「オホホホホー! アータシのお通りよー!」
アナスタシアを載せた輿が、城を出て行進を開始した。
豪華絢爛、周囲にはエレナ、アディーナら従者の他、ドワイトら派閥メンバーもおり、周囲を圧倒する輝きを放っていた。
着飾った使用人も多数控えており、彼女の権力をこれ以上なく誇示している。実際に、これだけの人員を動員できる財力と権力は圧巻だった。
「アナスタシア様、皆がアナスタシア様の美しさに釘付けです!」
「あーたり前よ! さ、アータシの美貌を目に焼き付けなさーい!」
注目の的であることは違いないが、美貌故にというのは無理があった。
アナスタシアはかなり『個性的』な容姿をしており、それは世間一般の美醜で判断した場合、美には傾かない方の容姿である。よって、集まるものは美貌でなく、権力、財力への関心なのだった。
当人は、そう指摘されても動じないだろうが。
さらに、続くのはアナスタシアを模した巨大なレプリカ像たちである。何も知らない者が見たら、何らかの異教の秘祭だと勘違いするだろう。
子供たちの中には引きつけを起して倒れる者もいて、様々な意味で忘れられないパレードになりそうだ。
ジャックとナギサは、アナスタシアの輿にぴったりついて進んでいった。
アナスタシアとジャックが顔見知りというのもあるが、『龍殺し』が護衛についているというのは大きな喧伝となるため、排除されずに自由を許されていたのだ。
「どっから来る……」
ジャックは、『ヴォイド』の襲撃を警戒していた。
仲間として共に過ごした者たちも多いが、だからこそ油断ならなかった。金を積めばなんでもやる、が彼らの本質であり、誇りとしてさえいる部分だ。
表向きのトップ、オルトロスの奸計も注意しなければいけない。
暗殺、という最悪の事態も想定せねばならなかった。
イリス、リーリエ、インタルードといった凄腕の凶手でも、戦って勝てる自信はあったが、暗殺を防ぐのは骨が折れそうだ。それこそが、『ヴォイド』の厄介さである。
パレードは『オラシオン教団』に到達して、アナスタシアのための小休止を挟んでいた。
輿に乗っているだけの彼女であったが、化粧が崩れたというので従者たちに直させているのだった。
「アータシの美貌を損なう事は許されなくってよ」
ドワイトらも思い思いに休憩をとっている。
ジャックとナギサは気を張っていたが、『ヘクトン』の面々とエレナとアディーナがドリンクを持ってやってきた。
「お疲れ様、お兄ちゃん」
「おう、そっちはどうすか? 隊長」
「うむ、特に異変はないな。副長は油断するなと釘を刺しているが」
「ジャックたちも一休みしたら?」
「パレードが終わるまでは、そういう訳にいかんな」
「あら、ご熱心ですね」
エレナの言葉にはトゲがあった。どうにも、ナギサが気に入らないらしい。
「『盗賊ギルド』の動きは?」
「少し前から姿が見えんな、仕掛けて来るならこれからかもしれん」
酒で失敗することも多いが、ジャーバスはそれなりの実力を備えている。
その読みは、ジャックも同意するところだった。
「暗殺なんてこと……」
「ええ⁉ アナスタシアさんを?」
「あり得るわね、敵が多いから」
アディーナが無感動に言い放つ。エレナと違い、アナスタシアへ特別の感情を抱かない彼女は、歯に衣着せぬ物言いをためらわなかった。
「とはいえ、これだけ目撃者がいる中で実行すれば『ヴォイド』自体にも何かしらの不都合がある。
むしろ妨害の方が……」
「アニキ~‼」
ジャーバスを遮ったのは、その『ヴォイド』の一員、アルマであった。
血相を変えて、息を切らしながらジャックらへと飛び込んできた。
「た、助けてくださいっす!」
「は? どうしたんだ……」
その答えは、悲鳴と空を飛ぶ人影によってたちどころに判明した。
光弾を撃ちおろしてくる無数の翼を有した妖精たち。
「ライトエルフ⁉」
襲撃者は、ライトエルフであった。