のブラックゴブリンが部下らに輿を運ばせながら出て来た。
族長のジェイジェイ、ブラッキーである。