思いがけない和平の提案に関して、ラジアータ王国の重臣たちの間で意見が割れた。和平を前提にして今後の行動を決するか、あくまで対決姿勢を崩さないか。
騎士たちの間では、後者の意見を支持する声が大きい。蘇った『龍』をことごとく撃破してきており、残りも殲滅し得ると。これは、対『龍』と妖精の最前線にいる彼らが受けた被害への憎悪の感情も大きい。
一方、それを束ねるラークスは、和平に前向きな姿勢を見せていた。ジーニアスらと折衝を重ね、これを契機にエルフやドワーフらとも和平を結べれば最上である。
これを受け、一部騎士たちの間で不満の声が挙がり、ナツメとレナードはそれを抑えるのに奔走させられることになる。両者とも好戦的な性格ではないが、やはり『龍』や妖精への反感は持っているのだ。
和平へ賛同する側にしても、『リドリー』たちは懸念材料であり、その処遇について妖精らが明言しなかったことは疑惑を生んでいた。
この会談自体が時間稼ぎであり、その隙に戦争の準備を進めているのではないかと。
とかく、敵首魁の情報が不足していた。諜報部だけでなく『ヴォイド』の構成員を総動員しているが、彼女たちの行方は依然として知れなかった。
会談終了後、ラークスは今後の方針を決定するまでは、各自戦闘が起こり得る前提で準備を進めるように通達した。
騎士たちは訓練と見張りに励み、各ギルドもそれぞれに行動を開始した。
さて、いずれの道へ進むにしても無視しえない存在、今や人間側の武力の象徴たる『龍殺し』のジャックは、この激動の世相の中、リドリーの墓の側で寝転がり、ぼうっと空を見上げていた。
近頃は、家を出て夜までここで過ごしている。鍛錬を欠かしはしないが、任務を受けるでもなく、冒険に出るでもない。
「龍かあ……」
彼をとらえているのは、ジェイジェイとブラッキーが発した『人間を守護する龍』という一節である。
落ち着いて考えてみれば、なんということはなかった。ジャックは龍ではない、『龍殺し』の異名の通り、むしろその対極にある存在だった。
ギル、ザイン、ガルヴァドスら妖精の強者たちを倒し、世界の秩序を司る銀龍すら滅ぼした。戦争以降、一貫して彼は、人間の味方で妖精の敵であり続けた。
だが、何も思わぬわけではない。楽天家、バカ、考え無し、足癖の悪いヤツ、無神経、無駄に元気、彼を評する言葉は数多いが、
ジャックも悩み、苦しむことがあるのだ。
それは、今は亡き友の姿を重ねているようにも見えた。彼女は悩み、苦しみ、そして若き命を散らした。