城の外に出たジャックは、『白夜の都』を思い出していた。あの時もリドリーを抱いて……だが、今彼女は生きている。
「止めろジャック」
「とりあえず、どっかで落ち着こうぜ」
ジャックは歩き出した。ガンツとジーニアスが追い付くが、その異様な雰囲気に、ガンツは言葉をかけるのがためらわれた。
「金龍、ハップの記憶も知りたい。秩序が作られる以前の歴史や、太古の妖精時代のことも記録したいんだ」
ジーニアスは、そうでもなさそうだったが。
ジャックはそんな二人を無視していた。というよりも、『リドリー』しか見えていなかった。
「遠い遠いところでさ、そこならお前が暴れても大丈夫だろ」
「わかってるだろ、ジャック……私は……」
「俺強くなったからさ、『龍殺し』だぞ?」
「ジャック……」
「ここじゃさ、みんなどうしても怖がっちゃうから……な?」
門へ向けて、粛々と歩いていく。もう夜も遅い時間であり、流石に人気は少ない。
だが、皆無ではなく、『ヴォイド』の張っていた根に足をとられずにいることは不可能であった。
「あれれ~、ジャックったらお熱いー」
ひょこっと顔を出したヘルツが、『リドリー』を見つめて神妙な顔になった。流石の彼女も、城内で起きていることをまだ知り得ていない。
「ごめん、今ちょっと……」
「ん~、訳アリ? ならしょうがないっか」
ひらひらと手を振って、ヘルツは去っていった。当然、オルトロスに報告するのだろう。
「ジャック……」
「大丈夫だって、リドリー」
あくまで、ジャックの声は優しい。
夜の街を行き交うのは大人たちだった。『桃色豚闘士団』に参戦していた者たちの姿はない。そもそも、長い任務から戻って休息をとっているはずなのだ。
ジャックも、そうだったのだが……。
「うい~、あ~、嫁さん欲しい~」
「げっ、隊長」
「ん~、なんだあ、ケッ、女連れかあ~」
出来るだけ早くその場を去りたかったが。泥酔したジャーバスはそれを許さない。
「騎士様は違うよなあ~」
「呑みすぎだよ隊長……」
「いいか、よく聞けよおジャック……」
ジャーバスは『カンちゃん』でいつものように痛飲し(ツケ)、ギスケに叩きだされて虫の居所が悪かった。
『ヘクトン』は相変わらず依頼無沙汰で、日々貧窮にあえぐ彼は酒に逃げるしかない。
「お前ひとりでなあ、何でもできると思うんじゃないぞお」
「わかってるよ」
「『龍殺し』だなんて言ってなあ、一人で全部……大隊長や副長の助けもあって……うええっ、気持ち悪い~」
ふらふらと、ジャーバスは去って言った。
大出世を果たした元部下への恨みつらみが、酒も手伝って口を突いて出た。それだけだ。
そしてそれが、ジャックの人生の一部に大きな変化をもたらした。