悩み事は数多かった。思案をせぬわけにはいかなかったが、し続ければ解決するというわけでもない。
「ひとまず帰ろう……」
ジャックは休息を選んだ。懐かしの……というほどでもないが、あのテアトルの借家のベッドに横になりたかった。休んで、頭を整理したい。
「その前に、メシだな」
そして、自然の欲求にも逆らえなかった。
「ジャックさん⁉」
「久しぶり、今までは色々行ってたんだ、急にごめん」
『ビギン食堂』でユーリにそう挨拶して、ジャックは席に座った。
「なんですか! その適当な挨拶は」
「だって、もう10回ぐらいこのやりとりしてんだもん」
ぷりぷり怒るユーリをあやし、ジャックは一呼吸ついた。ユーリを含め、幾度となく通ったこの店は、あの頃のままであるように思えて気楽で良かった。
「何を言って……勝手にいなくなって!」
「だからさー」
「ジャックう!」
2階からダニエルとナルシェ、そして赤ら顔のジャーバスが駈け下りてきた。
「やっぱり、お兄ちゃん!」
「あれ? なんだ、お前らもここで―」
「た、助けてジャック!」
「え?」
その理由はすぐに判明した、鬼の形相の副長、ジェラルドと、少し遅れてグレゴリー、ゴードンが降りて来たからだ。
「こらジャーバス! まだ話は終わってねえぞ!」
「か、勘弁してください副長~!」
「何したんだよ隊長……」
「あの後、タナトスさんに依頼完了の報告をして報酬をもらったんだけど」
「隊長が、久しぶりだからみんなで食べに行こうっていったんだ」
「で、酒吞んで……」
「うん、色々ぐちぐち言ってたら副長たちが来ちゃって……」
光景が目に浮かぶようだった。
「あんな大声で文句を言いやがって、聞いてる奴等はテアトルをどう思う⁉」
「も、もももも申し訳ありません!」
「大体お前は―」
ジェラルドは説教をそこで切り上げた。ジャックの姿を認めたからだ。
「あ、うっす、すんません、ご無沙汰っした」
無言でジェラルドはジャックの傍まで歩いて行って、げんこつをひとつ落とした。
「いってえ⁉」
「このバカ野郎! 今までどこほっつき歩いてやがった! 大隊長の顔に泥を塗りやがって!」
「い、色々あったんすよ」
「口答えすんじゃねえ!」
「あいたっ」
ふたつめのげんこつを落とされ、ジャックはそれ以上の抗弁を諦めた。
「ジャーバス! 大体おめえの教育がなってねえんだ!」
「で、ですがジャックはアハトの……」
「うるせえ!」
それから夜通しジェラルドの説教は続いた。途中、ダニエルとナルシェは帰宅を許されたものの、ジャックとジャーバスはげんこつと怒鳴り声の合わせ技を受け続けた挙句、店の掃除の手伝いまでさせられた末にようやく朝方に解放されたのだった。
「少しはテアトルの戦士の自覚を持てい!」
「「はい……」」
朝日に照らされ、疲労の極みにあり、しかしジャックは、こんな日々が無性に懐かしく思えた。