体内を高速で移動する物体を全く同時に両断する……至難の業だ。
「大隊長! 小さいほう頼みました!」
「簡単に言ってくれますね」
一方は自分が、一方はラジアータ最強の剣士が担う。
「みんな、俺たちはこれから集中すっから……迎撃任せた!」
「っち、仕方ねえか」
「貸しだぜ」
真っ先にジェラルドとノクターンが応じたのには理由がある。つまり、この二人でもジャックとエルウェンの代役は不可能だと理解しているからだ。
『龍殺し』とテアトル大隊長であっても、回避に気をやっていてはこの難事は達成できない。そして、自分たちが『水龍』の攻撃を通せば、二人は容易く沈んでしまう。
「気合い入れろオラア‼」
ジェラルドの咆哮をあざ笑うかのように、『水龍』はボルゴンディアーゾの天井を覆うほどの氷の矢を放ってきた。
斬鉄と影走りが、その名に違わぬ剣技でその矢を叩き落とす。だが、如何に強者たちといえどすべてを防ぐことは出来ず、幾本かが二人の間近に着弾した。
だが、ジャックとエルウェンは微動だにしなかった。全ては『水龍』を巡る二つの玉を捉えるために、意識を集中させているのだ。
防御を担う者たちの負担は尋常ではない。その場を動かない(動けない)二人を守るためには、ただ『水龍』の攻撃を防ぐだけではなく、矛先をそらす必要もあるからだ。
「うぬ!」
「こっちだよ」
アキレスとヴァージニアが、囮になろうと左右に走り出した。
『ヴァレス』の面々は、少しでも『水龍』の攻撃を妨害しようと距離を置いて魔砲を叩きつけた。
カインは前線に出ようとするミランダとホリィをたしなめ、後方より奇跡による回復に専念させた。
ナギサとソナタは、ヒット&アウェイで『龍』に攻撃を加える。効いてはいないが、しないよりはマシだ。
クライヴとフローラは、あらん限りの毒薬と石化袋を投げ続け、体内の流れを可視化せんと挑んだ。
エルウェンにはジェラルドとノクターン、ブルースが付いて『龍』の攻撃を防ぐ。
ジャックを守るのは、ガンツとジーニアスの役目だ。
「ジャックさん! お願いしますよ!」
「全く、せっかくの頭脳を戦いなどに使いたくはないよ」
各々が最善を尽くしても、尚針の穴へ巨像を通すかのような困難が待っている。
「あ! りゅ、『龍』が……」
「ひゃあ~! 真っ黒になっちまったべえ~!」
これまでの3龍と同様に、それまで水の如くに透明であった『水龍』の身体が黒化した。
「今更かよ」
ジャックは愚痴った。これまでの『龍』が漆黒の身体を持っていたこともあり、『水龍』の体色に多少の違和感を抱きはしたが、こうした意図があるとは読めなかった。
「集中しなさい、ジャック」
「うっす」
「『龍』の玉、核部分の移動する軌道、速さは一定でした。タイミングを逃さないことです」
「はい……」
刹那、『水龍』の双頭がジャックとエルウェンを見据えた。の共が大きく膨らみ、口の端から水が飛び散る。
「仕掛けて来るぞ!」
全員が必死に注意を逸らそうと挑んだが、『水龍』の狙いは二人以外になかった。
「ジャックさん!」
「大隊長!」
妨害空しく、『水龍』の双頭から濁流が吐き出された。ジェラルドらであってもひとたまりもなく、二人の救出よりも退避を選ばなければならない程だった。
そしてー
「大隊長!」
「いきますよ……」
自らをめがけ襲い掛かる濁流に、ジャックとエルウェンは向っていった。