その加勢者は音もなく現れた。
黒い鎧に身を包んだ、小柄な人物だ。背丈から見るに、ダークエルフであろうか。オークらにしては小さすぎ、ゴブリン、ドワーフにしては大きすぎる。ライトエルフなら羽が生えているはずだが、それも見えない。
「救護者以外は続けー!」
「我らも力を見せつけるのだ!」
ジャックの活躍に勢いづいたのか、砦から出て来た騎士たちが、黒い鎧の人物に突撃していった。
「待てー!」
ジャックの叫びは、騎士たちが無残に骸と化してから、無常に響きわたった。
黒鎧の人物が、目にもとまらぬ速さで大剣を振るって、騎士たちを一蹴したのだった。
シーザーの『血滑り』に似た、東の国で『刀』と呼ばれる形状の剣だ。重武装の騎士たちの鎧を、薄皮のように斬り捨てた。
「くそっ!」
ジャックは黒鎧と斬り結んだ。数度打ち合うだけで戦慄が走る、この相手は、手加減できる相手ではない。
「このっ!」
「……」
尋常な腕ではなかった。これほどの力を感じたのは、大隊長エルウェン、ガウェイン、そして夢かうつつかわからぬ中で出会った強者たちだけだ。
恐ろしいのは、黒鎧の目的がジャックらの打倒でなく、ブラックゴブリンたちを逃がすためであることだった。
ジャックを足止めしつつ、ブラックゴブリンたちへ追撃せんとする騎士たちをけん制する。それでいて、互角以上に打ち合っている。
ほどなく、ゴブリンたちはどうにかその場から撤収することに成功した。
「タスカッタゾ、ジャック」
「アトデメシオゴッテヤル」
黒鎧は全員の撤収が終わった時点で、ジャックの相手をやめて背を向けて逃げ出し、深い森の中へ姿を消した。
「はあ……はあ……」
ジャックは、ようやく双剣から手を離して、黒鎧が消えた方向を見つめた。
あのままやっていれば、勝てたかわからない。それほどの力量を感じていた。
そして、その名。
単なる偶然……とは思えなかった。復活した龍、そしてリドリーの影、己と同じ名を持つ、妖精に与する者。
何かが、恐ろしい何かが起こっている。
そう予感せざるを得なかった。
不吉な予感と向き合う間もなく、ジャックは傷ついた騎士たちの介抱に奔走させられ、その後は、王国からの増援がやってくるまで、見張り役として砦に張り付かざるを得なかった。
ブラックゴブリン、そして黒鎧と立て続けに襲撃を受け、もしも再襲撃があった場合、対処できるのはジャック以外にいなかったからだ。
ことに、チャーリーはすっかり震えあがってジャックの傍を片時も離れず、ただでさえ混迷を極める砦に悪影響を与えていた。