「龍が出た以上、静観するわけにもいくまい」
「ですが国王、和平が成立すれば今後の対妖精政策にも有益と判断します」
「だが、オークとブラックゴブリンがドワーフのようにゆくか?」
ジオラスは決して暗愚ではない。己より有能な臣下に自由に討議をさせ、自身は最終的な判断を下す決定役の立場を貫くことこそが王国の利益を生むと理解し、実行して来た。
ラークスらも、王を尊重し臣下の域を出ず、ラジアータの国政は至極風通し良く回っていた。
その歯車が、ここにきて狂いを見せたのだ。
「彼らの申し出が嘘だとお考えで?」
「そうは申しておらぬが、軍備を整えているとの報告もある。龍が出現したことは、妖精と人間双方に大きな意味を持とう。和平を望むならば、何かしらの接触があるべきではないか?」
王の意見は正しい、だが、その発祥が問題であった。それは、貴族らが意図的に広めたものだからだ。
ケアン、そしてジャック(クロスがここに入れるかは未だに決着を見ていない)ら『龍殺し』が、絶対的な龍を倒したことは人々に希望を与えた。
だが、それでもなお、龍は強大な存在であった。現に、龍によって与えられた人的被害は甚大に過ぎる。妖精との戦争で人間たちが負った傷は、決して浅くはない。
その傷は、憎悪と怒りと、恐怖を残した。龍の復活と妖精の再侵攻は、戦争の記憶覚めやらぬ人々の間に傷を思い出させた。
今度こそ、妖精を、龍を、滅ぼさねばならぬ。でなければ王国はおろか、人間が滅ぼされてしまう。和平に前向きであった者らも、龍の出現を受けてはその姿勢を維持しえない。
恐怖が人々を突き動かし、無意識に、あるいは意図的に王へその思想を植え付けた。それに揺らぐ王ではないが、多数の意志がそれを望んでいると言う事は脳裏に記憶される。
ラークスにも、王の決定が貴族らの意志誘導の結果ではないとわかっている。だが、貴族らはそうは思わないだろう。
多数で植え込めば、王の意志は操作できると、必ず思い上がる。そうなれば今後の国政に必ず悪影響を及ぼす。
故に、今回ばかりは異様なほどの粘り強さで、ラークスは決定を覆そうとしたのだが、王の決意は変わらなかった。
かくして、やや性急で強引な軍事行動と派兵が決定した。
『水龍』討伐隊を『桃色豚闘士団』に任せたのは、実力以外にもそうした政治上の束縛を受けないようにとの狙いがあり、功を狙う貴族らへの抵抗でもあった。
「色々面倒っすね」
「ラークス様もお辛い立場です、せめて我々で少しでも負担を減らせるといいのですが」
「んあ~、よくわからんべ」
「『水龍』に集中すればいいんだ」
『桃色豚闘士団』の会議は、翌朝になるまで続いた。