「……?」
来るべきものが来なかった。槍は彼の構えた大木に到達しなかったのだ。軌道を変えた? 消滅した? 最初から幻影であった?
「ムオッ⁉」
直後、わき腹に鋭い痛みが走った。咄嗟に体をねじって急所を外したものの、立ち続けることすら厳しい重傷を負っていた。
刹那の弛緩には刹那の弛緩で応える。ジャックは『神槍パラダイム』を囮とし、ジェイジェイに防御態勢をとらせた。
そして、ギロンの木へ槍が到達する瞬間に消失させ(ジャックが持つ武器だからこそ可能な技だ)、来るべき衝撃に備えていたオークの長が違和感に戸惑ったほんの一瞬の間、側面へ潜り込み、大剣『ヴェルバーン』による二撃を見舞ったのだ。
「グオオ!」
痛みに怯んだのは束の間、ジェイジェイはジャックに向って大木を薙いだ。
手ごたえはない、たっぷり間合いの外へ距離を取り、ジャックはブルースとホリィを抱えていた。
「ジャック!」
ナギサが躍り出て、ジャックに迫っていた『何か』を切り落とした。ブラックゴブリンのキノコパウダーだろうか?
「ヌウ……」
違った。発射主はブラッキーであり、彼の担いでいたキノコバズーカから発射された弾丸である。
先ほどジャックの体勢を崩したのも、恐らくこれだろう。
「チョコザイナッ」
「上等じゃ」
複数発射された弾をナギサが弾いていく。両者ともに互角、しかし、ナギサは弾に足を取られてゴーブリへ接近できない。
そして、ゴーブリの武器は自身だけではなかった。四方から煙幕に紛れて接近していた狼が一斉に彼女に襲い掛かった。
「ぬあ!」
それもナギサは捌き切った。だが、ゴーブリは一枚上手であった。
「『バレットウルフ』!」
本命のキノコ弾が着弾、爆発してナギサを吹き飛ばした。一連の動きは全て『ボルティブレイク』だったのだ。
「ナギサ! ホリィ、助けてやってくれ」
「ジャック様の治療がまだー」
「俺はいい!」
ブラッキーは相当の実力者のようだ。放置しておいては味方の被害が増していく。
「みんな! とにかくお互いにー」
悪寒。ジャックは咄嗟に龍の鎧をまとった。
予感は違わず、すさまじい衝撃が背後から襲いかかり、勢いのまま彼は岩壁に叩きつけられていた。
鎧をまとっていたとはいえ、堪えた。岸壁から大地を紹介されたジャックは跳ね、今度は天から贈物を受け取った。
「ヌガガアア!」
ジェイジェイが、ギロンの木をしたたかに振り下ろしていた。わき腹の負傷をものともせず、一撃一撃が岩盤へクレーターを拡げる。
「そこまでですわ!」
ホリィの蹴りがジェイジェイを弾き飛ばした。
「ジャック様!」
「た、助かった……」
鎧がなければ、優に二桁は死んでいただろう。
「今すぐ回復をー」
鬼の形相で迫って来たジェイジェイの一撃を、ホリィを抱きかかえながらジャックは躱した。息も絶え絶えで、どうにか九死に一生を得た。
ここで追撃を受けていれば、恐らく死んでいただろう。