ラジアータストーリーズ 龍の目覚め   作:ニシムラタカハシ

154 / 158
リドリー⑦

「ラークス様……」

 

「お久しぶりですね、リドリーさん……で、よろしいでしょうか」

 

 ナツメ、レナード以下数十名に護衛され、ラークスは『リドリー』の待つコロシアムへ赴いた。

 

 いずれも名にし負う騎士であるが、血の気の失せた、あるいはめぐりが良すぎた顔色を隠せなかった。

 

 何しろ目の前にいるのは、敵の首領にして『龍』に劣らぬ力を持つと囁かれる存在なのだ。元騎士の少女の姿をとっているのも、恐怖しか呼び起こさない。

 

「ご迷惑をおかけしております」

 

「ふむ、確かに色々と難儀しましたが……今はそれは置いておきましょうか」

 

 ナツメはラークスに感嘆していた。自分たちを一瞬で屠れるかもしれない相手を前に、些かの動揺もせず、あるいはそれを表に出さない。

 

「私をお呼びとのことでしたが、どのような用向きでしょうか?」

 

「はい、お話します……」

 

 『リドリー』は語った。自らが、秩序の修正力により金龍、ハップ、リドリーの混じり合った存在であることを。

 

 その3者の意志が競合した結果が、ある意味中途半端な形での襲撃となっていた。

 

 だが、それももう終わる。妖精たちに余力はなく、『ジャック』も倒された。

 

 残るは自分だけだ。

 

「投降の申し出ですか?」

 

「いえ、金龍とハップ……エルフの想いは消えない……こうして抑えていてもいずれはまた……」

 

「それでは?」

 

「まだ、私が私であるうちに、終わらせて欲しいのです」

 

 ナツメの目が見開かれた。つまりは、介錯を求めているのだ。

 

「……率直に申します。それならなぜ、ラジアータ城へ?」

 

 ラークスの問いは冷厳であったが、理に適っている。それなら、自身で『実行』すれば良いだけだ。

 

「できないんです……」

 

 弱弱しく、『リドリー』は微笑んだ。

 

「この身体は、私だけのものではないから……」

 

「……ジャックさんですね?」

 

 初めて喜びを見せ、彼女は頷いた。

 

「最後に、ジャックに会いたい……」

 

「私が言うのもおかしなことですが……彼は応じないと思いますよ。むしろ……」

 

「だから、ジャックにはそうと知らせずに……、幻想の中で……」

 

「ジャックさんが喜ぶと?」

 

「怒って……恨むでしょう……でも……」

 

 ゆっくりと、『リドリー』は胸に手を置いた。

 

「ジャックなら……私は……」

 

「ジャスネ様には、お会いに?」

 

「はい……もう、思い残すことは……」

 

 結局、ラークスは『リドリー』の提案を呑んだ。

 

 帰還したジャックに休息と称して猶予をやり、『リドリー』の力で催眠状態のまま誘導、彼女を倒すという策を取ったのだ。

 

 当然、多くの異論があった。ナツメでさえ反対し、王からも戸惑いの上で何度も確認をされた。

 

 それでも、ラークスが押し通したのは彼の冷徹なまでの危機管理能力からである。この方法が成功した場合、最後の脅威である『リドリー』を犠牲なく倒すことができる。

 

 そして、予想されるジャックの悲嘆と関係の破綻についても、処理できると計算したのだ。

 

 我に返ったとき、ジャックは間違いなくラークスへ不信感を持つ。だが、それでも反逆を起こしたりはしない。その『信頼』が確かにあった。

 

 もし、失敗した時も同様である。ラークスは確信していた。

 

 

「私は彼女の願いを聞き入れました。ジャックさん、貴方に手を汚させようとしたのです」

 

 一瞬、コロシアムの壁にひびが入り、騎士たちがよろめくほどの怒りを内包した殺気が広まった。

 

 『龍殺し』が、宰相に向けて恐らく生涯最大の怒りを放出している。

 

 平静だったのは、当人らとジーニアスくらいのものだった。

 

「……はあ」

 

 だが、その充満する殺気も瞬時に搔き消えた。ラークスの予想通り、ジャックは彼の正しさを理解し、ここで怒りを発露したとてどうにもならないとわかっていた。

 

 それが成長であるか妥協であるかの区別はつかなかったが。

 

「龍の力はそんなに凄まじいのか、いや、催眠状態に陥らせることなど容易い……」

 

「ジャックさん……」

 

 ジャックは『リドリー』を抱きかかえ、コロシアムの外へ向って歩き出した。

 

「ジャックさん⁉」

 

「おい、ジャック! まだ僕は聞きたいことがあるんだぞ!」

 

 ジャックは答えない。

 

「お、おい、お前……」

 

「何をする気ですか? ここからはー」

 

「ジャックさんを通してあげてください」

 

 立ちはだかるナツメとレナードを、ラークスの鶴の一声が叩いた。

 

 流石に一瞬ためらったものの、騎士である以上宰相の命令には逆らいようがなく。少女を抱えた青年を通した。

 

「ジャックさん、もう戻れないのです。ジーニアスさんの予測は正しかった。トゥトアスの秩序の残滓を認めれば、また同じことが起こります」

 

 突き放すでもなく諭すでもなく、ラークスは彼へ呼びかけた。

 

 ジャックは答えず振り向くこともなく、そのままコロシアムを出て、城の外へ向っていく。

 

 慌ててガンツとジーニアスが後を追うが、ラークスは騎士たちには行動を起こさせなかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。