その決定は、少なからず騎士たちの間に不満を募らせた。
『龍殺し』の栄光は、誰もが欲する宝物である。当然、龍と戦わねば得る機会は訪れない。
最も、宝物を望む多くはその機会が訪れたとたんに塵と化す凡愚であったが。
ラークスの言い分としては、騎士たちの中で、どうにか龍とやり合えるのはナツメやレナードといったごく一部である。
認めるのはしゃくだったが、ケアンらの世代から騎士の質は低下する一方だった。わざわざ龍の犠牲者を出すよりも、防衛任務に回した方がいい。
『桃色豚闘士団』が龍討伐の本丸となった。反発するものたちも、本物の『龍殺し』を出されては沈黙を余儀なくされた。
よってーー
「団長、お客さんだべ」
「ああ、もう。討伐隊に参加希望の方なら、ただいま選考中のた
めお答えできませんと言ってください」
「おい、どうにかならないのか。これじゃ集中できん」
「俺だって参ってるよ」
『桃色豚闘士団』には、どうにか龍討伐に同行させてくれとの申し出が引きも切らなかった。
騎士たちはもちろん、貴族や重臣の関係者、各ギルドからもだ。
討伐隊の選考、戦術を練っていたジャックたちは、途絶えない訪問者に閉口させられていた。
「なんでまた急に……」
「最後の機会だからだろう。銀龍と金龍については、外にはあまり漏れていないからな」
正直、ジャックは同行希望者達に舌打ちの一つもしてやりたい気分だった。
龍によって、直接的間接的問わず何人が命を刈り取られただろうか。しかも、つい先日は『地龍』との戦いが王国のすぐそばで起こっている。
死者は奇跡的に出なかったとはいえ、あの強大な力を目の当たりにしてなお、功名心に駆られる気持ちが理解できない。
「仕方ありませんよジャックさん、あの戦争に参加していない騎士や貴族の方も増えてますから。平和で望ましい事なんですけどね」
「わかってますけど……」
「幸い、ラークス様から全面的な権限をいただいてますから、それでよしとしようじゃありませんか」
「うっす」
「『水龍』も厄介だが、ジェイジェイとブラッキーも油断できんぞ」
「やはり、族長さんたちも参戦すると?」
「龍は妖精にとって絶対の守護者だ。彼ら個人が内心で争いを避けたがっても、周囲がそれを許さない」
この青年には珍しいことに、ジーニアスは苦々し気に吐いて捨てた。
「もう少し時間があれば和平も成り立つと思うんだが……ラークス卿も、周囲の突き上げを無視できないようだ」
当初、ラークスは『地龍』の襲撃から間もない事、和平の提案があったことを理由に、即時の軍事行動を回避しようとしていた。
政治と軍事の頂点に位置しながら、その指針は皮肉にもかつての政敵ジャスネと同じ方向を指しているのだ。
だが、思わぬ方向から矢が飛んできた。唯一の上役とも言える、国王ジオラス8世からだった。