「さすがにないっしょ」
ジャックが答えた。人も、妖精も、龍も、等しく彼の前で死んでいった。例え相手が『秩序』そのものであろうと、不滅のはずがない。
「だけど、打つ手がないじゃないかジャックくん」
「んまあ、それはそう」
雨のように注ぐ氷の矢を回避しつつ、愚痴るようにジャックは続けた。大隊長の剣戟でも、カーティスの魔砲でも傷つけられないのは事実だ。
「ジャックさん、一旦引いてみましょうか?」
「追って来ますよ団長。絶対」
「だが、このままだと打つ手がないぞ」
ジーニアスの言わんとすることはわかる。しかし、退避しては追撃を受け、それを回避しつつラジアータまで戻るのは至難の業だ。
「ほいやっ、ほいっ」
「クライヴさん、危ないですよ!」
「だけんども司祭長、ちいっとでも攻撃しないと倒せねえべ」
物陰から忠告するフローラに、クライヴは平素と変わらぬ暢気さで応じた。確かに、彼に出来る攻撃と言えば毒薬を投げることだけだ。
だがー
(ん?)
それが突破口となった。
「クライヴ! 続けてくれ!」
「ん~?」
「袋……フローラもやってくれ! 皆は二人を守って!」
「何か妙案がありまして?」
「まだわかんないけど……とにかくやってくれ!」
ここで仲間たちがそれに異を唱えたりサボタージュをしないあたり、ジャックの統率力の高さがうかがえた。
困惑しつつ、クライヴと並んでフローラは彼女の持つ石化袋を投げつける。もちろん、龍の前に売店で買えるそれが通じる訳もない。
「これは……?」
だが、その目的は別にあった。毒薬と石化袋が龍の身体に入り込み、流水に乗って泥のように濁らせていったのだ。
「あれだ!」
ジャックが指さす先には、流水に乗って走る玉のようなものがあった。
「な、なんなんでしょう?」
「心臓か? ジャック」
「多分ね、あれさえ潰しちゃえば……おおっと!」
押し寄せる濁流を必死に回避する。残念ながら『龍』はただ話し合うだけの時間を与えてはくれない。
「二人は投げ続けてくれ! 俺があれを潰すから!」
氷の矢、急流の刃、巨大な水の塊、容赦なく降り注ぐ攻撃をかわしながら、ジャックは『心臓』をつけ狙う。
斧や大剣では遅くて駄目だ。片手剣か槍で一撃を加えなくては。
(! 今だ!)
跳躍して、『魔剣グラム』で一閃する。『龍』の身体を巡っていた玉は半分に引き裂かれた。
「やったか⁉」
アキレスが拳を握った。その瞬間確かに、『水龍』は動きを止めた。
「倒したー」
「いや、待て。ぬか喜びだったみたいだぜ」
ノクターンが毒づいたのを契機とするように、『水龍』は再び活動を始めてしまった。
「くそ! あれ、心臓じゃねえのかよ!」
「待ちなさいジャック、『水龍』の身体にはもう一つ玉が流れているようです」
カインが指さす先に、濁った『龍』の肉体を駆け巡る二つの玉が確かに見えた。ジャックが発見したものよりも小さく、しっかりと観察せねばすぐに見逃してしまうほどだ。
「二つ……」
しかも、一方を潰しても意味がない。先ほどジャックが切り裂いた玉も復活している以上、恐らく同時に破壊せねば効果がないだろう。