ジャックとてその想いはあったが、ナツメやレナード、他の戦士たちは確かな実力を持っている。水龍討伐隊に彼らを選ばなかったからといって、脆弱では決してない。本国防衛任務を十分叶え得る者たちだ。
「俺たちは、『水龍』に集中しよう」
「はい」
フローラは少し安心したようだった。
「ジャック、『水龍』とやらは水と冷気を操るのだな?」
今度はナギサが問いかけて来た。
「うん」
「加えて、他の龍と同じく異能を宿しているそうじゃな」
「だろうな……」
『火龍』は鎧や剣を易々融解させる青い炎を、『風龍』は岩も砕く暴風と雷を、『地龍』は巨大化と硬化。『水龍』は例外と見るのは楽観が過ぎる。
「正直、何をして来るかわからない」
ジーニアスが説明を継いだ。
「研究する時間が欲しかったが、そうもいかなかったな」
「ま、このジャック様に任せろってこった」
「調子に乗るんじゃねえ」
「あたっ?」
ジェラルドがジャックにげんこつを落とした。
「いいか、オメエは騎士様だが、『アハト』の隊長、大隊長の部下でもあんだ。大隊長と『テアトル』に泥を塗るんじゃねえぞ」
「なんだよ、皆を勇気づけようとしたのにさ」
思わず、フローラとミランダが笑った。
「ジェラルド、その辺にしておきなさい」
「あ、すいません」
「意気込んでんじゃねえかジェラルド、でけえトカゲ退治にビビってんのか?」
「なんだと」
「ノクターン」
「へへ、ちょっとした冗談でさあ」
『テアトル』出奔から長い時を裏社会で過ごしてきたノクターンだが、エルウェンへの畏敬の念は微塵も揺らがず早々に舌を引っ込めた。
休憩を切り上げ、一行は再びボルゴンディアーゾを目指す。今度はモンスターの姿も見えず、とうとうオークの本拠地が目の前に広がった。
「あんまり長居したいとこじゃなさそうだね」
ヴァージニアの言葉は全員の賛成を得るものだった。禍々しささえ感じる巨大な山洞は、ところどころに得体の知れないスライム状のものがぶよついていた。
なにより、足を踏み入れる前から感じるすさまじい殺気は、否が応でも『水龍』の姿を想像させた。
「待ち構えているようですね……」
震えを起していないのは流石であったが、ブルースが斧を握る手は必要以上に強かった。
「ジーニアス様、妖精の族長様たちもいらっしゃるのですね?」
「ああ、『水龍』はオークの守護神、少なくともジェイジェイは傍にいるはずだ」
「もう一人の、ブラッキーさんもでしょうか?」
「わからない、ブラックゴブリンは他の種族とほとんど交流がなくて、どう動くのか」
ジャックが知るブラックゴブリンは、キノコの胞子にどっぷりつかったエキセントリックな者たちだった。一度会ったとはいえ、族長たるブラッキーの行動までは予測できない。
「ここに至っては進むしかあるまい」
アキレスが宣言した。
「同意」
短くソナタが賛同した。確かに、躊躇していたとて事態は好転せず退却は論外だ。
『桃色豚闘士団』の任務は、『水龍』の討伐にある。