「およ? おめえなんか用か?」
「お祓いしてくれ~」
ジャック(とナギサ)はモルガンと別れ、すぐさま『オラシオン教団』へ向かった。
彼女を問いつめても解決には結びつかず、ならせめて奇蹟へすがろうと判断したからだ。それでどうこうなるとも思えないが、やらないよりはマシであろう。
「そっちの子は誰だべ?」
「ナギサと申す」
「クライブ、カインはいないのか? フェルナンドかフローラでもいい」
「教皇様はお出かけだべ、司祭長はお掃除中だべ」
「お主はなにを?」
「ぼーっとしてるべ」
「どこにいるんだよ? 呼んできてくれよ」
「わかったべ、ちょっと待っててくんろ」
のんびりと答えて、クライブはフローラを呼びに行った。
思えば、どんな状況でもクライブはマイペースであった。決して悪い人間ではないが、有事に頼りになるタイプではないと断言できる。
「ここは神殿のようだな」
「『オラシオン教団』だよ、はあ、モルガンめ~」
今のところ体調に異変はない。が、鎧と一体化しているというはどうにも気持ち悪かった。
「ん~! アータ何してるのかしら?」
「げっ」
クライブがフローラを連れて来るよりも先に、アナスタシアとエレナ、アディーナが『教団』へ戻って来た。
従者はともかく、アナスタシア本人はこういう時に会いたい人物ではない。腰を浮かして逃げようとしたジャックだったが……。
「連れてきたべ」
「どうしました、ジャックさん?」
タイミングよく(悪く)、クライブとフローラが戻ってきてしまった。
旧体制派と新体制派、ジャックの連れている(彼女らには)見知らぬ美少女ナギサ、エレナらの詰問をどうにかかわし終えた頃には、ジャックはすっかりお祓いは後回しにして、帰りたくなっていた。
「そうだわ、丁度いいわね。アータからテアトルに伝えておいてちょうだい」
「何をだよ」
「アータシのすんばらし~パレードの警備依頼よ!」
「すごい人だね~」
「うむ、さすがは東方山猫家といったところだな」
「お金もいっぱいくれましたしね」
テアトルへの依頼、それはアナスタシアが当主を務める4大貴族の一角、『東方山猫(ライアン)家』
が開催するパレードの警備であった。
妖精戦争とそれにまつわる諸々で他家が勢力を落とした中、『東方山猫』は無傷で、一躍ラジアータ貴族のトップに躍り出ていた。
その地位を盤石にするべく、龍の復活、妖精との戦争の再開と世相に暗いものが漂う中、何するものぞと勢力を誇示しようと、パレードを計画したのだ。
アナスタシアは、騎士団を動員してよりその強さを印象付けたかったのだが、ラークス以下多数の反対にあって断念せざるを得なかった。そこで、テアトルに白羽の矢が立った。
財力の誇示と、妨害を見越してのことである。一強状態ではあるが、その分他からの突き上げに晒されることも意味しており、面白く思わない勢力からの横やりが予想された。
ジャックは、依頼をテアトルに伝えた。
エルウェン、ジェラルドらが協議の末、依頼は受諾され、最低限の人員を残し、テアトルの隊のほとんどがパレードの警備に駆り出されたのだった。
「デニスさん、パレードまであとどれくらいかしら?」
「まだ少しかかるようです」
「シーザー隊長、ガレスと俺はどうしましょう?」
「コンラッドくんはどこですか~?」
パレードは、城から『オラシオン』まで、アナスタシアが輿に乗って1周するというもの。
その間、何事もなく済ませるのが戦士たちの使命だ。
「いいかオメエら! 『ヴォイド』のやつらに好き勝手させるんじゃねえぞ!」
「「「了解!」」」
ジェラルドは燃えていた。
というのも、どうやら『ヴォイド』が対立貴族に雇われて、何か行動を起こすらしいとの情報が、『トリトン』からもたらされたからだ。
荒事となれば、当然ノクターンが出張って来る。彼が相手となれば、黙ってはいられないのがジェラルドだ。
テアトルの面々も、日ごろ対抗意識を抱いている『ヴォイド』の好き勝手させまいと、士気を高めている。
賑やかなパレードの裏には、し烈な権力闘争と、燃えるライバル意識が満ち満ちている。
それは、一つの戦争でもあった。