騎士団の増援と入れ違いで、ようやくラジアータに戻れたジャックであったが、すぐさまにアルからラークスの元へ出頭するように伝言を受けた。
「くれぐれも、失礼のないようにな」
「うっせえよ」
げんなりしきったジャックであったが、雇用主には逆らえない。
執務室へ通され、ラークスがやって来るまで待つこととなった。
「お待たせしましたジャックさん」
「久しぶりですね」
「あれ? ナツメも?」
「ナツメ将軍とお呼びなさい、ジャック副団長」
凛としてナツメが言った。
麗しい外見に似合わぬ剣の腕と頭脳で騎士団団長に昇り詰め、ダイナス亡き後の将軍の地位に若くしてつくだけの実力を持つ女騎士である。
「一緒に話を聞いてもらった方が早いと判断しました。さて、まずはヘレンシア砦の防衛をありがとうございます。あなたがいなければ、陥落していたとレナードから聞きました」
「うっす、頑張ったっす」
「特別報奨金を出しましょう。それから……黒い鎧の男とも遭遇したそうですね」
「あ、はい……男なんすか、あいつ?」
「あくまで、仮にそう呼んでいるだけです。現在のところ、あの者の性別も、そして種族もわかっていません」
「確かなのは、妖精の味方であるということだけよ」
ジャックは頷く、ブラックゴブリンたちに加勢し、彼らの逃亡を助けた。
「これまでなんどか目撃情報もありましたが……参戦したのはこれが初めてです。
いかがでしたか?」
「めちゃくちゃ強かったっすね……エルウェン大隊長クラスです」
「そうですか……」
ジャックは、黒い鎧の男が『ジャック』と呼ばれていたことは言わなかった。聞き間違いかもしれないし、積極的に伝えたいことでもなかったからだ。
「龍……かもしれませんね」
「え?」
「お忘れですかジャックさん? 地龍ボイドはドワーフの、火龍パーセク、銀龍……ルシオンは人間の姿をしていました」
ジャックは、はたと手を打った。すっかり忘れていたが、龍は姿を変えることも出来るのだ。なるほど、あの黒い鎧の男が龍であったならば、あの力も納得ができる。
「ラークス様、皆に注意を喚起してはいかがでしょうか?」
「逆効果でしょう、余計な動揺を与えるだけです。むしろ、戦う前から戦意を喪失させる結果にもなりかねません」
「ですが……」
「それに、その者が龍と決まったわけでもありません。強者の妖精や、人間である可能性もあります。もう少し調査を要しますね」
「人間?」
「リドリーの件も、ありますからね」
ジャックは何も言えなかった。
「ともかく、黒い鎧の男の正体が誰であれ、相対できるのはジャックさんを始めとして数人といったところでしょう。その時は……お願いします」
「うっす」
「また、ジャックさんの方でも、その男とリドリーらしき人間の正体を探っていただきたい。騎士団とは違った視線から迫ることができるでしょうから」
「うわ、結構大変っすね」
「当然ですね、それが仕事ですから」
「なんだよ、感じ悪いな」
「当たり前です。肝心な時に姿をくらまして、どれだけ私たちが……」
ジャックとナツメの間で始まりそうな口げんかを、ラークスはやんわりと、しかし有無を言わさずに制止した。
「おやめなさいナツメ」
ナツメは押し黙った。
流石のジャックも少しばかりばつが悪く、それ以上の口答えもせずに、執務室を後にした。
妖精に味方する、自分と同じ名を持つ謎の黒い鎧の男。
気にならないわけがなく、ジャックの頭の中にはその黒い影が浮んで消えなかった。
ジーニアスならば何か知っているのではとヴァレスに寄ってみたが、その姿がここ数日見えないとの返答がレオナから返ってくるだけだった。
「あ~」
悩み事が多すぎる時どうするか?
ジャックは経験則から、食って寝て備えるを実行した。