「ヌウ、ブガワルイノウ」
ぼやきの通り、妖精たちは敗北の一途をたどっていた。すでに味方は数えるほどで、生き残りも逃げ出す始末であった。
「投降するんだ、ブラッキー」
ジェイジェイは負傷しており、ブラッキーもこれだけの人数を相手にしてそう長くは抵抗できない。ガンツらとともにジャックの隣りに立ったジーニアスがそう勧告するのも無理はない。
「ソウハイカンノジャ」
「トゥトアスは変化を遂げつつある、オークとゴブリンがそれに背を向けても仕方ない」
和解を選べるのであれば、それに越したことはない。だが、ジャックには無視できない懸念があった。
仮に、この場をおさめたとして、『水龍』との戦いに際して参戦されたら? あり得ない話ではない。そうなればただでさえ困難な戦いがより過酷なものとなろう。
かつて仲間であった妖精たちへの想いと矛盾する。何とか和解したい。だが、ジャックはそれ以前に人間の戦士であり騎士であり『龍殺し』であった。
仲間達に目立った怪我はない、しかし、この戦いで肉体的精神的な疲れは確かに残る。エルウェンほどの戦士ですらそれは免れない。
できれば無力化しておきたい。そう思うのは至極当然の気持ちである。
「ねえ、あれは?」
そして戦いは、迷う暇を与えてくれない。
ヴァージニアの言にふり返ったジャックが見たのは、たたずむ『自分』であった。
「! 『水龍』だ!」
叫びと同時に、『ジャック』の姿は『龍』へと変化した。
流水の身体を持つ双頭の『龍』。かつてケアン・ラッセルが倒した『水龍ケルビン』が再び現れた。
「みんな散らばれ、固まるんじゃない!」
ジャックは怒鳴って、半ば突き飛ばす様にガンツたちを散会させた。
『水龍』から氷の刃が降り注いできた。ジャックたちは勿論、ジェイジェイらにも襲い掛かる。
「見境なしか!」
「貴方達はこちらへ」
ジェラルドらが刃を撃ち落とし、エルウェンはフローラファラウスら戦いに慣れていないものを岩陰へ避難させた。
「ぬうう!」
カーティスが魔砲を撃ち込む。龍の身体を抉り爆発を起こす火球だったが、瞬時に再生してしまい意味を成さない。
ジャックは『神槍パラダイム』を投擲してみたが、貫通こそすれ傷を与えられたようには見えなかった。
「魔砲で攻めてみる」
ジーニアス、ファラウス、レオナの攻撃が『水龍』に降り注ぐ。いずれもその体を貫き、切り落とし、凍結させることができたが、やはり瞬時に再生してしまう。
「俺たちもいくぞ!」
ジェラルド、ノクターン、アキレスが飛び掛かった。しかし、いずれの斬撃も打撃も通用しない。
「―‼」
「回避ィ!」
龍の吐き出した水のブレスに這う這うの体で逃げ出す。まさに、激流と相対しているかのようだ。
「光之利剣!」
エルウェンのボルティブレイクにより、龍は両断された。だが、すぐさまに再生し水弾により反撃を仕掛けて来る。
「不死身か……?」
ナギサの不安な呟きが聞こえた。倒せない相手ほど怖ろしい者はない、まして人類の最高峰達が集まってすら、傷一つつけられない状況は、精神へ多大な重圧をかけてくる。