ラジアータストーリーズ 龍の目覚め   作:ニシムラタカハシ

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チーム・アハト④

 懐かしの我が家で睡眠を貪っていたジャックは、階段を下りて来る何者かの足音に目を覚ました。

 

「開いてるよ」

 

 ベッドに腰掛け、ノックされる前に声をかける。

 

「どしてわかったんすか?」

 

「ソロ?」

 

 ヴォイドの構成員、ソロである。如何にもな悪人面とは裏腹に気が弱く、アルマとは別ベクトルで盗賊には向いていない青年だ。ヴォイドには間違って入ってしまって、気の弱さからそれを言い出せずいるという噂もある。

 

「旦那、お帰りなせえ」

 

 へりくだった上目遣いでソロは挨拶した。

 

「うん、それで、どうしたの?」

 

「実は、旦那に依頼がしたくて……」

 

 

 

 

「にゃはは~本日は大サービスよ~ん」

 

「え~、出張ヴォイドサービスのご紹介っす。中々頼みづらいあんなことやこんなことも、ヴォイドだったらなんでも解決っす」

 

「7番テーブル、キバマンモーのソテーだって」

 

「うおおお! 任せろー!」

 

 『紅蓮京』のパーティルームはまれに見る盛況ぶりだった。ヴォイドはもちろん、サルビア、シルビアといったクラブ『ヴァンパイア』の面々が総出で、怪しげな相談所や臨時のバー、出店を開いている。

 

「今日の君は一段と美しいね」

 

「ありがと、もう一杯いかが?」

 

「いただくよ、君の淹れてくれる一杯はこのうえなく―」

 

「それでね、どうしてもこの素材がいるのよ」

 

「相応の金させもらりゃなんでもやるわよ」

 

「んー、イイ男には期待できそうにないわねえ」

 

「♪クールなフンイキだゼ」

 

「ムヒヒッ、いい素材が揃っとるのう」

 

 一角では、ヴァレスの面々が好き勝手にくつろいでいた。

 

「おいおい、顔が赤いぜ? 少し見ねえ間にガタが来たんじゃねえか?」

 

「ほざきやがれ、てめえこそふらついてやがる」

 

「うい~、ダニエル、もう一杯もらってこ~い」

 

「呑みすぎだよ隊長」

 

「バッカ野郎、飲み放題で飲まねえバカがどこにいるんでえ~」

 

「こういうところは落ち着かん」

 

「何事も勉強だぞ」

 

 ジェラルドを始めとした、テアトルの面々の姿も見える。

 変装しているつもりのようだが、オラシオン教団のドワイトやグラントも見え隠れしていた。

 

「みんな~ありがと~」

 

「サイコーだぜ!」

 

「アンコールだど~」

 

 ステージでは、今しがたナミ、すなわちコーネリアの幕が終り、ジェイドとジョケルが歓声を送っていた。

 

「続いて、ピーキィ……のパヤパヤダンス……」

 

「ハアーイ! お・ま・た・せ~‼」

 

 気だるげなリーリエの司会で、ピーキィが躍り出て十八番のダンスを披露する。

 

「う~ん……」

 

 渦中にあって、ジャックは難しい顔で唸っていた。

 ソロの依頼を受けたはいいが、まさかこのような流れになるとは予想していなかったからだ。

 

 ソロから頼まれたのは、客引きであった。

 『紅蓮京』のステージでは毎夜ライブが行われている、ナミやヘルツ、ピーキィ、時には変装講座のようなワークショップも開催されており、ここから有名になった者も数多い。

 

 そんなステージに、ソロはいつしか出場するのを夢見るようになった。もともとは、ジェイドのようにナミのおっかけをしていただけなのだが、何かのきっかけで自分が歓声を浴びる立場になるのを欲したらしい。

 

 だが、気弱なソロには至難の業だ。ステージは代金さえ払えばだれでも立てるものなのだが、踏ん切りがつかない。歌や踊りに自信があるわけでもなく、呼ぶ人の当てもない。

 そこで、ジャックの出番である。顔が広いうえ『龍殺し』の名があれば、絶好の客引きになるだろうと画策して宣伝を頼んだのだ。

 

 結果は十分以上だった、場所が場所だけに誘わなかった、ナルシェらお子様やオラシオンの関係者を除けば、あちらこちらから、それこそジャックが声を掛けてない者の姿も多くあった。中には城の関係者もいるらしい。

 それを当て込んで、オルトロスが出張ヴォイドサービスを派遣したほどである。

 

「大丈夫かな……」

 

 ただ、ジャックが心配なのはソロである。

 これほど大人数で、しかも酒と熱気で昂奮している客たちの前で、あの気弱なソロがライブなどできるものだろうか?

 

「ねえ」

 

「うおっ、お、リーリエ、どした?」

 

「次……ソロの番」

 

「もうそんな時間か……んで? 呼んでくりゃいいじゃん」

 

「いないよ」

 

「は?」

 

「ソロがいない」

 

「いないって……」

 

「逃げたみたいだねえ」

 

 ヴォイドの忍びこと、イオンが口添えした。

 

「逃げるって……え?」

 

「多分、この人出が恐くなったんだろうねえ。さっきまで青い顔して控室に座ってたんだけど」

 

「ええ~? マジかよ」

 

 呆れと納得が同時にやって来る。実はどこかで、あり得そうだと危惧していたのだ。

 

「どうする?」

 

「どうするも何も、いないんじゃどうにも―」

 

「おりゃああ!」

 

 突然、ジェラルドの怒鳴り声と大きな物音がステージに響き渡った。

 

「どした! そんなもんか!」

 

「ワシをなめるなよ、こら!」

 

 ジェラルドとノクターンが取っ組み合いの大喧嘩を始めたのだ。悲鳴をあげて逃げる者、はやし立てる者、止めようとする者、同じように喧嘩を始める者。あっという間に大喧噪が巻き起こる。

 

「じゃ、ジャック!」

 

「ダニエル、どうしたんだ!」

 

「ふ、副長とノクターンがお酒の飲み比べを始めて……それから腕相撲勝負になって、そのままケンカに―」

 

「うおお~! 俺の嫁さんになってくれ~!」

 

「は、離しなさい! 呪いをかけるわよ!」

 

「死体はワシにくれ!」

 

「ちょっと、殺し合いは外でしておくれ」

 

「隊長~」

 

「嫁さん欲しい~!」

 

 酔いつぶれたジャーバスはモルガンに抱き着き、ガレスらが引き剥がしにかかっていた。

 興奮したアーネストはギターを弾きならし、喧噪に彩を添える。どうしたらいいかわからず、とにかく暴れ出したジョケルを止めようと飛びついたピーキィらは振り回され、場はますますヒートアップしていくのだった。

 

 

 

 結局、夜通し喧噪は続いて、レナードら騎士団が呆れながら突入したことでようやく収拾がついた。

 ジャックを始め、テアトルからの参加者はエルウェンからお叱りを受け、禁酒令が布告される羽目となった。他のギルドの参加者にも同様の措置が取られたが、肝心のヴォイドのメンバーは騎士団の介入前に退散しており、思いがけない臨時収入を静かに祝っていた。

 

 ソロはその後3日ほど行方不明であったが、いつの間にか戻ってきて、今度こそはと再びライブ開催を夢見る日々だという。

 

 

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