異国の地で、戦士ギルドなるものに加入して、任務と龍や妖精との戦いに明け暮れる。数カ月前の彼女なら想像もし得なかったことだ。
最初はただ、自分に土をつけたジャックに雪辱を果たすためにこの地へやって来たのだ。それがあれよあれよと、戦争に巻き込まれている。
強要されているわけではない。投げ出さないのは、生来の気真面目さと、ジャックへの複雑な思いからだ。
ただ強いだけでない、あの少年はーー
「!」
ノック音が少女を思考の迷路から引き戻した。戸を開けてみると、そこにはジーンが立っていた。
「……」
「……」
たっぷりと沈黙が訪れた。社交的でない娘と、ラジアータ一の無口と称される戦士。どちらが話を切り出すか、見えざる戦いが繰り広げられている。
「……『龍』が出たそうだ」
軍配はナギサに上がった。
『水龍』現る! そのニュースはまたたく間にラジアータを駆け巡り、人々の不安と期待をあおった。今度もジャックが何とかしてくれる、いや、龍は手強く彼でもわからない、実は龍はまだ残っている、様々な言葉が交わされた。
騎士団は慌しく動き出した。将軍ナツメは迅速かつ的確に指示を下していったが、その顔から不機嫌がはがれることはなかった。
「『桃色豚闘士団』を除く騎士たちは、本国の防衛にあたります」
開口一番、ラークスにそう宣告されたからだ。
斥候と『ヴォイド』からの報告を精査すると、『水龍』がオークの拠点ボルゴンディアーゾに出現すると同時に、オークとブラックゴブリン、エルフたちの連合軍がラジアータへの進軍を開始したことが判明した。
前回の『地龍』とドワーフ、ゴブリンらの侵攻と似た状況である。異なる点は、『龍』が動く気配を見せていないところだ。
誘っている。ラークスはそう推測した。
人間側の最強戦力にして、その士気を高めているジャックを誘い出すのが目的だ。もし、彼が倒れれば戦力も士気も底をついてしまい、なすすべなく人間は敗れてしまうだろう。
そして、妖精たちには『水龍』にはそれが可能だという自信がある。
当初、ラークスはジャックたちを中心に、妖精たちを迎撃し、孤立した『水龍』を後日撃破する策を考えた。
ただ、これは『水龍』が不動であることが条件だ。妖精たちを迎撃して疲労困憊のところを襲われては、さすがのジャックも危いだろう。
かといって、王国を手薄にするわけにもいかない。数では劣っていても、腕力に秀でたオークに背水の陣で挑む他の妖精らは、軽んじられる相手ではなかったからだ。
結果、彼は騎士団を防衛に、『桃色豚闘士団』他少数精鋭で『水龍』討伐へ向かわせることを決定した。