ラジアータ最強の剣士は誰か? 多くはジャックだと答えるだろう。だが、こと剣術に限っては彼と同等、あるいは上回るだろう人物が一人だけいる。
『テアトル・ヴァンクール』の大隊長、エルウェンその人である。
甲冑に身を包んだ女傑で、古の英雄アルフレッドの武器であった聖剣『アヴクール』を使いこなす。その実力はラークスですら一目置いており、度々騎士団の指南に招かれる程だった。
来歴や年齢、容姿を含め謎の多い人物であるが、厳しくも公明正大であることから信望を集めている。ジェラルドが彼女には絶対的な信頼と忠誠を誓っている点でも、その器量が伺える。
かつてジャックはエルウェンと戦い勝利したが、それですら紙一重の結果であった。調子に乗りやすい彼でも、今も尚確実に勝てるかはわからないと断言するほどだった。
それ故に、腕に覚えのあるものにとって、彼女に勝利することは無上の栄誉であった。ただし、未だかつて。ジャック以外にそれを達成した者はおらず、生半可な腕では挑戦すら許されない。
『テアトル』では、グレゴリー、ガレスら数名の上級戦士が手合わせを達成したが、数手打ち合うのがやっとだった。
「はあっ!」
よって、短期間で挑戦を認められたナギサの腕は確かなものだと、太鼓判を押されたようなものだった。この日も、屋上で彼女はエルウェンと剣を交えていた。
「くああっ!」
ジャックをして、シーザーと同格と評した剣技は、訓練する姿を見ていたガレス、デニスはもちろん、血気盛んなデイヴィッドですら数段上だと認める程であった。
鋭く、重く、速い。
「はっ!」
「ああっ⁉」
だが、大隊長の『敵』たり得なかった。剣圧で押し倒され、立ち上がろうとしたところへ切っ先を向けられ、勝負はついた。
「今日の分は終わりです」
「くっ……!」
エルウェンが静かに告げた。『戦士ギルド』の長として多忙を極める彼女であったが、後進の育成には余念がない。
「手合わせ……感謝する」
ナギサは姿勢を正して、頭を下げた。言葉遣いはともかく、礼節はわきまえている。
「鍛錬を怠らない事です、あなたなら、遠からずひとかどの剣士になれるでしょう」
こと剣技に関しては、エルウェンは嘘や世辞を言いはしない。ナギサの実力と才能は確かなのだろう。
だが、ナギサには屈辱であった。
「あら、お帰りなさい」
「ああ、戻った……。バーベナ殿」
寝床としている『剣と銀貨亭』に戻った彼女は、女主人のバーベナに不愛想に挨拶すると部屋に引っ込んだ。
普通の感覚なら不快の念を抱かせずにいられない行為だが、先人たるジーンがそれに輪をかけた不愛想であったため、バーベナは在りし日の息子を思い出し、懐かしさすら感じていた。
鎧を脱いでベッドに横になると、ナギサの自問が始まった。一体、自分は何をしているのだろうか?