だが、トゥトアス随一の凶暴性と腕力は伊達ではない。オークらは巨大な岩石を易々と持ち上げて、こちらへ投げつけて来た。
「散らばって逃げるんだ!」
レオナを脇に抱えてジャックは叫んだ。さながら隕石群のような岩落としには、逃げの一手を取るしかなかった。
「まずはオークを倒すぞ! このままじゃ全滅だ!」
「言われんでもわかってる!」
一喝しつつ、ジェラルドがオークを斬り捨てた。負けじとノクターンが、そしてアキレスたちがオークへ向かっていく。さすがに実力者揃いであるだけあって、頑強なオーク達と対しても引いていない。
レオナを後方組に任せてジャックも突撃し、形勢を立て直した『桃色豚闘士団』は優位に立ったかに見えた。
「ぐおっ⁉」
「ぺっ、なんだこりゃ⁉」
だが、思わぬ伏兵が潜んでいた。ブラックゴブリンたちが投げつけて来た飛び道具、キノコパウダーである。
毒キノコの胞子をまとめたそれは、着弾すると胞子を撒き散らして時として対象を毒とする。それ単体で命にかかわるというものではないが、胞子で器官をやられ、毒となれば徐々に生命を削られてしまう。
「ブルース! フローラ! 治療してくれ!」
「は、はい」
「くそっ」
「ざまあねえ」
ジェラルドらは治療のため一時前線を退いた。代わって、あらゆる状態異常を克服しているエルウェン、カイン、ラークスが前に出たが、キノコパウダーにより視界と器官をやられて本来の実力が発揮できなかった。
毒とならずとも、粘膜や器官に胞子が入っては戦闘ができなくなる。生物である以上、克服できぬ弱点だ。
「だったらこっちも飛び道具だ! じいさんやっちゃって!」
「言われずとも!」
カーティスが妖精たちに魔砲エクスプロージョンを放った。
「待て! それはー」
ジーニアスの警告も空しく、着弾した魔砲は充満していた胞子に引火して、粉塵爆発を起こした。
「ひゃ~!」
「あちちっ! あついですよ~!」
「ぬおおっ、すまん! 不覚じゃ!」
「そいつの頭の出来を考えてください!」
「俺の事がコンチクショー!」
のしかかろうとするオークをアービトレイダーで切り伏せながらジャックは立上った。
仲間は散り散りになっているが、妖精たちも混乱の中にある。もう一度集結して陣形をー
「うお!」
ジャックは飛んできた『それ』を反射的に切り落とした際に生じた隙に、オークに殴られ吹き飛ばされてしまった。
「ジャックさん!」
「って~……」
ブルースに抱き起されながら頭を振る。先ほど飛んできたものは何か? 岩にしては感触がおかしかった。
「ジャック様、治療を」
「待って」
戦況を把握するのが先だ。洞窟内で気流がなく、煙が晴れずに個々を確認しずらい。荒事に慣れていないフローラたちを優先して助け出さねば。
「コウナッチマッタカア」
「! ジェイジェイ……」
ひと際大きな影が姿を現した。オークの族長、ジェイジェイである。
「ニンゲンヨオ、ウマクイカンモンダナア」
「俺は……あんたたたちと戦いに来たんじゃない。『水龍』と戦いに来たんだ」
「ダカラ、ワシャアラガキタンジャ。ケルビンサマヲマモラニャナラン」
そこに潜む皮肉にジャックが気づくことはなかった。
守護神である龍を、妖精が守らんとしている。それは、『龍殺し』と呼ばれる人間の『龍』にかかっては、龍すら危ういと妖精たちが思っていることの現れだった。
さらに、この『龍』は絶対の守護者と言って良いかわからない。よりによってその『龍殺し』と同じ姿をした鎧の戦士が変化したものだ。
何もかもが不確かな中にあっても、ジェイジェイは己が責務を果たせねばならない。結局彼は、妖精の一員なのだから。