「だが、器に悉く妨げられた……2つの魂を持ちし器……、誠、奇怪だ」
「『金龍』……さん、貴方は今も、私たち人間を滅亡させようと?」
「滅びは定め、トゥトアスの秩序なり」
「だが、銀龍フォティーノはそれに疑問を持ち、秩序を変えようとした。秩序が永遠不滅のものでなければならない理由はないはずだ。人間の文明の果てがどうなるかは、龍ですら見届けていない」
「……あやつと同じことをぬかす」
『リドリー』の笑みは酷薄だった。
「陰に陽、太陽に月、生に死、それが秩序」
「人間の文明を破壊するのもか?」
「人間の築きし塔が天に達す時、大地は死する」
「それが錯覚だと言ってるんだ!」
いつになく激しい口調でジーニアスは叫んだ。
「妖精と人間、龍とも共存はできるはずなんだ! トゥトアスはラジアータに留まらない、世界中を見通せば、きっと!」
「それをせぬが秩序よ」
「私も何度も問いかけたが、駄目だった」
「リドリー……戻ったのか」
「ああ……、要するにな、ジャック。残っていた金龍の思念が私を形作り……、再び戦争をしかけたんだ」
「……わかりやすいな、やっぱリドリーは頭がいい」
「お前が馬鹿なだけだ」
「言ってろよ、ちょっとは勉強もしたんだ」
「リドリーさん、それで、私たちは……これからどうすれば良いのでしょうか?」
「『金龍』を倒すしかありません」
感情を抑えた冷静な声が響いた。宰相ラークスが、ナツメを伴いコロシアムへ足を踏み入れた。
「ラークス様」
「ラークスさん……」
「ラークス卿……」
「リドリーさん……失敗してしまったようですね」
「ええ、申し訳ありません」
事情を知らぬ者には、意味不明なやり取りであった。ガンツにも、レナードにも、ジーニアスでさえも。
おそらく単純な学力ではこの場で最も劣るジャックが、『それ』に気づいてしまったのは皮肉としか言いようがない。
「ラークスさん……、俺に、リドリーを殺させようと……」
「はい」
あくまで、ラークスは冷静に答えた。
それまで息を呑んで見守っていた騎士たちに、どよめきが走った。ガンツも、レナードも動揺を隠せない。
「どうして⁉」
「止せ、ジャック。それを仕向けたのは私だ……」
「昨日、コロシアムに現れたリドリーさんは、私にこう持ちかけました」
時は遡る。
血相を変えたジュンザブロウの報告を受けたナツメは、決死の覚悟でラークスへと上奏した。
「私とレナード、選りすぐりの騎士たちで対処します」
当然、騎士団へ招集がかけられるものだと思い込んでいた。
ナツメの『リドリー』への感情は複雑である。(様々な意味で)敬愛するジャスネの愛娘であり、かつ彼の破滅の要因となった少女だ。
だが、それ以上に王国に敵対する立場にあっては放置しておくわけにはいかない。まして、大胆不敵にもラジアータ城に現れている。