スターらの一件を片付けた後、ジャックは家に帰って寝転んでいた。
疲れがあったわけではないが、依頼を受けたりどこかへ行ったりする気にもならなかったのだ。
「リドリー……」
何度目かわからない言葉が口をついた。
いっそ、妖精たちの住処へ突撃して、何もかもはっきりさせてしまおうかとも思う。
その一方、真実を知るのが恐いという感情もまたあった。もし、リドリーが復活していたとしたら、自分はどうするのか……。わからない。
そう、怖いのだ。
自分のせいで失ってしまった大事な彼女を、どうしたらいいのか。
どれだけ強い力を手に入れたとしても、覆しようのない過去の過ちに対しては無力である。
と、何者かの気配を感じた。かなりうまく、足音を消している。
「ちょっと~、いるんでしょ~?」
フラウの声だ。ジャックは脱力し、ドアを開けて盗賊娘と対面した。
「なんだよ?」
「あんたんとこの連中がちょっち面倒なことになってるからさ、教えてあげに来たのよ」
ジャックは、リンカとフラウを伴ってドーセ地方へ急いでいた。
「だからさ、あんたを呼びにいったのよ」
「ゴブリンか……」
フラウとリンカが仕事で遠出した帰り道、上級戦士デイビッドが率いる、テアトルのチーム・セプティモがゴブリンに襲撃される現場を目撃した。
といっても、盗賊ギルドは慈善団体でもなければ、戦闘集団でもない。加勢するわけでもなくその場を去ったわけではあるが、流石にそのままでは気まずいからと、ジャックに知らせに行った。というのが、フラウの話の要約だった。
「騎士団は近くにいなかったのか?」
「みんなヘレンシア砦に行っちゃってるからさ、他のところは手薄なのよ」
(一応)騎士であるジャックよりも、フラウの方が物知りのようだ。
確かに、ゴブリンは、オークやエルフに比べれば害は少ない方であったが。
「最近は妖精をよく見かけるようになった……案外、本当に戦争が近いのかもな」
「……」
リンカの言葉に、ジャックは答えなかった。
シャングリラにほど近い岩場で、ジャックたちは傷を負った一団に遭遇した。
「あれ? カルロスにローレック……フローラ?」
ジャックが面食らうのも無理はなかった。チーム・セプティモは、チームではあるものの、デイビッドのみが所属している隊だったからだ。
カルロスは決まったチームに属せず、牢屋番を担当。ローレックは同じくどこにも属せずにいる戦士で、どちらもお世辞にも技量が良いとは言えなかった。
フローラ、そしてよく見たらいるサイネリアに至っては、テアトル所属ですらない。
「ジャックさん! 私の危機を察して来てくれたのね! 感激だわ!」
「どういうこと? デイビッドは?」
「すぐわかる……」
「うおらあああああああ!」
奇声をあげながら、デイビッドが一同へ向かってやって来ていた。
双剣を振り回し、やたらめったら周囲を切り払っている姿は、どうも正気とは思えない。
「うおおおお! やったらああああ!」
「あ、ああ、き、来ましたあ」
「ゴブリンのパニックパウダーにやられてやがる、だらしねえ」
「ジャックさん、パパッとやっつけてください」
「う~ん?」
何となく話が見えてきたジャックは、突撃してくるデイビッドへ一撃を加えて、難なく彼を失神させた。
「フローラ、介抱してあげて。サイネリアは、二人を」
「は、はい」
「さっすがジャックさん、後は任せてくださいね」
ほどなく、デイビッドと二人は快復へ向かった。
「んあ? あ、てめえは……?」
「おっす、フラウとリンカが知らせてくれたよ。で、何があったの?」
「? 何かあったのか?」
各々から証言を聞き、ことの顛末がようやくわかってきた。
まず、フローラとサイネリアが、薬草収集の護衛をテアトルに依頼した。最近は妖精の活動も活発になっているからだ。
本当はジャックに依頼したかったのだが、デイビッドがそこへ強引に割り込んできた。
カルロスとローレックを(強引に)加えてチームを結成し、勢いに乗っていたデイビッドは、タイミングよくやってきたその依頼をデビュー戦にしようとしたのだった。
そうしてドーセ地方へやって来た一行だったが、運悪くゴブリンたちの襲撃を受けた。腕の立つデイビッドは容易く彼らを蹴散らしたが、パニックパウダーが直撃し混乱、味方へ襲い掛かったのだ。
フローラ、サイネリアとも治療技術を持っていたが、傷ついたカルロス、ローレックらを逃がすのにタイミングを逸し、危ないところでジャックらに助け出されたのだった。
「乙女のお願いを無視するなんてひどいです」
「タイミングが悪かったんだよ」
サイネリアは何故かジャックを責めた。
「ま、そういうわけで。義理は果たしたよー」
「じゃあな」
フラウとリンカはさっさと帰ってしまった。
「ちくしょー! 俺のデビューが!」
「帰ろうぜもう」
「ま、またゴブリンが来るかも」
セプティモの面々はいまいち嚙み合わない。どうにも急造チームらしく、連携が取れていなかった。
大山鳴動して鼠一匹、ジャックはどっと疲れて、一行をラジアータまで送り届けねばならなかった。
「ジャックダ……」
「ヤッパリソウカ」
「パイン?」
「リドリーニホウコクスルゾ」