「どうしたジャック?」
「ケアン殿譲りの気概を見せよ」
自分でもわからない。だが、その一突きが放てなかった。
「なにをしているのです?」
「騎士の本分を果たすのです」
「騎士になるんだろ?」
周囲からは諫める声が聞こえる。そうだ、騎士になるためにわざわざ上京して、セレクションに参加したのだ。
しかしー
「ジャック」
「リドリー……」
先刻会ったばかりの少女が、数年来の知古、否、それ以上の存在に思えてならなくなっている。一体どうしてしまったのか?
「ジャック」
「決着をつけるのだ」
奇妙な記憶の混濁が関係しているのだろうか? エルウェンやカイン、ニュクスまでやってきている。確かに、『リドリー』を倒せばすべては終わる。
『リドリー』?
そうだ、リドリーは『リドリー』となり再び現れたのだ、そしてコロシアム……
「ううっ⁉」
身を裂くような痛みがジャックに襲い掛かった。剣を握り続けるどころか、立つことすら覚束ない。
「ジャック。ジャック。じゃっく、じゃっく。じゃっく……」
ありとあらゆる声が呼びかけて来る。そのたびに、リドリーへ止めを刺さなくてはと苛んでくる。
「団長……」
ジャックはガンツを見やった。いつの間にかコロシアムを埋め尽くすラジアータの人々。『騎士団』『テアトル』『オラシオン』『ヴァレス』『ヴォイド』、そこに属していない人々までおり。全員が
リドリーへ止めを刺すように叫んでいる。
その中で、唯一人彼だけが、ただ悲しそうに首を横へ振っていた。
……待て。
「俺、まだ、団長のこと知らないはずだぞ……」
ジャックがガンツ・ロートシルトの名を初めて知ったのは、セレクションにリドリーと共に合格した後の顔合わせでだ。
「⁉」
そうだ、セレクションでリドリーに敗けてしまった。でも、合格できた。
それから数えきれないほどの出会いと別れがあり、永遠の別離を迎えてしまった者の中に、彼女が刻み込まれた。埋葬も、自分でやった。
だが、その彼女の姿が妖精らの中にあったと聞きー
「!!!!!!!」
ジャック・ラッセルは覚醒した。
『ラジアータ城』コロシアム、その中心部で横たわっている『リドリー』の首元へ『アービトレイダー』を突き立てている。
切っ先が白い皮膚を裂き、数筋の赤い血が首飾りのように映えていた。
「リドリー……」
金髪をほどき、ヴァリアントメイルに身を包んだ少女。かつて『白夜の都』でその躯を抱き、『風虫の谷』で垣間見た時と寸分変わらぬ彼女がそこにいた。
「ジャック……」
寂しそうな、それでいて安堵したような微笑を浮かべていた。