『オラシオン教団』の面々とブルース、ファラウスが集いながら、ジャックの治癒には時間を要した。それだけ彼の傷は深いものであり、特にマグマ袋で焼けた拳は下手をすれば後遺症が残る恐れもあった。
「『龍』はやったんだろう? 解散か?」
「待ちな、まだ確認が済んでねえ」
『水龍』は討ち取られ、『ジャック』も消滅した。しかし、それで終わりかどうか判然としなかった。
「こうなっては、当面の敵対は無意味と思うが」
「フム……」
「ムムウ……」
また、ジェイジェイとブラッキーも未だに健在であった。ジャックは気づかなかったが、『水龍』戦に突入した時、たまたまミランダらと同じ岩陰に隠れた際、座視できず回復させたのだった。
そのこともあってか、両族長ともに抗戦の意志は著しく低下しているようだった。ジーニアスの説得もあり、恐らくはこの場でこれ以上の争いは起らないだろう。
「最後の『龍』も滅した、新たな時代が始まるんだ」
「ワシャアラハ、コレマデドオリヨ」
「ソウモイットレン、ニンゲンノジダイガハジマルヨウジャ」
それに留まらず、今後の友好的な交流も期待できそうだ。
肉体を走る激痛と戦いつつ、ジャックはその光景に奇妙な虚無感を感じていた。目指したのは融和であり、血の流れない交流のはずである。
そのために、どれほどの血を流したのだろうか? 悪趣味な喜劇を見せられた気分になり、ひどく気分が悪くなった。
「ジャック様、これは応急処置ですわ」
「帰ったら療養しないといけませんよ」
「わかったよ」
「お前は相変わらずだな、ジャック」
「あのなあ、これでも俺はー」
きょとんとして、ジャックは振り返った。
警戒を続けるアキレスとソナタの間に、『リドリー』が立っていた。
「待っているぞ、ジャック」
言い残して、彼女は消えた。
幻覚だとジャックは思った。だが、ガンツも目を見開いて固まっており、クライヴも(わかりにくいが)驚愕しているようだった。
ジャックの治療に当たっていた者たちは、一呼吸遅れて振り返ったためその姿を視認しなかった。他のメンバーも同様で、周囲の警戒にあたっていたため『リドリー』には気づいていない。
「団長……」
「み、見ました」
「懐かしいなあ」
幻覚であろうか? だが、『リドリー』と呼ばれる少女がまだ残っていることは確かなはずだった。
同刻、『ラジアータ』では、防衛に当たっていた騎士たちやギルドメンバーの間に弛緩した空気が漂っていた。
予想された妖精の侵攻はなく、斥候からの報告も動きなしとのことである。人間の集中力には限界がある、どれだけ気を張ったとて無限に意識を保ち続けられるはずもない。故に、短期決戦は有用なのだ。
さらに、騎士にしろギルドメンバーにしろ、防衛に専念すれば良いというものではなかった。各個に責務があり、如何に補償されるといえどそれを中断するというのは精神に良くない影響を与える。
ラークスにしても、この状態が続く場合に発生するだろう副次災害(喧嘩や器物損壊などの軽微なものだが)を考えると、一旦この状態を解除するという選択肢も視野にいれねばならなかった。
『ヴォイド』の面々は、これを奇貨居くべしと何やら動いていたようだが。
そんな弛緩の空気がより濃さを増す中、最初に『それ』が現れたのは、前家老ジャスネ・コルトンの邸宅であった。