現に、『リドリー』と新たなる『龍』の出現により、これまで彼らは攻勢を強めていた。
人間たちは、今は数と力で妖精を上回っているが、寿命という覆しようのない懸念を抱えている。
妖精たちには時間と龍の復活という切り札があるが、現在の勢いのまま人間の攻勢を受ければ、その前に殲滅させられてしまう危険がある。
何より問題なのは、互いの予測と準備が、金龍と銀龍を欠いたかつてない時代において、確固たるものではないことだった。
龍がこのまま復活しなかったら?
あるいは時間を経ずに復活したら?
未来を見れば、無限の手を打ち続けねばならなくなる。
故に、ラークスが今最優先に対処すべきなのは、その正体が憶測でしか語れない『リドリー』と『龍』の危険を排除することだ。
「私たちは、貴方たちの少女たちの正体を、トゥトアスの秩序を修正すべく遣わされた、金銀の龍の代替ではと推測しています……。これについては?」
族長たちは答えなかった。答えられなかったというのが正しい。
実のところ、彼らも『リドリー』らの正体を見定めてはいなかったのだ。
かつて金龍の器となり、妖精の味方となった人間の少女が、再びその姿を現した。そばには黒い鎧の男、龍殺しとして知らぬ者はないジャックと名乗る存在がおり、力を与え、かつその身を『龍』へと変じた。
多くの妖精は、救世主が神から遣わされたのだと信じた。龍を失い、ザインら指導者を失った彼らには、すがる以外の選択肢がなかったのだ。
彼らは妖精の味方だった、ただ、その正体を黙して語らず、真意も掴み損ねている。
戦争において傍観者の立場をとっていた両族長も、『龍』の度重なる敗北、ドワーフ、グリーンゴブリンの戦線離脱を受け、悠長な姿勢ではいられなくなった。今や、妖精たちの指導者は彼らをおいてはいないからだ。
もし、少女と『龍』が敗北した場合、妖精たちへの徹底した掃討が今度こそ実施され、オークもブラックゴブリンも否応なく幕こまれる。
それを回避せんがための、今回の交渉であった。
だが、彼らには、一連の戦争のきっかけであり、ラークスらの危惧の大元でもある『リドリー』らの身柄はおろか、所在すら掌握できていない。
二人は代表者でありながら、何らの情報も権限もなく、なし崩し的に矢面に立たされていたのだ。とはいえ、これには彼らの消極的姿勢も一因としてあり、今さらそれを言っても始まらなかった。
「繰り返します、少女と龍の抹殺、それが無理であれば無力化を
示していただきたい。そうすれば、武力衝突は避けられます。不干渉を望むのであれば、応じましょう」
「……妖精ノ都合バカリフリカザスワケニハ、イカンカ……」
「サテサテ、ドウシタモノカノウ」
族長たちは、腰をあげた。
それを合図に、妖精たちも引き上げを始めた。ラークスも突然の離席を咎めず、去るがままに任せたため、会談はここで終わり
となった。
後日、一般に『降りて』きたこの会談の顛末を聞いた、『ヴァレス』のディミトリは、自身の著書にこう記している。
「和平の提案は喜ばしいことであるが、エルフやドワーフでなく、粗暴で知られるオークと謎に満ちたブラックゴブリンからそれがもたらされたことは、実に皮肉なことと言えよう」