とはいえ、表向きこのパレードは、豪華絢爛なイベントということで、市民たちにとっては久しぶりの息抜きのイベントでしかなかった。
各店舗はセールを実施し、溢れかえる客たちを一人でも多く取り込もうと努力を怠らない。
パレードの通り道には出店が立ち並び、『ビギン食堂』や『カンちゃん』、『ヴァンパイア』の出張店舗が威勢よく呼び込みをしている。
ニットら子供ははしゃいで走り回り、ハワードたち農民も上京してきたのか、それぞれが思い思いに過ごしていた。
かなり遠方からやってきた者たちの姿も見えて、パレードの規模の大きさがうかがえる。
「焼きとうもろこしはいかがかね? まさしく絶品であるぞ」
「スター様の焼きとうもろこしは世界一なのです」
「はい、お釣り……なんで私がこんなことを……」
スターたちは、ここが稼ぎ時と店を掛け持ちして売り子のバイトに励んでいた。ゴライやブーチェの姿もある。
さて、ジャックも『アハト』として警備に参加していたのだが特に持ち場は与えられず、自由な裁量を任されていた。
「オメエにはそっちの方がいいだろ」
とは、現場責任者ジェラルドの言である。ラークスと同じく、どう扱えばジャックが一番力を発揮できるのか把握していたのだ。
というわけで、ジャックは通り道を確認しながら、出店で買い食い歩きを敢行していた。
仲間であるアナスタシアに危険が迫るなら全力で守るが、権力闘争といった背後にはそれほど関心はなかった。
故に、パレードが始まるまでは好きにしようという判断だった。
「お、クレープあんじゃん」
「まだ食べるのか」
隣で呆れているのはナギサである。テアトル所属でなく、ジャックからも特に呼ばれていない彼女だが、勝手にジャックについて来ていた。
「いいだろ、お祭りなんだから、クレープちょうだい」
「警備がお前の任務であろう……あ、わしにも一つ」
言いつつ、ナギサも結構パレードを楽しんでいるようだった。
厳格な家庭で育った彼女にとって、知り合いが一人もいないここは、己を偽る必要のない場であった。
名誉を守るためという大切な目的はあれど、この旅は生れてはじめてとやかく周囲に言われない自由な時間でもあったのだ。
「アナスタシアが出て来て戻るまで、ついてって何かあったら動くだけだよ」
「それはそうかもしれんがな」
「心配すんなって……やる時はやるよ」
その言葉はひどく重く響いた。
のんきに買い食い歩きをしているように見えて、ジャックは抜け目なく周囲を観察していたのだ。
イオンやヘルツの姿が裏路地で垣間見えた、どうやら波乱なき終わりは期待できなさそうだ。