スミロドンの牙を回収し、グラントへ引き渡す頃にはすっかり陽が落ちていた。
報酬は十分以上のものを得られたものの、コンラッドが無意味に自分の功績を誇るため、ジャックとジーンは苛立ち、ワルターはひたすらに仲裁に回り余計な疲労を負う羽目になった。
ようやく解放され、今度こそ家に戻ろうとしたジャックは、アイテムが心もとないことに気づいて、『アイゼンハワー薬局』へ疲れた体を引きずっていった。
アイテムは常に最善の状態にしておく、旅の中でジャックがたどり着いた真理である。そのおかげで命を拾ったことも、怠ったために死にかけたことも何度もあった。
途上、その薬局の店長フリージア、フローラとヴィシャスが野良キツネを可愛がっている場面へ出くわした。これまた懐かしい光景であると共に、すっかり大きくなったばかりか丸々と太ってキツネというよりタヌキの体形となっているのが無性に可笑しかった。
「ジャックさん」
「よお、仕事帰りか」
「そんなとこ、お店はもうしまっちゃった?」
「あ、いえ大丈夫ですよ」
「回復アイテム、新しいのに取り替えて欲しいんだけど」
「はい、少しお待ちを」
店内に戻ったフリージアを待つ間、ジャックはふと空を見上げた。
星のまたたく夜空は、いつ見ても変わらないように見える。それに比べて、世界は、そして自分はどれだけ変わってしまい、また変わっていくのだろうか。
「何たそがれてんだよ」
「オレだって、色々考えたりするんだよ」
「バカの考え休むになんとかって知らねえのか?」
「なにをっ」
フローラはくすくすと笑った。彼女たちにとってジャックは、『龍殺し』ではなく、お気楽で調子のいい、元気な少年のままだったのだ。
「あららん? デートのお誘いかしら?」
「あ、お疲れ様ですジャックさん」
サイネリア、そしてミランダも加わり、ジャックの周囲はダニエルやフランクリンが歯噛みするような女子密度になっていた。
現に、ポールはその光景を盗み見ながら怒りに震えている。
「あっ、お兄ちゃん」
「あら」
「一杯集まってるわね」
ナルシェ、エレナ、アディーナも加わり、さながらオラシオン教団の一幕の様相を見せて来た。
「モーフ先生のところに、検診にいくところです」
「お兄ちゃん、ぼくね、お兄ちゃんみたいに強くなりたいんだ」
「おう、このジャック様はめちゃくちゃ強いからな」
「ナルシェ、お勉強もちゃんとしないとダメですからね」
「どういう意味だよっ」
「強くてもバカじゃダメってことよ」
淡々としたアディーナのツッコミに、ビシャスが大笑いした。
「そういえばモーフ先生が馬鹿に付ける薬を作ったっていってたわ。使ってみます?」
「絶対いやだ!」
「お兄ちゃん、強くなるにはどうしたらいい?」
「簡単、鍛えて休んでよく食う。それとな、どうして強くなりたいかってモチベーションも大事だ」
「う~ん、お姉ちゃんたちに恩返しがしたいんだ、ずっと、ぼく迷惑かけっぱなしだったから」
「なら、エレナとアディーナを絶対に守るんだ、絶対にだぞ。そうすれば、もっともっと強くなれる」
「うん!」
「いくら強くっても、やりたいことができないんじゃ楽しくないからな」
ふと降りた重い空気が全員を包んだ。ジャックのアドバイスはありきたりで、かつあまりにも切実な思いが込められていた。
「お待たせしました」
「お、サンキュ」
知ってか知らずか、ジャックは薬局から出て来たフリージアからアイテム袋を受け取り、代金を渡すと帰っていった。
「ぼくももっと頑張るよ」
それを知らないナルシェは、憧れの『龍殺し』のアドバイスに無邪気に張り切っていた。