「ああ、ジャックさん」
「ふむ、久しぶりだな同士よ!」
『テアトル』に戻った早々、ジャックはスターとセバスチャンに捕まってしまった。
「懐かしいな、共に『龍』と闘った日々……戦友との再会は嬉しいものである!」
「嘘つくんじゃねーよ! お前と『龍』なんか倒してねえ!」
自由騎士を自称する、目下騎士団試験落第中のへっぽこ戦士スターは、『テアトル』の一室へ転がり込んで、掃除や工事のバイトで糊口をしのぐラジアータ3大奇人の一人である。
ジャックの仲間ではあるが、一方的に加入してきたうえ、『龍』を討伐した場にはもちろんいなかった。
セバスチャンは、そんなスターの実家、名門貴族シュテルン家がスターに与えた執事で、自立型ゴーレムである。礼儀正しく、実力もそれなりに備えているが、スターを盲信しているためにそれが一向に活かされない。本人としてはスターの傍にいるだけで満足らしいが。
「さて、ジャックよ、貴様なら我がスター隊に加えてやってもよいぞ」
「は? 隊?」
「はい、スター様はその功績を認められて、隊を任されているのです」
「勝手に言ってるだけだぞ」
タナトスが訂正した。
「が、吾輩の隊に入るにはそれなりに実力を示してもらわねばならんな」
「いや、俺入るなんて一言も……」
「試験として、我が隊室を不法占拠する不届き物を討伐せよ!」
「人の話を聞け!」
「ジャックさん」
セバスチャンが手招きして、部屋の隅でそっと耳打ちする。
「実はですね、部屋を取られてしまったんですよ」
「は? 誰に?」
「それが、私と同じゴーレムになのです」
「はあ? ゴーレム?」
ゴーレムと言えば、アーシェラである。
「先日、スター様が里帰りなさったときなのですが……お父様が『ヴァレス』のゴーレム研究の第一人者に頼んでおつくりになった、ゴーレムを勝手に持ち出されてしまったのです」
当たらずとも遠からず、やはり、アーシェラの関係していることだった。とはいえ……
「実家のものならまあ、スターのことだしいいとして……前みたいに、ヤバいやつなの?」
かつてスターは、同じように実家から物を持ち出し、騒ぎを起こしたことがあった。それに対処したのが、ジャックである。
「自立型の最新式ゴーレムなのですが……調整が不完全であったらしく、いう事を聞かないのです」
「それで部屋を取られちゃったのか……いいよ、行ってみる」
「おお! ありがとうございます」
「む、吾輩抜きで何を勝手に決めておるか⁉」
スター隊、もといテアトル地下に位置する二人の住処(不法居住)のドアを開いて中へ入ったジャックは、早速そのゴーレムと対面した。
「ん? どなたですかな、ノックもなしに」
アーシェラが関わっているとの話から、メリッサ100号のような人間に近いフォルムを想像していたジャックは、セバスチャンを巨大に、無骨にした、いかにもゴーレム然としたその姿に驚いた。
片手は回転銃になっていて、両肩にはミサイルポッドとレーザー砲のようなものがついている。
「おい、お前がスターたちの部屋を占拠してるゴーレムか?」
「占拠とは心外ですね、私、セバスチャン・マークⅡは、正当な手段をもってここを入手したのです」
「はあ?」
「この世は力、すなわち、強いものが全てを手に入れるのです。あの二人は私より弱い、なのにどうして従わねばならないのでしょう」
「また面倒くさい奴だなあ」
「ゆくゆくは、このテアトルそのものも我が手中に収めるつもりです。その準備がありますので、さ、お帰りを」
「はい、さよーなら……ってわけにはいかねえんだよ。スターの家のゴーレムなら、スターの言う事を聞けよ」
「断固拒否します。あのようなへっぽこになど……」
思わず同意しそうになるジャックだったが、ぐっとこらえた。
「じゃあ、百歩譲ってそれでもいいけど、ここはスターたちの部屋……でもないけど、テアトルのものなんだ、勝手に使うなよ」
「言っても分からないようですね」
マークⅡはジャックに銃口を向けた。
「体で教えてあげましょうか」
「……ま、そっちの方が早くていいか」
「その愚かしさの代償はすぐに―」
刹那、マークⅡの武装は全て叩き斬られていた。
「なっ!」
「おっと、動くなよ」
その上、『アービトレイダー』、『グラム』の双剣が付きつけられている。マークⅡが捉えられないほど速く、ジャックが攻撃を加えたのだ。
並の剣では傷一つ付けられない装甲を、容易く切り落としている。
「強い奴は好きなようにできる……のはいいけどさ、自分がそうされても文句は言えないぞ?」
「ば、バカな、この私がこうも容易く……」
「上には上がいる……ってこと。どうする?」
「く、うううう~」
(ある意味)優れたマークⅡの頭脳は、瞬時にジャックと自身の実力差を理解していた。
シュテルン家、そしてスターとセバスチャン、これまで出会った人間の実力から、自身は遥か上にいて、かつ賢いと判断して下克上を目論んだのは間違いではない。
だが、彼の世界は狭すぎた。
「ま、参りました」
「部屋を帰すか?」
「……そのように」
「う~む、やはり我が家は良い」
「ありがとうございます、ジャックさん」
スターとセバスチャンは取り返したわが家で早速くつろぎだした、こういうところは大物だなと、ジャックは変なところで感心を覚えた。
「ところで、こいつはどうすんの? スターの実家に返す?」
マークⅡのことである。
「よい、吾輩の隊へ組み入れよう」
「はあ?」
「今度のことで良くわかっただろう、吾輩にたてつくなど100万光年早いとな」
「いや、やったのは俺」
「下々の者に慈悲を施すのも吾輩の器量である、今後はしかと働くがよい」
「……わかりました」
「いいのかよっ?」
「屋敷にいては世界はわかりません……井の中の蛙であるのは私のプライドが許しません!
ジャックさん、あなたの動きを分析し、もっともっと高みを目指します!」
「まあ、いいけど」
こうして、ジャックの新たな仲間に、セバスチャン・マークⅡが加わるのだった。