ジャスネが幻覚と邂逅していたのと同時刻、ラジアータ城には、コロシアムに向かうレフェリー・ジュンザブロウの姿があった。
騎士団セレクション、模擬試合といった、審判が必要となる場に駆り出されるのが師のサクラザキであり、弟子たるジュンザブロウなのだ。この日も、ジャッジ道の訓練のため、コロシアムを目指していた。
戦争が勃発せんとするこの状況で、実戦において何の意味もない審判の鍛錬など。と、一部から揶揄されている彼であるが、それが彼の仕事であって、誇りをもって取り組んでいた。
さて、コロシアムに足を踏み入れた彼は、『先客』の姿を認めた。珍しくはあるが、驚きはしなかった。巡回の騎士や訓練をするニーナ、単なる迷子等と遭遇することは前にもあった。
ただ、今回の『先客』は何かが奇妙だった。その故に気づく前に、『彼女』の透き通るような声が響いていた。
「すみません。ラークス様を呼んでいただけませんか?」
ジュンザブロウの頭の中で、何かがかちりと音を立てて符合した。見慣れぬ鎧、どこか見覚えのある、気品と神秘に満ちた金髪の少女。
「リ、リドリー……様」
『桃色豚闘士団』の面々は、それから数日して帰還を果たした。
両族長との一応の停戦交渉を終え、行きと同じく妖精らとの接触を避けた行軍の故である。『水龍』を下したものの、彼らの動きが読めなかったからだ。
「自棄になって襲い掛かってくるかもしれない。王国への襲撃もあり得るぞ」
そう推測したのはジーニアスである。妖精族との融和を求める彼だが、夢想家では決してない。
蘇った守護者すら喪失した彼らが、大人しくしているという保証はなかった。
結果、行きと同様に帰りも細心をもっての行程となったのだった。
「おっす、英雄ジャック様のお帰りだぜ!」
「オラも『龍殺し』だべ~」
門を守っていた騎士たちへ、ジャックとクライブが殊更に胸を張る。無論、演技である。ジャックには殊更に、かつての能天気な自分を再現しようとする傾向があった。
もし、王国が妖精たちの攻勢を受けていれば、自分の帰還で士気を上げようと思っていた(クライヴは素であったが)。
騎士たちの反応は、緊張した様子で敬礼を返すというものだった。幾人かが誰かを呼びに戻ったのか、急いで駈け出す。
「なんだよ、宴会の用意とかないのかよお」
「調子に乗るでないわい」
しばらくして、レナードが血相を変えて走って来た。
「よ、オッサン。『水龍』も倒したぜ」
のほほん(を装っていた)ジャックも、蒼白なレナードの顔を見るとそれを脱がずにはいられなかった。何かが起こっているのは確かである。