散歩に出たジャックであったが、特にあてがあるわけでもなく、何となく『ヴァンクール広場』に落着き噴水を眺めていた。
人通りは少なく、巡回の衛兵と店から出て来たロビンが通ったきり、ジャックは一人きりであった。
『リドリー』のことは、恐らくラークスが情報統制しているのだろう。動揺を避けるためではあるが、人の口には戸が立てられない。何かを察しているのか、住民たちは外出を控えている。
「リドリー……」
溜息と共に、ジャックは少女の名を呼ぶ。コロシアムにいるという『リドリー』は、果たして彼女なのであろうか? その目的は? 何故姿を現し、そして何も行動しないのか?
何より、どうしてラジアータにやってきて、自分の前に現れなかったのか?
ジャックの心中は、己でも把握しかねるほど複雑であった。
「しゃーねえか……」
そんな時は、寝るしかない。単純明快だが、それしかない。
腰をあげ、夜空を見る。いつも通り、何ら変わりのない黒天が広がっている。
「なんとかなるっしょ」
ジャックは歩き出した。帰るには少し早い気がする、クラブ『バンパイア』にでも寄ろうと、爪先を『奈落獣』へと向けた。
ピーキィを顔パスで通り抜け、ジャックはドアを開けた。むっとするような香水の匂いといかがわしい人々の気配、毒々しいネオン。一部を除いた『オラシオン教団』の面々なら顔を顰めそうな光景だ。
「第一試合を開始いたします。ジャック・ラッセル殿、コロシアムへお進みください」
軽く挨拶を返して、ジャックは席に座った。酒は飲めないが、こういう雰囲気は嫌いではない。
「リドリー・ティンバーレイク殿、コロシアムへ」
今夜は珍しい顔が多い、ダンやブライはともかく、スターやガルシア、ダニエルの姿もある。
「ジャック・ラッセル殿。コロシアムの試合会場へ」
と、呼ばれているようだ。オルトロスの密談であろうか?
カジノを抜け、『ヴォイド』の事務所であるコロシアムに出る。セレクションの日ということもあってか、客席に人の姿はなかった。
いや、メガネをかけた理知的そうな男と、口ひげを生やした丸っこい男がいる。騎士団の偉いさんだろうか? だとしたらしっかりとアピールをしなければいけない。
何しろ、姉に父の形見『アービトレイダー』を渡され、騎士になるように送り出されたのだ。もしセレクションに落ちでもしたら、殺されるかもしれない。
「ひゃ~、勘弁勘弁」
この世に姉より怖いものはない。幸い対戦相手は同年代の、しかも女の子だ。鍛えられた自分が負ける事もないだろう。
それにしても、オルトロスは人を待たせ過ぎではないだろうか?