「お前……なんで……」
慌てて首筋から『アービトレイダー』を離したジャックを見て、
『リドリー』は眼を閉じた。
「ダメだったか……」
「おい!」
「ジャック、私はもういい……お前に、お前になら……終わっても……」
「何言ってんだよ⁉ てかここは……コロシアム?」
ジャックには訳がわからない。クラブ『バンパイア』へ行くつもりだったのが、何故かコロシアムにいる。
しかも、目の前には『リドリー』がいて、今一歩で手にかけるところだった。騎士団セレクションの日と錯覚していたような、幻覚を見ていた記憶もある。
「とにかくー」
と、ジャックは『見物客』に気づいた。騎士らが出入口、そして客席を固めているのだ。
「おいー」
怒鳴りかけて気づいた。いずれも、どうしたらいいかわからず、途方に暮れているのだ。
「ジャック……」
「おっさん……」
出入口を固めていた騎士たちの間から、ぬうとレナードが割って出た。
「な、なあ、どうなってんだよ?」
「お前また、何も憶えてないのか?」
また。その言葉で、大体のことをジャックは察した。
「リドリー……お前が呼んだのか?」
「ああ……」
少女は眼を開けた。
「お前に、討ってほしかった。けど、ダメだな……幻影を解かれてしまった」
「なんでだよ⁉ 大体お前……どうしちゃったんだよ⁉ ええ⁉」
「そうだな……幻影が解けてしまったなら……話しておこうか」
「ジャックさん‼ ……⁉ リドリーさんも……?」
「団長……」
「ガンツ団長、お久しぶりです……」
ガンツも姿を現した。誰かが呼びに行っていたのだろう。
「り、リドリーさん……なんですよね?」
「はい、団長……」
戸惑いながらも、ガンツはリドリーの傍までいって手を取った。
「また会えると思ってました」
「私もです……」
一時だけ、3人の間に和やかな空気が流れた。元祖『桃色豚闘士団』の再結成が成された瞬間だった。
「二人とも、聞いてくれ。私はリドリーであって、リドリーじゃない……」
「……ああ、わかってる」
リドリー・ティンバーレイクは、墓の下で永い眠りについている。他ならぬジャックが、その寝室へ案内したのだ。
「では?」
「金龍……トゥトアスの秩序の残滓といったところか……」
「待て待て待ってくれえ!」
突然の乱入者はジーニスであった。この青年には似つかわしくなく、昂奮した様子で騎士たちをかきわけて飛び込んできた。
「ジーニアス」
「リドリー嬢……本物だな」
「ジーニアス……」
彼女の側に身をかがめた彼は、昂奮を隠しきれずに一気にまくしたてた。
「ラークス殿から知らされた! 君は、君はやはりトゥトアスの秩序の回復措置なのか? であれば僕の推測は正しかったことになる! どうなんだ⁉」
「お、おい、落着けよ」
「さすがだなジーニアス……まさしくその通りだ」
震えさえ見せながら、ジーニアスは天を仰いだ。
「やはり……、僕は間違ってなかった……」
「なあ……、頼むからわかるように教えてくれよ……お前も、リドリーもさ……」