「行ってしまうんですか? ジャックさん」
「すいません、団長」
全ての決断はジャックがしたものだ。彼は『リドリー』より、ラジアータに生ける全ての人々を選んだ。
それは、かつてのように何も知らず翻弄された末ではなく、自我を押し通せるだけの力を得た末のもの。
そしてまた、失ってしまった。
多くの思い出を残して。
「好きにしろ、僕は新たなるトゥトアスの研究に忙しい。一つ言っておけば……お前の行動は間違いなく、人類を救ったぞ」
「およ、おめえまた行っちまうだか? せわしねえなあ」
楽しく、苦しく、悲しく、忘れ得ない思い出を。
「ジャックさん、これから騎士団の再編成があるそうです。できれば一緒に……」
「大丈夫っすよ団長」
アーシェラの『ジャック』シリーズは何と『桃色豚闘士団』に配属されることが決まった。この戦いで見せた功績を評価され、史上初のゴーレムの騎士が誕生したのだ。
さらに、モルガンの『鎧』は改良を重ねて騎士団へ提供されることになっている。ついに砕けたとはいえ、『龍』と渡り合ったその性能はお墨付きである。
だが、何よりもジャックが残る方が皆に心強いはずだった。それを、青年は拒否した。
ラークスにも、エルウェンにもしっかりとそのことを告げた。
二人とも、黙ってそれを容れた。
「それに、また戻ってきますって」
「……わかりました、でも、忘れないでください。私と『桃色豚闘士団』はいつでもあなたを待っています。もちろん、リドリーさんもです」
「……はい!」
ジャックとガンツは固く握手を交わした。そして、『龍殺し』は人知れず王国を後にしたのだった。
「やあ」
「あれっ?」
団長たちの姿が小さくなり、消え、気を引き締め直そうかというとき、彼女たちと出会った。
ヴァージニア、ホリィ、ナギサ。異国三人娘である。
「挨拶もなしとは無粋なやつじゃ」
「水臭いですわよジャック様」
「ん~、そっか、やっぱ『ヴォイド』にはバレてたのか」
「みんな残念がってたよお、特に女の子たち……罪作りだねえ」
「と、ところでみんなどうして?」
「決まっている、帰してもらうのだ」
「はい?」
「ラジアータへやって来てから早幾年……とまでは行きませんが、そろそろ故郷が恋しくなってきましたわ」
「待て待て、ナギサはともかく、お前らはそんな簡単に……」
「ところがそうじゃないんだなあ」
ヴァージニアが、封のされた書類を見せた。
「宰相ラークス様からの新善書。これがあるとちょっと違う」
「……なるほどなあ」
ジャックはラークスの意図を察した。ラジアータを離れるこの機会を利用して、国交を結ぶ第一手を打って来たのだ。
3人娘へそれを託すという形で。無論、正式な依頼であり他にも様々な策を講じているはずだ。
「ワシらはお主のせいでここへ来た、よって、お主が帰す義務があろう」
「その理屈はおかしいけど……かなわないなあ」
こうなるとジャックと言えど苦笑するしかない。どれだけ強くなろうと、上には上がいるものだ。
「ま、いいか、どこにいくかも決めてないし」
「そういうことで」
「よし、まずはワシの家に……」
「いえいえ、私の故国へ参りましょう。正しき信仰が続いているか確かめませんと」
早速言い争いを始めたナギサとホリィに呆れるジャックに、ヴァージニアが悪戯ぽく囁いた。
「それで? リドリーくんについて教えてくれるかい? どういう関係なのかなあ」
「……」
大空を見上げる。澄み渡るような快晴だった。
「『桃色豚闘士団』の……一員さ。大事な仲間だ」
新たな世界の、新たな物語が始まろうとしている。
だがそれは、過去を消し去ったのではなく、綿々と続く思いを受け継ぎ続けるのだ。
世界が変わろうと、思いは変わらない。
これは、ラジアータの数多ある物語(ストーリー)。
ジャック・ラッセルが紡いだ中の、一つの物語。