「ジャックさん、今はゆっくり休みましょう」
「はい……、あれ? そういえばクライヴは?」
「あ、迷子になってしまいまして。今探してもらってます」
少しして、何故か謁見の間にいたクライヴが見付かった。アルに嫌味を言われながら城を退去した一行は、それぞれガンツは実家、ジーニアスは『ヴァレス』、クライヴは自宅へと別れた。
ジャックも自室へ戻ろうとしたが、カインとエルウェンに手間をかけたことを思い出し、挨拶へ向おうと踵を返した。レナードとも揉めたようだが、それは明日、嫌でも会えるだろうからその時に謝ればいい。
『オラシオン教団』では、カインに滔々と説教された。無論、非はジャックにあるのだから反発をする資格もないのだが、正直説法を聞かされているようで瞼を押し上げるのに苦労した。
『テアトル』では、エルウェンには淡々と自己を見失わないようにと言われただけで終わったが、本当の説教はそこからで、ジェラルドにこってりと絞られてしまった。
ようやく解放され帰宅すると、エアデールが食事を用意してくれていた。かなり豪勢な内容で、いずれもジャックの好物ばかりだ。
「ジャック、お帰り。やったわね」
「うん、皆に助けてもらって……」
「まずは食べなさい、お腹空いたでしょ?」
「うん……いただきます」
懐かしく、安心する味のはずだった。幼少より親しんだ姉の手料理、わざわざ市場を回り材料を準備してくれたのだろう。
「父さんも母さんも、あなたを誇りに思ってるわ」
「ん?」
「騎士になって、龍も退治して。私も鼻が高いわよ」
一瞬、ジャックはエアデールが羨ましく思えた。秩序の行方や、戦いの悲劇、『リドリー』、そういったあれこれと無縁でいられる。
だが、すぐにそれを振り払った。それこそ、傲慢な思考であろう。
「どうかしたの?」
「あ、ううん、なんでもないよ」
ジャックは、『いつも通り』に姉の料理を残さず平らげた。
「ごちそうさま」
「少し散歩でもしてきたら?」
「ん? ……うん」
エアデールにはわからない。ジャックは、明らかに『いつも通り』ではない。だが、その理由がわからない。
戦いの日々、敵首魁がどうやら同期の騎士であった少女らしい、妖精との関係、一個人に過ぎない彼女でも、そういった諸事情が僅かながら耳に入って来る。
ただ、受け止める側によってそれは大いに変容する。自己を投影したところで、ある情報に対する個人の想いなど、その個人にしかわからない。
そとへ出る弟の後ろ姿を見やって、エアデールはひどく自分が歳を取ったような感覚に襲われた。