「む、そうだな……これはラジアータに関わる者全てが師って言置くべきことだ」
咳ばらいをひとつ、ジーニアスは語り始めた。
「ジャック、前に僕が語った内容は覚えてるな? 『リドリー』と『龍』たち……実際にはお前の姿を模してたが、それがトゥトアスの秩序の修正作用だという仮説だ」
ジャックは頷いた。
「それは正しかった、4龍による妖精の庇護、そして金龍銀龍による人類文明のリセット……長き時の中で続いたその秩序は、易々と破壊されない」
「人間により龍たちは斃れ、フォティーノによりクェーサーの目覚めは阻まれた。そして、フォティーノ自身すら……」
「リドリー?」
「ジャック、そこにいるのはリドリー嬢だが、同時に金龍の残滓でもあるんだ」
「なに?」
「トゥトアスの秩序は砕けた、だが、私は金龍としての務めを果たさぬわけにはいかぬ……」
『リドリー』の口調がいつの間にか変わっていた。瞳が虚ろになって、まるで操られているかのようだ。
「リドリー!」
「我が依り代となるはずの器を用いて、私は蘇生を果たした。だがー」
「それは不完全だった……」
またも、もとの『リドリー』へと戻った。
「金龍が蘇生を成した時、私とハップの意識も共に蘇ってしまったんだ」
「ハップ……」
ライトエルフの名である。かつてリドリーは死に瀕し、彼と『魂継ぎ』の儀式を行ったことで生還を果たした。
だが、同時にダークエルフ族長ノゲイラがアルガンダーズに侵され死亡し、リドリー本人も意識の混濁に苦しめられ、金龍の器と定められてしまった。
「なるほど……これまでの矛盾した行動は、意識の混線が原因だったんだな。金龍は滅亡のため、ハップは妖精族を救うため、人間へ攻め入った」
「でも、徹底されてなかった……。ギリギリだけど、俺たちは勝てた」
「リドリーさんがそうした?」
「虫のいい話だ……、かつては妖精族についた私が、人間たちを助けるために……」
『リドリー』はジャックの頬を撫でた。
「無用だったがな……、お前がいたからだ、ジャック」
「……ああ、『龍殺し』だからな」
「『龍』……黒い鎧の『ジャック』も、秩序の一部なのか?」
「私が望んだ……強く、共に隣りにいてくれる強き者として……
クェーサーの意志も反映されていたがな」
「だったら……、だったら、俺に言えよ、リドリー……」
「すまない……」
『リドリー』は微笑んだ。
「あの夜のようにできれば、よかったんだが」
瞬間、ジャックの心臓を氷の剣が貫き血管まで凍らせた。そうだ、あの世の少女の助けを自分は……。
「同じく残滓と言う事か……4龍はオーブに封印されている以上、別の存在だと睨んではいたが」
「それも全て滅した。妖精たちももう、立たない。残るは私だけだ……」
「私の力を持てば、人間を滅するは容易い」
再び、『金龍』の意識が支配したようだ。