ジャーバスはそのまま帰路に着き、ジャックは目が冴えてしまって家に戻る気にもならず、そのままタナトスの元へと向かった。
「お、元気そうじゃねえか」
「うるせえよっ」
にやにやしながらタナトスが声をかける、ジェラルドの説教は『カンちゃん』からテアトルまで聞こえていたようだ。
「一休みした方がいいんじぇねえか?」
「目が冴えちゃったよ」
「んじゃま、選んでくれ。またどっさりと、お前当てのが来てるんだ」
タナトスが言うように、依頼は山のようにあった。原則にのっとって依頼料の高いものから進めようかと思案してたところに、見覚えのある名前があった。
「アーシェラ? またゴーレム作ったの?」
「お、ヴァレスのアーシェラさんのだな。お前が行っちまってからも、ゴーレムにご執心でな
大隊長を超える『龍殺し』をぶっ潰せるゴーレムを作って、予算を引き出すんだとよ。でないと年が
越せねえとか」
「金欠も相変わらずみたいだな」
「で、受けんのか?」
彼女もまた懐かしい。
「アーシェラいる?」
「なんですか急に……って、ジャックさん⁉」
「あ~、久しぶり」
「♪なつかしい顔ぶれ~久しぶりだゼ」
依頼を受けた足で、ヴァレスの月の塔、実験室へジャックは向かった。
丁度講義中だったのか、アーシェラ、そしてコーネリアとアーネストが座っていた。
「キミって勝手だよね、急にいなくなっちゃうなんてさ」
「♪礼儀をかく~でもそれは最初っかラ~」
「ふ、ふふ……ふふふふふふ」
非難する生徒二人に対し、教師は見てる側が心配になるような笑い声をあげていた。
「と、とうとうこの日が……待ちわびましたよ……。これで私はヴァレスの副学長の座に、ゆくゆくは王国直属のゴーレム製造部門の責任者として……」
「あの~」
「こうしてはいられないわ! 少し待っててください!」
言い残すと、アーシェラはジャックたちを置いて部屋を飛び出した。
「じゃあ、お兄ちゃんはしばらくここにいるんだね」
「ああ、アデルにもまた力を貸してもらうかもな」
「うんっ!」
「私たちも忘れないで欲しいかな」
「♪お前のビートを感じたいゼ」
「それにしても、アーシェラさんは遅いですね」
「年寄りを待たせるもんじゃないわい」
少しして、ジャックたちはエキドナ門に集合していた。副学長のカーティス、セシル、そして何故かアデルも呼び出され、アーシェラを待った。
「おぬし、ジーニアスとは会ったろう? 今のトゥトアスはかつてないほど不安定でおる。
気を引き締めて当たらねばならんぞ」
「わかってるよ」
「すべてが未知ですからね、それもまた、研究者としては興味深いところではありますが」
流石にヴァレスの首脳部ともなると、世界の変化に鋭敏であった。
「お待たせしました! ジャックさん! みなさん!」
ようやく、アーシェラは姿を現した。
かつて対決したメリッサのような巨体のゴーレムを予想していたジャックはいささか拍子抜けした、彼女が連れているのは、巨体でこそあるもののあくまで人間の範疇のであったからだ。
帽子をかぶり、ロングコートに身を包んでいるそれは、一見すればゴーレムには見えない。屈強なボディガード、ヴォイドのジョケルを痩せさせたような印象を受ける。
「メリッサ100号のお披露目です!」
「あれから100体も作ったのかよ⁉」
「♪正確には100体以上ウ~」
「アーシェラ先生たら、ヴァレスのみんなからお金借りてるのよ」
「しかも借金返してねえのかよ!」
「心配無用です、ジャックさん、あなたを倒して私のゴーレム技術を証明して、副学長、そしてラジアータのゴーレム製造部門の設立! 借金なんてあっという間に返せます」
「そううまくいきますかな?」
「まあ、ひとまず見んことには始まらんわ」
「皆さんはこの世紀の偉業の見届け人です。『龍殺し』をも上回るゴーレムの力、とくとご覧あれ!」
アーシェラは脇にどき、ジャックとゴーレムの対決が始まった。
「ー」
「おっ」
ゴーレムは素早くジャックの懐に入ると、殴る、蹴ると肉弾戦を仕掛けてきた。
ジャックはそれを捌きつつ、内心で驚嘆していた。
(アキレス……いや、カイン並か)
そればかりではなかった、口から冷気を吐き、掌からは光線を発射する。どれもメリッサⅠ号、Ⅱ号とそん色ない、否、それ以上の威力がある。
性能はそのままに小型化に成功したようだ。
「どうですジャックさん! メリッサ100号の実力は! 以前とは比較になら―」
回避と防御に専念しているジャックを見て、アーシェラの興奮が最高潮になった直後だった。
ジャックの漆黒の両手剣『ヴェルヴァーン』による一閃が、メリッサを薙いでいた。
「―?」
瞬間、メリッサの身体は3等分されていた。
「ない……い?」
何が起きたのか理解するのに、全員がしばらくの時間を要した。カーティスやセシルでさえ、ジャックの剣戟をとらえることができず、メリッサに不良が起こったのではないかと思うほどだった。
「確かにすげえや。でも、まだ……アーシェラ?」
「……」
「アーシェラ~? ……おい?」
「あ、先生気絶してるよ?」
結局、立ったまま気絶しているアーシェラをモーフ医院へ運ぶまでが依頼となった。
報酬も、メリッサ100号が勝利しての皮算用を当てにしていたらしく、彼女はまったく持ち合わせがなかった。
「嘘よ……こんな……メリッサ100号が……借金が……」
「はあ~」
目覚めても、アーシェラは現実逃避を繰り返すばかりで話が通じず、ジャックは徒労という報酬のみを受け取って帰路に着くしかなかった。