蘇りし『龍』は討たれ、妖精たちも抵抗を止めた。ドワーフとは以前のような平和的外交の道が模索され、グリーンオーク、ブラックゴブリンとも和平が結ばれる予定である。
危機は去ったのだ。
そう布告があったのは、ジャックが『リドリー』を抱いて城を出てから数日後であった。
多くの人々は、訪れた平和に歓喜し、また新たなる時代にあっての道を模索し始めた。妖精らとの交易が復活するなら、巨大な富と利権が生れるはずだ。
貴族や重臣、『ジェフティ』らは奔走し、ワークは新たなドワーフの武器が入って来ると喜び勇んだ。
次の英雄を目指していたデイヴィッドやフランクリンは肩を落とし、アリシアの胸にはまた劣等感が湧いていた。
いずれも、ジャックがそれを成したことを疑いもしなかった。
事実、成し遂げたのはジャックだ。ただ、その胸に去来するものが栄光でも喜びでもないと知る者は少ない。
「それじゃ、行くわよ」
「うん、気いつけて」
「いい? しっかり掃除洗濯をするのよ。他の子にやってもらうなんてダメなんだからね」
「わかったよ」
その日は、エアデールの出立日だった。相変わらず口うるさい姉に閉口しつつ、ジャックは唯々諾々と小言を受け容れた。
「ラークスさんにも挨拶したかったんだけど、忙しいみたいね」
「うん、色々あるって」
「失礼のないようにしなさいよ。お父さんの上司でもあったんだから」
「わかってるってば」
「それから、たまには家に帰って来なさい」
「……うん」
姉を見送り、ジャックはそのまま自室に戻らず、とある場所を目指した。
「ジャックさん」
「団長……ジーニアスにクライヴも」
「僕は仕方なくだ」
「何か知らんけど呼ばれただあ」
リドリーが、そして『リドリー』も共に眠る丘の一角。先客がいたのか、真新しい花が供えてあった。
ジャックは、膝をついて祈った。あの日、ジャックが決断を下した末『リドリー』は消滅した。
『アービトレイダー』でその胸を貫いたとき、確かにあった感触は消え、後には粒子が舞い……空へ溶けた。
埋葬すべき肉体もなかったが、それでもジャックは『リドリー』を弔いたかった。
祈りを終えると、ジャックは立上り街を見た。
活気あふれ、一癖もふた癖もある人々が行きかう見馴れた光景。
『テアトル』では戦士たちが依頼をこなし、『オラシオン教団』では祈りと信仰を尊び、『ヴァレス』は科学と魔術を探求している。『ヴォイド』の深淵は、誰にも見通せない。
それが今、無性に腹立たしかった。