執務室から退室し、レナードに見送られて城から出たジャックは、その巨影を改めて見上げた。
「なんだかなあ……」
心中は複雑であった、騎士に戻り、破格と言える待遇と自由を得ても尚、わだかまりがあった。
「リドリー……」
妖精との戦争、龍の復活、そしてリドリー。
ジャックには、未来への不安以上に、どうにも割り切れない思いがあった。
リドリーが人間を裏切り、妖精側についた。これは事実である。しかし、それは『魂継ぎ』の儀式を受けたことによる、太古のエルフとの意識の混濁に端を発している。
故に金龍の器として目を付けられ、さらにはその仕組みを打破せんとする銀龍によりその命を奪われた。言うなれば世界の仕組みそのものに狙われたのだ、彼女に何ができただろうか?
そもそも、『魂継ぎ』の儀式を受けることになった原因、ブラッドオークの襲撃は妖精を殲滅せんとするクロスら騎士団の一部が策謀したことである。
にもかかわらず、その事実は無視されリドリーのみが反逆者として扱われている現状は、ジャックには受け入れがたいものであった。
無論、ラークスらにも言い分はあろう。クロスの一件が明るみに出れば、戦争を起こした元凶として騎士団の権威は失墜する、ただでさえ戦力低下と再編に頭を悩まし、妖精との戦争が再開されそうな時に、それだけは避けたいことのはずだった。
それがわかってしまうからこそ、ジャックは割り切れないのだ。
「暗い顔してどーしたのかな? ジャック」
「うおっ、ヘルツ?」
「へへー、ビックリさせちゃった?」
帽子をかぶった少女が、いつの間にかジャックの背後に立っていた。
ヴォイド・コミュニティーの舎弟頭にして、ニコニコした顔からは想像もできない変装と諜報の達人であった。
「帰って来たのに愛しのヘルツに挨拶無しなんて悲しいなー」
「今日は色々あったんだよ」
「だよね~、何しろアハトの隊長のまま、『桃色豚闘士団』副団長になっちゃったし。妖精とまた戦争が起こりそうだもんね」
驚くジャックにヘルツは悪戯っぽく笑った。
「ヴォイドの情報網も大したもんでしょ? だから、悪いことするときは気を付けてね~」
「……誰から聞いたんだよ?」
「それは言えないよ~でもね、再会のお礼に一つ教えてあげる。妖精たちを率いてる女の子は、姿恰好はリドリーっぽいらしいよ」
「! 本当なのかよ?」
「ヘルツは聞いただけ~、じゃ、また誘ってね。バーイ」
ヘルツはひょうひょうと歩いて、夜の闇に姿を消した。
「リドリー……お前なのか?」
ヴォイドの情報は、騎士団とはまた違った正確さがあった。それこそ、あらゆる手段を用いて得た生の情報である。騎士団が目にとめないような点にも着目し、真実をあぶりだす。非合法という点を除けば、時に騎士団のそれを上回ることもあった。
少なくとも、妖精を率いているのが人間の少女であることは間違いない。